第55話 不審者

ビルのエントランス。

何時も人で埋め尽くされる此処は、しかし、人の気配が無い。

俺としても、滅多に見ない光景だ。


休業ではない。

入り口には、貸切、関係者以外立入禁止の立て札。


大学生くらいの男の子が、入り口の側でおろおろしている。

ギルドメンバー?

どうしたのだろうか?


ぶぶっ


NLJOの通知が来る。

スマホモードのNLJOで、宛先指定のメッセージで発言があったのだ。


「すみません、マスター。場所が分からなくて・・・今、大きなビルの前に居るのですが・・・集合場所と思っていた場所が、貸切になっていまして・・・」


「あってるぞ?」


俺は外の男の子に近づき、


「君がユウタ君?」


「は、はいっ。貴方は?」


「俺はシルビア。今日はよろしくな」


「は、はい!でも、今日、此処、入って良いのでしょうか?」


「構わないぞ。その為に、スケジュールずらしまくって、今日1日貸し切ったんだからな」


ユウタはきょとんとすると、数呼吸おいて、


「え・・・えええええ?!」


驚きの声を上げた。

そうだよな。

嬉しそうに準備するサクラを止めなかったが、丸々貸し切る必要は無いよな。


--


「夢守商事所有のスタジオ・・・初めて入りました」


ユウタが、キョロキョロ、見回しながら言う。

ユウタは、感じの良い青年。

服装も、若者らしい服装だ。

多分。

機材等だろうか?

少し大きめのリュックを背負っている。


ふと見ると、別の男の子が自動ドアの前に。

エレノアだった。

エレノアは、高校生くらい?の見た目だ。


「エレノアくん、ユウタくん、何か飲むか?」


虚空に展開した、疑似パネルを操作しながら見せる。

レイが、意外と遅い。

まあ、集合時間よりだいぶ早いのだけど。

ちなみに、サクラとカゲは、待合室でのんびりしている。

・・・レイが遅れそうなら、先に2人を案内しても良いのだけど。


「仮想立体電磁板・・・本当に、技術の進歩は早いですね」


エレノアがしみじみと言う。


「まあ、最初に出た時は驚いたけどな。今では、一般家庭にも普及している物だ」


「夢守商事って、クルイザキ社と独占的に提携している企業ですよね。秘密主義のクルイザキ社が・・・驚きました」


「・・・エレノア、詳しいな。世間には公表されて無いんだが」


ちなみに、クルイザキ社との提携に成功したのは、種を明かせば単純だ。

クルイザキ社は、サクラの会社だ。


数世代先の技術を持った会社・・・そこに資金力が加わり・・・

一方で、夢守商事が独占的に流通させるから、夢守商事の売上も跳ね上がり。

おかしな事になっている。


「クルイザキ社ですか・・・本当に凄いですよね、あそこは」


ユウタが、しみじみと言う。


「僕にとっても、お得意ですぅ。良く小遣い稼ぎさせて貰っています」


「小遣い稼ぎ?」


「はぃ。良く、研究成果買い取って貰うんですよぅ」


「・・・そうなのか、それは凄いな」


10年前のLJO。

あれ以来・・・若い者が、異常な才能を示す事が起きている。


漫画や小説の様に、超能力に目覚めたり、魔法を使う事は無いのだけど。

運動能力が高かったり、エレノアやサクラの様に異様に知能が高かったり・・・


LJOから魔力が流れて、という説や。

人類が減少した結果、危機に瀕して・・・という説。

単純に、頭の固い老害が一掃されたから、という話もある。

もしくは、その全てか。


何にせよ・・・20歳以下の若者が、圧倒的な才能を発揮し。

まさに、俺達、中年層は、旧人類と言っても過言じゃない状況となっていた。


ガラガラ・・・


ロボットが、注文した飲み物を運んでくる。

NLJOで口にする物に比べれば、不味い。


ん・・・?


気配を感じて扉の方に目をやると。

目深に帽子を被り、サングラス、マスク、トレンチコート・・・如何にもな不審者が見える。



警備ロボを呼ぶスイッチに手をかけつつ。

扉へと近付く。


「誰だ?」


「わっ、わわっ、あ、怪しい者じゃ無いよ!」


女の子の声。

レイか?


「あの・・・オフ会で来ました・・・此処で・・・場所はあってるはずで・・・あの、レイです!!」


「レイか。初めまして、シルビアだ」


「初めまして!!ますたあだ!!」


ぺこり


レイがお辞儀する。


「初めまして、ユウタです」

「エレノアですぅ」


各々、挨拶。


「良し、揃ったな。カゲとサクラは、中で待っている。行こうか」


みんなに、そう告げた。


--


待合室。

ロビーよりは、寛げる。

と言うか、簡単な機材なら有るから、簡単な事は此処でもできるのだが。


待合室では、カゲとサクラが待っていた。


「初めまして、カゲです」


ぺこり、カゲがお辞儀。

他のメンバーも名乗り。


「あれ、サクラさんは?」


レイが小首を傾げ、尋ねる。


「初めまして、サクラです」


サクラがお辞儀をして──


「「「ええええええええええええ?!!」」」


レイ、ユウタ、エレノアが叫ぶ。


「サクラ、おばあさんじゃなかったの??!私より小さいの??!」


レイがサクラの肩を持ち、叫ぶ。


「はい」


サクラが淡々と答える。


「ははは・・・ちょっとイメージとは違うね」


ユウタが苦笑いする。


サクラは、レイをまっすぐ見据えると、


「あの・・・れいみーおねえさん、ですか?」


姉妹?!

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