第60話 そういうのとは違う
「冗談?」
トキは、少し俯くと、顔を上げ、
「普段、カゲさん──夢守さんと食べに行く時は、何処に行くのでしょうか?」
「あまり行かないかな。3日前、近所のラーメン屋で食べたけど」
「ラーメン屋・・・?」
ラーメン屋を知らない?
今度連れて行こうかな。
あそこ、美味いんだよな。
「・・・まあ、入りましょうか」
トキが再び、歩き出す。
うわ、店内に入ると、みんなドレスかスーツ。
場違い感、ぱねえ。
止められはしないが、羞恥プレイ状態だ。
席に座り、ドリンクメニューを見て・・・
何だこれ。
ワインとかが、1杯で50万円とかするんだが・・・
安いソフトドリンクでも、5万円とか・・・どんなオレンジジュースだよ。
「ドリンク、決まりましたか?」
トキが尋ねる。
・・・まじか、此処から選ぶのか・・・
「・・・俺、お冷で良いよ」
「・・・そうなのですか?」
トキが不思議そうに、首を傾げる。
ボーイに注文を出し・・・
(5万円のミネラルウォーター・・・美味しいのでしょうか・・・気になります!)
ぐはああああああ。
ちゃんとメニューに乗ってやがる。
何だよ、5万円の水って!
新型ゲーム機買えるわ!
「こんな高級店で食事するのは、初めてだ・・・」
俺の呻きに、
「・・・世界有数の総合企業、そのナンバーツーが、何を・・・」
俺は自嘲気味に笑うと、
「規模が大きいだけの個人商店の延長だよ。庶民的な立場さ」
「夢守商事が庶民的だと、庶民的でない企業何てなくなってしまいますが・・・」
トキが、困惑した様に言う。
「まあ、味には期待しておいて下さい。値段以上の価値は有る、そんな店です」
トキが微笑む。
そ・・・そうか。
よし・・・気合を入れて食べよう。
ことり
最初に運ばれて来たのは、オードブル。
ぱくり
こっこれは・・・
普通だ・・・と言うか、美味しくは無い。
ニコニコしながらトキが見てくる。
「・・・美味しいね・・・」
言葉を絞り出す。
「どうして嘘をつくのですか?正直に美味しくないと言えば良いのに・・・不思議です」
オトメ?!
「あれ・・・お口に合わなかったですか?」
トキが困惑した様に聞く。
仕方がない・・・
「・・・そうだな。正直に言えば、微妙だ。月花が作った料理の方が美味しい」
「・・・月花ちゃんの料理は反則です・・・材料が何か分かりませんが、神への供物と言われても信じるくらい、美味しいです・・・」
トキが半眼で言う。
「あとは、正直に言えば、カゲがその辺のスーパーで買った食材で作った料理の方が美味しい」
「・・・カゲさん、料理上手なんですね」
「もともとは、カゲは家事代行の仕事だからなあ。それでどたばたやってたら、気付いたら総合商社モドキになってただけで」
「成長というより変化してますよね・・・あと、モドキじゃないですからね」
トップ企業の役員、というよりは。
所謂庶民、の感覚しかなかったりする。
世界の復興を助ける事と、自分達が生き延びること・・・ただひたすら、それに集中していただけ、それだけなのだ。
・・・そもそも、今となっては、美味しい物が食べたければ、NLJO内で食べれば良いしな。
そもそもの食材の、格が違う。
食材の持っている魔力だか霊力だか、そういうのだろうか?
超高レベルの魔物は、
せっかくトキに誘って貰ったが・・・
メインディッシュに至るまで、全般的に微妙ではあった。
無論、安い定食屋よりは遥かに美味しいのだが。
100万近い額を払う価値が有るか・・・と聞かれると、な。
「綺麗で、美味しい料理だったよ。店の雰囲気も良いしな」
「・・・すみません、次はきっと・・・満足させてみせます」
トキが、微笑む。
「今度、手料理を振る舞って欲しいな」
こういう高い店は苦手だ。
総資産に対して、大きな額では無いが・・・高い物は高いのだ。
100円のカップアイスで満足できる食生活なんだ。
「手料理・・・ですか?分かりました」
きょとん、とするトキ。
「毎日俺の為に手料理を作って欲しい・・・愛の告白ですね。ご主人様、大胆です!」
言ってない。
毎日とか言ってない。
愛の告白じゃない。
「・・・毎日・・・ですか・・・問題は有りませんが・・・」
いや、そこは問題が有るだろう。
「おい、トキ、今のは──」
「はい?」
トキが小首を傾げる。
「ご主人様、トキさんが毎日食事を作ってくれると言っているのに、不満なのですか?」
「いや・・・不満ではないが・・・」
そもそも、家事はサクラがやってくれているので、不自由は無い。
「とりあえず、1回お作りしましょうか。お姉ちゃんには好評だったんです」
トキが微笑む。
やっぱり、可愛いと思う。
じっと、トキが俺を見て、
「シルビアさんは・・・結婚されているのですよね?」
「してないぞ?!」
恋人もいねえよ。
(えっ・・・)
ごめん、ロリアは恋人だ。
(御主人様・・・?)
いや、オトメは恋人じゃないよね?
(オトメショーック)
何そのフレーズ。
「そうなのですか?カゲさんとは?」
「・・・カゲは、恋人というより、母親と言うか・・・仲間というか・・・戦友というか・・・」
「・・・そうなのですね。ところで、お姉ちゃんとは・・・?」
「前にも言ったけど・・・フェルとは、お互いに、恋愛感情は一切無かったよ。俺も、フェルも、そういうのとは違うから」
「えええ・・・」
(シルビア殿・・・)
どうした、ロリア。
「俺の恋人といえるのは、ロリアくらいかな」
(あ)
どうした?
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