第57話 彼の悪魔は魔弾を放ちて

NLJO。

ソロ(従魔とは一緒だけど)の狩りが一段落つき、お気に入りの湖畔で寛いでいる。


しばらく見なかったトキが、青い顔でやってきた。

足取りが、ふらふらとしている。


「シルビアさん・・・お願いが・・・有ります・・・助けて下さい・・・」


口調が真面目モード。

真剣なのだろう。


「・・・どうした?」


「私では・・・いえ、私達では、手に負えなくなりました・・・」


悔しそうに、漏らすトキ。

その目から、涙が流れ落ちる。


エリアちゃん。

小物と侮っていれば・・・段階的にその影響力は増し・・・今はどうなっているのだろうか?


・・・実は、エリアちゃん対策は、最近、放置気味だった。

レイ達と作る動画や歌が面白くて、そっちにかまけていたというか。


「ワンも・・・マイマイも・・・その手に落ちているようです・・・」


トキが続ける。


マイマイは分かる。

俺が勝手に目標にしている奴だ。

最近、ネットで投稿動画を漁る事が多いのだが・・・マイマイの動画は、どれも面白い。

ゲームの実況をしたり、何かの高級品を買って紹介してみたり、歌ってみたり──実際にはDTMっていう、合成音声らしい──多彩な動画を投稿している。

そうか・・・マイマイ、エリアちゃんに取り込まれたのか・・・エリアちゃん、まじやべえ。


ワンって誰だ?


(ワンは、幻のアイドルですね。公にはほぼ露出していないにも関わらず、現役ナンバーワンのアイドルと言われています)


ロリアの解説。

ワンだけに、ナンバーワン。

よほど自信が無いと、つけられない名前だ。


「エリアちゃんか・・・」


「え?エリアちゃん・・・?ああ、アレはもう良いんです」


どう言う事?!

トキが首を振り、否定。


「助けて頂きたいのは・・・悪魔です」


「悪魔?!」


超展開。

エリアちゃん、自然消滅でもしてたのだろうか。

いや、悪魔とやらが取り込んだのか、エリアちゃんの正体が実は魔王だがははははー、かも知れないが。


「はい・・・実は、五英雄と私達は、ずっと、ソレと戦っていました・・・恐らくアレは・・・女神様が新たに課した、人類への試練・・・」


急に、超ファンタジー。

それは、NLJOの話か?

ずっとって言ってるし、現実リアルか?


「・・・実は、人類への試練よりも・・・ワンを助けて欲しいんです・・・あの娘は・・・娘同然に接してきて・・・」


トキが崩れ落ち、膝をつく。


「・・・分かった、俺で力になれるかは分からないが、話を聞かせてくれ」


こっそり、そんな存在がいたのか・・・

そして、俺はこれまで、その試練の存在すら知らなかった様だ。


「その存在の名は・・・夢守商事」


あー、それな。


「以前から、警戒はしていたんです。五英雄とは異なる、底の見えない存在・・・ですが・・・」


トキは、祈る様な、怯えた表情で、


「シルビアさんは、御存知無いでしょうか?最近、隠していた牙を、見せました・・・存在しない技術ダークテクノロジーを持つ企業との繋がりを公にし──」


サクラの企業か?

旧人類では発想できなかっただけで、別に魔法とかじゃないぞ?


「その存在は闇を纏い、情報は秘され──」


通常の範囲の守秘契約とか、ロリアとサクラによるネットワークセキュリティとかか?


(何でしょうか・・・この厨二病的妄想・・・凄く恥ずかしいんですけど・・・全然違うんですけど・・・見ているだけで顔から火が出そうです・・・何故でしょうか・・・何故恥ずかしげも無く、生きていられるんでしょうか?)


オトメが呟く。

口に出すなよ。


「そして・・・遂には、人類を堕落と中毒へと貶める毒牙を──」


何もしてないぞ。


「その魔弾の名は──【レイミ】Shining Days - 輝かしい日々を踊ってみました【初投稿です☆】」


それな。


「投稿以来、爆発的に再生数が増え・・・今や、1日の総PVの8割がこの動画だと言われています・・・!」


「なかなか9割行かないんだよな」


エリアちゃんってどのくらいの再生数だろう?

今は既に、2割以下の筈だけど。


「8割でもおかしいです!1日の総再生数に対する割合ですよ?!0.1%でも異常なんですよ?!」


おお、初投稿にしては、意外と健闘してるんじゃね?


「有志による解析で・・・歌と踊りは、トップアイドルのワン・・・作曲、作詞、演出はマイマイと言われています・・・」


何・・・だと・・・


それで、俺がマイマイを褒める度に、ユウタが謙遜してたのか。

思いもよらなかった・・・!


そして、レイのあの踊り・・・なるほど、ワンに魔性の魅力が有る、と言うのは頷ける。


「録音に使用している機材も、異常・・・恐らく、世に出ていない装置で作られている筈です」


いや、最新型の超高価な機材だけど、市販してるぞ。


俺は、少し勿体つけて、トキの目を真っ直ぐに見て。


「トキ、安心しろ」


「は・・・はい?」


トキが、困惑した様子で・・・しかし、真っ直ぐに俺を見る。


「次の動画は、前作よりかなり良くできている。前作以上の再生数が期待できる筈だ」


「死んでしまいます?!」


トキが涙目で覆い被さってくる。

待て・・・まだ、日が高い。


トキが、ふと、何かに気づいた様な顔をして、胡乱気な目で見てくる。


「シルビアさん・・・何故、次回投稿分の内容を知っているのでしょうか?」

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