第56話 完成

「あー、うん、そうだよ!」


レイが微笑む。


「姉妹だったんですか?」


ユウタが尋ねると、


「あー、違うの。私、昔は良くテレビに出てて・・・その愛称が、れいみーお姉さんだったんだ」


「テレビ・・・タレントだったのか?」


「うん・・・タレント、だったんだ」


レイが、影の有る笑みを浮かべる。


「私は・・・昔、子役として、テレビに出てたんだ。幼児向けの教育番組でね、毎日毎日、歌を歌ったり、踊ったり・・・ぬいぐるみと一緒に遊ぶ・・・毎朝、それが放送されていたんだけどね」


「それは・・・凄いな」


「うん、凄かった。でも・・・その番組は、数年に一度、出演するお姉さん役を変える仕組みで・・・番組を辞めた時は、他の出演の誘いとかもあって・・・私もいっぱい努力して・・・色々夢を見ていたんだけど・・・」


レイは俯き、


「お義母さんが・・・テレビには出るなって・・・歌を放送したりするのも駄目だって・・・テレビ局のお誘いもぱったり止んで・・・」


レイは、俺をまっすぐ見て、


「私は、幼児向けのお姉さん役としては、それなりにこなせてたと思うけど・・・他の事は、全く駄目だったみたい・・・」


いや・・・


「レイ、それは違う。俺は、レイの歌も、踊りも、見た。あれは素晴らしかった。だから・・・レイは凄いよ」


「ますたあ・・・」


ぎゅ


レイが抱きついてきた。

そっと、抱きしめ、


「その、お義母さんが、何故レイにそんな事を言ったのか分からないが・・・」


・・・まさか、レイの才能が有りすぎて、出し惜しみをして、とか・・・

そんな事は有るのだろうか?

いや、邪推だとは思うが・・・


「今は、地下アイドル?というのを時々やるくらいなの。地下深い劇場で、限られた人相手に、歌ったり、踊ったり・・・」


「それは・・・」


そっと、レイを撫でる。

まさか本当に、レイを利用しようとして・・・

例えば、限られた金持ちにだけ見せる事で、法外な値段を荒稼ぎしているとか・・・


「だから・・・今日は、本当に楽しみなの。歌って、踊って・・・みんなに見て貰うんだ」


「ああ。レイ、みんなに見て貰おう。レイを。俺達の動画を」


俺は、思わず力を込めて、そう言う。

まわりを見ると・・・皆、同じ想いのようだ。

特にサクラが、見た事がないくらい真剣な顔をしている。


俺は、みんなを見回すと、そっと頷いた。


--


「レイさんと、NLJOの世界観のイメージで、曲を作ってみたんです」


ユウタが、部屋のスピーカーに繋ぎ、音楽を流す。


?!


美しい旋律、透き通る歌声。

これは・・・何だ?!

既に完成しているのでは・・・


思わず聴き入り、満たされた気分で尋ねる。


「素晴らしいな。曲や歌も素晴らしいが・・・演奏も、歌声も素晴らしかった。演奏していた人は、今日は連れてきていないのだろう?」


サクラは、少し考えると、


「今のは・・・DTMですか?」


「はい」


ユウタが微笑む。

DTM?


「・・・人が演奏するのでは無く、コンピュータを使って音を合成する技術です」


サクラの補足。


「・・・人が演奏している様に感じたが・・・凄いな」


感嘆の息を漏らす。


「あの歌声・・・あれも、だよね」


?!


レイがとんでもない事を言う。

流石にそれはない。


息遣い、揺らぎ・・・そういった雑味は、合成音声では出せない。

やはり、機械では限界が有るのだ。

ロリアの声は、普通に雑味が有るけど。


「はい」


「?!」


ユウタがあっさりと肯定。

・・・モーションキャプチャー、実際に人が動き、それをコンピュータグラフィクスで再現・・・恐らく、そんな感じの技術だろうか。

じゃあ、歌ったのは誰だ。

ユウタ?


「ん、覚えた。振り付けは・・・好きに踊って良いの?」


「はい、レイさんの感性でお願いします」


「うん!」


--


レイが歌って踊り。

それを、撮影。

後は、合成。

これは、サクラとユウタで実施し・・・


その間、俺達はのんびりと雑談。


夕方には、完成したと呼びに来た。


レイの、生の歌と踊りは素晴らしかったが。

あれをどこまで再現できているのか。


そう考えていた時期も有りました。


自作のものは、思い入れが有るから、実際より良く思えてしまう。

そのせいだろう。

出来上がった映像は、素晴らしいものだった。

皆、達成感と、誇らしさに溢れている。


「すっごく・・・楽しかった!!またやりたい!!」


レイが嬉しそうに叫ぶ。


「ああ、またやろう」


俺は、頷く。

元より、1回でエリアちゃんの牙城を崩せるとは思っていない。

続けなければ、意味が無い。


「動画を作った事は、何度か有りましたが。今回のものは、間違い無く過去最高のできです。凄く楽しんで作業できましたし、みんなでやったので凄く楽でした」


ユウタが、嬉しそうに言う。


「私やサクラ、エレノア殿は、手伝いしかできていない。レイ殿と、ユウタ殿がいてこそ、できたものだ」


ロリアが、満足気に言う。

皆、心地よい疲労を感じているのだ。


作った動画は、レイが開設したページに登録する形でアップロードする。

さて・・・1,000回も再生されれば、初心者としては上出来だろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る