第58話 破滅主義者

「それは当然だろう。動画を投稿しているのは俺達だからな」


トキは、ぱちくり、と瞬きすると。

数瞬、呼吸を置き。

非難するような目で、


「何もしないで下さい、って言いましたよね?」


「いや・・・エリアちゃんに対抗する為に──」


「小石を動かす為に、大陸を沈めるような事態になっていますよね?!」


・・・大袈裟な。


こほん


トキは、若干頬を赤らめつつ、咳払いをすると、


「・・・夢守商事が関与している、というのは私の勘違いだったようですね」


「いや、関与はしているぞ?」


「・・・まさか、夢守商事は・・・シルビアさんにも魔手を・・・?」


「魔手・・・?夢守商事は、社長がカゲ、副社長が俺だな。五英雄の影響力が強くなり過ぎないよう、独立した勢力を作っていただけだ」


トキが、固まる。


「あの・・・人類の試練・・・は・・・?」


「そんなもの、無いが・・・」


女神様は、ゲーム作るのに忙しいしな。


「気になります・・・恥ずかしい有り得ない妄想を全開に、ドヤ顔で言い散らかした挙げ句、全部が出来の悪い妄想だと気付いた、黒歴史の真っ只中・・・どんな気持ちなのでしょうか?」


「ひっ」


トキが耳まで真っ赤になると、顔を膝に埋め、隠してしまう。

おい、やめろ。


「今正に、失礼な妄想をぶつけ、恩人を疑った・・・それをどうして耐えられるのでしょうか?面の皮・・・いえ・・・むしろ、良心はどちらを向いているのでしょうか」


「おい・・・おい、オトメ」


口を塞ぐが、どこからとも無く肉声が出ている。

どこから声を出しているんだ?


「ごめ・・・ごめんなさい・・・」


トキが呻く。


「それに・・・御神の御心を疑うとは・・・不敬にも程が有ります。御神のお怒りを買って、人類を滅ぼすおつもりでしょうか・・・破滅主義者ですか?」


ぎゅむうう


オトメの口やら、色々押えるが、相変わらずクリアな音声が再生される。


「ごめんなさい・・・」


トキは涙を流し、嗚咽が混じる。

マジでやめい。

送還にも抵抗している。


ロリアは、トキに存在を知られる訳にはいかないから、出られない。

なら・・・ルナナ!

オトメをどうにかしろ。


こくり


ルナナが頷くと、


「大丈夫うさぁ。ご主人様は、大層な女好きうさぁ。その身をご主人様に捧げれば、赦されるうさぁ。六王が、ご主人様のハーレムだった事は有名うさぁ?」


うおおおおおおおい?!

何、出鱈目口走ってるんだ?!


「おい・・・ルナナ・・・?」


オトメを抑えつつ、ルナナを睨み・・・

ロリアに、何かに化けて出てもらうか・・・?


「そ・・・私が・・・この身体を差し出せば・・・」


「大丈夫うさぁ。天井の紙魚しみを数えていれば終わるうさぁ。痛いのは最初だけうさぁ。すぐに気持ち良くなるうさぁ」


「は・・・はい・・・」


トキの目に、希望の光が灯る。


「大丈夫じゃ無い。何を言っているんだ」


そんな天井嫌だ。

紙魚だらけの天井とか、超逃げたい。


「だ・・・大丈夫じゃ無いのですか・・・?」


「当然だろう」


俺は、半眼でトキを見る。


(・・・多分、話を整理した方がよろしいかと)


ロリアのツッコミ。

おおっと。


「トキ。とりあえず・・・不幸な誤解があったのは、俺は気にしてはいない。女神様は・・・まあ、バレなければいいだろう。気にするな」


「・・・はい」


トキが頷く。


・・・トキが解子。

レイがワン。

解子はレイの母親代わりで。

ワンは母親に止められていて。


なら・・・


「なあ、トキ」


「・・・はいっ?!」


あのなあ。

露骨に警戒されると、かなり悲しい。


「ワンの事なんだが」


「・・・はい」


トキが、真剣な顔になる。


「ご主人様は最近、9歳の女の子に手を出したうさぁ。守備範囲広いうさぁ」


ルナナ、少し黙っててくれ。

その情報は今いらないし、歳が判明してからは手を出してない。


(ゲームの中では・・・うさぁ)


当然、現実リアルでも手は出していない。


(お風呂は一緒に入ってますけどね)


狭く暖かい場所が怖いらしいから、仕方がないだろう。

と言うか、何故オトメが知ってるんだ?


「ワン・・・話の流れからすると、レイはワンでしょうか。あの娘は、シルビアさんに懐いています・・・あの娘が望み、シルビアさんも良いのなら・・・」


「いや、そうではなく」


「違ううさぁ。ご主人様は、身体目当てであって、心はどうでも良いうさぁ」


「?!」


トキが、目を見開く。

頼むから、話をややこしくするな。


「あの・・・シルビアさん。それであれば、私の身体を差し出します・・・ですから・・・ワンは・・・」


「落ち着け」


オトメの口をルナナで塞ぎつつ。


「ワンが、歌や踊りを、人に見せるなと言われているらしいが・・・何か事情が有るのか?」


「・・・!その事ですか・・・」


トキが、頷く。


一呼吸置くと、


「シルビアさん・・・ワンの歌や踊りは見ましたよね?」


「ああ」


極めて素晴らしいものだ。

女神様ですら、褒美を賜わす程に。

是非、多くの人に魅せるべきだ。


「あれは、神曲と呼ぶべき物・・・」


そう、正に、神に捧げるに相応しい。


「ああ。だからこそ、多くの人に」


俺の言葉に、トキは首を振り、


「以前、みんなで集まった時、非常に美味しいお酒やジュースが出ましたよね?」


話が飛んだ?!

唐突な話題の転換・・・


ただの事実なので、ただ頷けば良いのだが・・・


此処で意味有り気に頷けば、格好良いのでは?


「・・・そう言う事か」


「はい」


トキが頷く。

・・・説明がスキップされた?!

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