第53話 決着

ヒュッ


アーサーへと、駆ける。

アーサーが、笑みを浮かべ、剣を構え──


「頑張ってくれ、シルビアくん!」


フォースが叫ぶ。


それが合図、という訳でも無いが。

偽装していたステータスを解放。


ゴウッ


大きく感じていた世界が・・・手が届く距離へと近付く。

かつてのLJOで感じていた全能感は無いが・・・それでも・・・普段感じている、卑小さは感じない。



アーサーとの距離が、蒸発するかの様に消える。

そして・・・


ひゅひゅひゅ


ロリアが変化し、無数の軌跡となって、アーサーを串刺し。

抵抗が・・・無い?!

予想に反し、その初撃は全て命中。

剣の、鎧の、盾の、隙間をついて、或いは、鎧の上から、アーサーを貫いていく。


「癒しの御手よ!」


エリアちゃんの回復魔法が発動、アーサーの傷が塞がっていく。

再度力を込め、追撃を・・・あれ?

アーサーの動きがおかしい?!

迎撃する様子も、回避する様子も無い。


ザッ


アーサーから距離を取る。


アーサーの顔に浮かぶのは・・・え。

何、その顔。

顔芸・・・?

油断を誘っているのか・・・?

まさか、笑わせて隙を作ろうと・・・?

いや、普通に刺されてたしな。

回復魔法を利用した、肉を切らせて骨を断つ作戦・・・?


「シ・・・シル・・・ビア・・・?」


「どうしたアーサー。俺の名を忘れたのか?」


「え・・・な・・・シルビア・・・どの・・・?」


アーサーが後ずさる。

何故?!


「アーサー様ぁ?どうされました?」


エリアちゃんが、困惑の色を浮かべる。


ひゅっ


近づき、


ザシュッ


再び、ロリアを変形させ、無数の軌跡がアーサーを貫く。


「わ・・・わわ・・・癒しの御手よ!!」


エリアちゃんが慌てて回復を発動。


ザシュッ ザシュッ


「ぐわああああああああああ?!」


棒立ちになって、無数に貫かれるアーサー。

何やってんの??!

防ぐどころか、避けることもせず、反撃もしてこない。


「ま・・・待ってくれっ、待って下さい!」


アーサーが叫ぶ。


たん


再び距離をとり、


「・・・どうしたんだ、アーサー?」


「シルビア殿に敵う訳が有りません・・・降参です・・・降参します・・・申し訳ありませんでした!!」


アーサーが叫ぶ。

まさかの降参?!


「アーサー様?!」


エリアちゃんが驚きの声を上げる。


「まだ決着はついていないでござる。続けるでござるよ」


カゲが淡々と告げる。

・・・さっき、降参は無しって言ってたな、そう言えば。


「・・・卑怯者!ちゃんと剣で戦いなさい!」


エリアちゃんが叫ぶ。

いや、相手の隙をつく武器を選択するのは、重要な戦術・・・

仕方が無い。


「行くぞ、アーサー!」


「こ・・・来ないで下さい?!」


アーサーに肉薄、


ゴウッ


剣にを纏わせ・・・


ジャギッ


手応えは無かった。

アーサーが構えた剣と、腕と、半身と・・・まとめて切り飛ばし、宙を舞わせる。


チャッ


そのまま、首に剣を突きつける。


「ぐああああああああああああ?!」


アーサーが叫ぶ。


「奇跡よ!」


凛とした、アリスの声が響く。


アーサーが光に包まれ・・・斬り飛ばした筈の体も、腕も、何事もなかったかの様にそこにあった。

瞬間的な完全回復。

恐らく、極めて高度な魔法なのだろう。

エリアちゃんが、ぱくぱくと口を動かしている。


「気絶も、死も、貴方を脅かせません。さあ、アーサー、愚者に鉄槌を」


「負けさせてくれええええええええ?!降参、降参だあああああ!!」


アーサーが叫ぶ。

うわ、泣いてる・・・?


「アーサーよ」


「・・・シルビア・・・どの・・・」


「反撃しなければ、相手は倒せないぞ?」


「シルビア殿おおおおおおおおおお?!」


アーサーが叫ぶ。


・・・結局、アーサーが武器を放り出し、号泣し始めてしまったので、俺の勝ちと言う事になった。

いや、ちゃんと戦えば、ちゃんと勝負になった筈なんだよ。


--


「シルビアさん」


あの後、ソフィアから話が有ると言われ。

ソフィアのマイハウスへと、お邪魔していた。


ついてきたのは、カゲとトキのみ。

後は、俺の従魔。


トキは、まだふらふらしている。


「この度は、御助力、感謝します」


「別に構わない。俺のギルドのメンバーに依頼され、勝手にやった事だ」


ソフィアが述べる謝辞に、応える。

放っておいても良かったんだがな。


「それにしても──シルビアさん、NLJOを始めておられたんですね。お久しぶりです」


「久しいな」


俺は、表情を緩めると、


「そして・・・ソフィアは、フィロの弟だったらしいな。今にして思えば、色々助けて貰った気がする。気付かなくてすまない。そして・・・有難う」


ソフィアも表情を緩め、


「繋がりを隠していたのは、私です。それに・・・助力は姉の指示でもあるし、私自身がやりたいからやっただけです」


トキは、俺と、ソフィアを嬉しそうに見ている。


「それで、アーサー殿の処分はどうするでござるか?」


カゲが、尋ねる。


「処分も何も・・・別に、誰かが悪事をはたらいた訳ではないからな」


アーサーは、法に触れる事は何も・・・いや、奥さんから訴えられる可能性があるが、民事だ。

私財をエリアちゃんに贈与したのも、違法ではない。


エリアちゃんも、正式に人から贈与された物だけだ。

渡す方が悪い。


「エリアちゃんに関しては、借りて返していないアイテムがあったので・・・それは、返却させました」


トキが告げる。

そう言えば、フォースが言ってたな。


「ですが、正式に譲渡されたアイテムや地位、リアルでの資産や権利・・・膨大な量ですね」


「安月給の俺とは、随分な差だな」


俺は、溜め息をつく。


「今は何をしておられるのでしょうか・・・シルビアさんにであれば、財も地位も、好きなだけ与えますが」


ソフィアの提案。


「私も、シルビアさんであれば、今の私の地位を渡しても良いですよ」


トキも続く。


「・・・安月給って・・・」


カゲが、半眼で呻く。

ちなみに、カゲの名誉の為に言っておくと、俺はちゃんと、地位に相応しい給料を貰っている。

サクラに総資産負けていたけど。


エリアちゃんか・・・何か対策を取ったほうが良いのだろうな。


--


「と言う事情でな。何とか、エリアちゃんの対策、何か良い案は有るだろうか?」


ギルドメンバーとカゲを、ギルドホームに集め。

月花も参加して貰い、知恵を出し合う事にした。


エリアちゃんは、別に、法に触れている訳ではない。

だが、あの影響力は脅威だ。

何とか対策を取る必要がある。


「にゃあ・・・アーサーさんがいれこんでいたのは、困ってたけど・・・エリアちゃん自身は、放っておいて良いにゃあ?そこまで社会的影響力が有る訳でも無いし・・・問題が有りそうなら、対処の方法は有るにゃあ。ワンに頼んで、曲の1つでも出せば、エリアちゃんの影響力なんて消し飛ぶにゃあ」


「え、やだ。めんどい!」


「何でレイが反応するにゃ?!」


いや、トキも、他人に頼ってる時点でアレだと思う。


「むしろ、マスターは、何もしないで欲しいにゃ。嫌な予感しかしないにゃあ・・・マスターが何かしたら、絶対、凄い事が起きるにゃあ。その影響の方が致命的にゃあ」


「失礼だな・・・」


一応、大企業の副社長ではあるが。

世間への知名度は、そこまででは無い。

五英雄やトキとの、大きな違いだ。


エリアちゃんは、アーサーの企業の一部を引き継いだ。

そして、アーサーと関係があった事も知られている。

そして、現在も色々な人に取り入っている。

恐らく、エリアちゃんの方が遥かに社会的影響力が有るだろう。


「放置しておいて・・・他の四英雄が取り込まれたら・・・目も当てられない」


「あり得ないにゃ。ソフィアも、ムサシさんも、アリスさんも、馬鹿じゃないのにゃ!」


・・・まあ、そうか。


「・・・ポラリスさんは・・・?」


「・・・」


ユウタの問いに、トキが視線を逸らす。

やっぱり駄目じゃん。

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