第61話 すれ違い

「シルビアさん、今、ロリア、と」


「・・・あ」


トキは、困惑した様に、


「・・・シルビアさんの事だから、事情が有るのだとは思いますが・・・確認しますが・・・ロリアですか?」


「・・・ああ、そのロリアだ」


トキが、怒りが揺れる目で、俺を見、


溜息をつくと、


「何も言いません。事情が有るのだとは思いますから」


トキはそう言うと、目を伏せる。

・・・失敗したなあ。


「一応・・・言っておくと。ロリアに、人類に危害を加える気はない。魔王化していた際にした事は、本意では無い・・・だから、俺は、ロリアを赦した」


「魔王化・・・」


トキは、目を瞑り、言葉を噛みしめる。


「・・・分かりました。私は、アレを許せませんが・・・確かに、自らの意志で無かったのも、事実なのでしょう。また今度・・・直接話させて頂けますか?」


「良いですよ!」


何故お前が答える、オトメよ。


「・・・あの・・・従魔のオトメさん・・・の声が・・・何故・・・?」


「分からん・・・ロリアなら分かるんだが」


「いえ、アレでもおかしいですよね。ひょっとして、NLJO起動中なのですか?」


「いや、オフラインだな。ロリアは──」


スマホの画面を見せる。


「フェルの妹か。初めまして、であるな。赦せとは言わぬ。取り返しのつかない事をしたのは理解しておるし、赦されるなぞ、望む事もできぬ身」


そこに映っているのは・・・頑張って似合わない、威厳を出そうとしているロリア。


(失礼ですね?!これでも、元は魔王軍の総司令官を務めた身、むしろ、シルビア殿に見せる姿が特別なだけですからね!)


・・・特別って・・・

うわ、なんか、嬉しい。

やっぱり、可愛いよな、ロリア。


(・・・!)


「・・・何でしょうか、威圧して来たかと思えば、嫌らしい笑みを浮かべて」


そう言ってやるな。

にやけそうなのを、必死で耐えているんだ。


(誰のせいですか?!)


(御主人様、マジぱねーっす。自分で危機に陥れておいて、にやにや愉しむとは・・・性癖歪みまくりっす。マジリスペクトっす)


にやにやしてないし。


「お姉ちゃんを・・・何故・・・何故・・・たくさんの人を・・・そんな事、聞いても無駄なのでしょうね」


「それが魔王だから、だ。すまないが、それ以外には無い。魔王化を許してしまった、私の弱さは事実・・・全霊をかけた抵抗は、容易に破られ・・・あとは、そなたも知っての通り」


ロリアは、目を瞑り、項垂れる。


「・・・ロリア・・・さん・・・」


トキは、俯き。

顔を上げ、


「やはり、私には、貴方は許せません・・・お姉ちゃんを・・・親友を・・・その手に・・・」


トキの嗚咽混じりの宣言に、ロリアは、無言で頷く。


(凄いです・・・!自分の姉が殺した親友に対し、姉を殺した冤罪をかけて・・・!親友を殺したって糾弾、凄いブーメランじゃ無いですか?!)


口に出すなよ。


(ロリアはロリアで、トキに謝罪しつつ、魔王化で仕方がなかったを強調する事で、万が一真実に気づいた時も、そのダメージが軽減される様にして・・・それを許さないとか言って睨むとか・・・凄いサイコパスですよ?!私、ワクワクが止まりません!!)


(頼むから、口に出すなよ?)


ロリアが、青ざめた声音で言う。


(それは、押すな、押すな、的なフリですね?)


違う。


(違う)


「少し時間を下さい」


トキはそう言うと、背を向け、


「逃げるのですか?」


オトメが、その背中に声を掛ける。

おい?!


「悔しくないのですか?ご主人様は、ロリアに夢中で・・・ロリアは幸せに・・・それで良いのですか?」


「・・・それがシルビアさんの選択であれば、私が口を挟む事ではありません」


「逃げるのですか?貴方が、ご主人様の目を覚まさせれば良いじゃないですか。姉の敵から、ご主人様を取り戻す・・・その勇気が無いのですか?」


「・・・そういう訳・・・では・・・」


トキが振り返り・・・バツが悪そうに、俯く。

・・・いや、多分、睨み付けようとしたんだろうけど。

オトメの声は確かにするんだけど、どこから声が出てるのか、さっぱり分からないんだよな。

距離どころか、方向すら分からん。

遠話?


「なら、ご主人様にその思いを告げれば良いのです。さあ」


「・・・」


トキは、俺を真っ直ぐに見て・・・そして・・・


「・・・あれ、そういう話でしたっけ?」


「いや、そういう話では無かったと思う。また手料理を食べさせてくれ、とは言ったが」


「・・・それは言いましたね。・・・あ。それで恋人がいるかどうか、という話になったのでしたっけ」


「ああ」


・・・ぐだぐだだな。


「・・・とにかく、今日はすみませんでした」


ぺこり、とトキが頭を下げる。

いやいや、料理は十分堪能したから。

オトメが散々迷惑かけたしな。


まあ、


「付き合ってくれる、って言っただろ?それで良いよ」


また今度、手料理を振る舞うのに付き合ってくれる、それで十分だ。

トキは、ぱちくり、と瞬きすると、


「はい、よろしく御願いします」


やや困惑した顔で、そう言った。

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