第52話 世界への反逆
「六英雄は、相互不干渉。苦々しい状況でござるな」
多分、六英雄の失態はむしろ都合が良いのと、面倒だから放置しているのだろう。
「エリアちゃん・・・想像以上に状況が悪いな・・・」
フォースが、天を仰ぎ呻く。
「え、この雑魚、何雰囲気出してるんだ、ってご主人様のお気持ち、ぞくぞくします」
「捏造するな?!」
「ご主人様?」
フォースが小首を傾げる。
「こういう調整は、トキがやるんじゃないのか?」
「トキは、アーサーに連日諫言し、受け入れられず、各方面にも奔走し・・・過労で倒れたので、休ませているでござる」
・・・おいおい。
「・・・まあ、俺が言って通じるか分からんが・・・アーサーと話してみるよ」
「承知したでござる。早速手配するでござる」
「・・・話をつけるって・・・シルビアくん、君は一体・・・?」
フォースが訝しげに呻いた。
--
騎士団、蒼天の間。
まあ、コロシアムの様な施設だ。
円形のリングの外側には、1万を超えていそうな観客用の席が並ぶ。
観客は、六英雄、ユウタ、フォースのみ。
名前に反し、空には夜空。
今が夜だからだ。
美しい月が、穏やかに微笑む。
「カギロイ、と言ったか?六英雄に楯突く、と言う事の意味、その身を持って識るが良い」
アーサーが、傲然と告げる。
リングに上がっているのは、アーサー、見た事が無い少女──恐らくエリアちゃん。
そして、俺。
オトメとルナナ、カゲは、リングの外だ。
「六英雄とは、絶対なる存在。六英雄に逆らうと言う事は、世界に反逆するという事だ」
本当に偉そうだ。
まあでも・・・確かに、強い。
身につけている武具も、全てLR。
本当に・・・強くなったな。
あのアーサーが・・・
(無理も無いうさぁ。αテストは、現実の時間に対し、この世界の時間の流れは100倍。3ヶ月は300ヶ月相当だったうさぁ)
ふざけてるんじゃねえぞ。
(1次βテストで10倍、2次βテストで5倍、その後は等倍うさぁ)
1年どころの出遅れじゃ無いって事か。
(そう、うさぁ。六英雄は、初期から参加している・・・ご主人様と、六英雄では、積み重ねた時間が違ううさぁ)
・・・
ん?
おい。
そこまで時間があって・・・あの程度の力なのか?
・・・そうか。
実力の隠蔽か。
それにしても・・・何故こうなった?
俺は、カゲに、アーサーと話す場を設けて貰おうとしただけなのに。
アーサーと戦う事になっていた。
しかも、俺が勝ったらエリアちゃんとの関係を断つ、とかではない。
俺が勝ったら、話を聞いて貰える、らしい。
六英雄はそこまで偉いのか・・・?
「アーサー様ぁ、かっこいー!」
「ふはは、そうだろう、そうだろう」
エリアちゃんに応援され、アーサーはご満悦だ。
「・・・キモ」
六英雄のポラリスが、吐き捨てる様に言う。
「・・・まあ、カゲが連れて来た奴もキモいけど。とんだ茶番・・・そんなひょろいのが、アーサーに・・・六英雄に挑むなんて」
ポラリスが、溜め息をつくと、
「やってられないわ。私は、付き合わない」
ゴウッ
無数の魔法陣が空中に展開。
ポラリスを包み込む。
ひゅ
ポラリスの姿が掻き消えた。
空間転移。
それ自体は、高度な魔法では無いが。
魔法抵抗や地形を無視し、かつ、無詠唱で発動。
相当な実力が必要だ。
「ふん、ポラリスめ・・・まあ、俺も馬鹿馬鹿しいのは同感だが・・・カゲからの頼みでなければ、この様な茶番は断るところだ」
アーサーは、観客席に目をやり、
「六英雄に楯突く愚か者・・・お前らも、一緒に誅するか?」
六英雄の1人、ソフィアは緩やかに首を振ると、
「やめておきますよ。彼では、私の相手は役不足です」
嘘つけ。
隠す事をやめたのか、今なら分かる。
すげー強い。
「くはは・・・確かに。こいつでは、お前にすら勝てないな。それなのに・・・俺に挑むとは・・・カゲも、何を考えているのか」
アーサーが笑い声を上げる。
「カゲよ、お前自身が戦わなくても良いんだな?その男では、俺の鎧の埃すら払えないと思うが」
「六英雄同士は相互不干渉・・・それに・・・拙者が参加したところで、結果に違いはないでござろう?」
「確かに。俺とお前では、実力差は歴然だからな」
アーサーが苦笑する。
そうだね、カゲ──イデアに勝てる存在なんて、このゲームにいないだろうね。
「後ろに控えているのは、その男の仲間だろう?良いぞ?何人まとめてかかってきても」
「私は・・・ご主人様を・・・信じています」
「うさぁ・・・怖いうさぁ・・・がくぶる・・・」
「くはは、仲間の助けも期待できないようだなっ」
アーサーが仰け反って笑う。
すげー、あんな笑い方、初めて見た。
「アーサー様、本当に・・・本当に凄いです!」
エリアちゃんが飛び跳ねて応援する。
後方に控えて回復魔法で援護、だろうか。
「だが・・・これではあっさり終わってしまうな・・・ふむ」
アーサーは、俺を観察するように見て、
「そうだ・・・こうしよう。お互い、気絶するか、死か・・・戦闘不能になるまで決闘を続けるか?降参を認めない。どうだ、熱いだろう?そうだな・・・死や、気絶から、支援により復帰すれば・・・戦闘を継続しよう」
「その条件、飲んだでござる」
カゲが受け入れる。
何でお前が返事するんだ。
「そういう事であれば」
ふわり
アーサーの後ろに、六英雄のアリスが降り立つ。
「六英雄の力・・・しっかりと味わって頂かなくては」
アリスが微笑む。
「アーサーさん。死すら、貴方を妨げる事はしません。存分にその力を示して下さい」
「アリスよ。お主の力は不要とは思うが・・・共に、六英雄の力を示そうぞ!」
アーサーが、邪悪な笑みを浮かべる。
悪役が似合うなあ。
流石に、出し惜しみしていて勝てる相手ではない。
ここは・・・全力でいく!
ヒュッ・・・
ロリアを召喚、両手剣に
「凄い・・・あれ、格好良いです、欲しい!」
エリアちゃんが叫ぶ。
「ほう・・・そうかそうか・・・」
アーサーが、緩みまくった顔でエリアちゃんに応え、
「お前、変わった物を持っているじゃないか。条件を追加しよう。お前が負けたら、その武器を俺に寄越せ」
無茶苦茶だな。
「もう勝った気でいるのか?だが、俺も、負けてやる義理は無いからな」
ひゅん
久しぶりに振るう、ロリアの武器。
(シルビア殿・・・ご武運を)
有り難う、ロリア。
意識を集中させる。
行くぞ・・・!
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