第51話 エリアちゃん

「すみません、マスター。相談に乗って頂いて」


「構わないよ」


ユウタに呼び出され、街の酒場へと行く。

街に来ることは滅多にない。

LJOでは、中盤、お尋ね者だったしな。

それを引きずっている訳でも無いのだけど。


酒場で出される料理は、安いが、大味だ。

あまり好みの味ではない。

月花の料理の方が美味い。


それに・・・騒がしいのは苦手だ。

笑い声、怒鳴り声、色々な声が響き・・・


「お話ししたとおり、フォースさんが困っているらしくて・・・」


ユウタが、沈んだ声で言う。

誰だ?

そんな名前の奴知らんぞ。


「ああ、フォースかぁ、それな」


「・・・フォースさんの事、覚えておられませんか?」


何故ばれた。


「すまんな・・・記憶力は良い方なのだが」


「いえ、会ったのは少しでしたから・・・以前、リヴァイアサン討伐隊でご一緒した、剣士さんです」


誰だよ。


「すまない、ユウタくん。遅れてしまった」


レベルは・・・1,000を超えている。

そこそこのレベルだ。


(ご主人様の、ゴミ屑を見るような目・・・ぞくぞくしますね)


してねえよ。


(レベルでマウントとって、超上から目線、流石うさぁ)


いや、始めた期間から考えれば妥当だと多分思うけどそのだな。


「フォースさん、こんにちは」


ユウタに続き、


「フォースさん、お久しぶりです」


「ああ、君が──」


「はい、以前御一緒した、シルビアです」


「誰だよ?!」


・・・フォースさんとやらも忘れてるじゃねーか。

まあ、俺も人の事言えないんだけど。


「ははは・・・俺、印象薄いですからね・・・」


「いや・・・確か・・・カギロイくん・・・?」


「カギロイ?」


聞き覚えある様な。


ユウタが苦笑いしている。

フォースの記憶力の無さに呆れているのだろう。


「それで、話って?」


「・・・ああ。すまない。ユウタくんに相談したら、君の事を紹介されてね。ゲームの先輩として、君に頼るのは間違っているとは思うが・・・俺個人の面子を気にしている場合じゃない」


フォースは、一拍置くと、


「相談したいのは、エリアちゃんの事なんだ」


「ああ、エリアちゃんか。それな」


誰だよ。


「・・・既に耳に入れているか、流石だな」


フォースが感心する。

やべえ、知ったかぶりしたら、説明がスキップされた。


「エリアちゃん・・・フォースさんが作ったギルドに入った新人さんの女の子だったのですが」


ユウタが、半眼で説明を始める。

知ったかぶりがバレたのだろう。


「色々な人に助けてもらい、色々借りて、色々貰って・・・色々な男性女性と関係をもち、人間関係を掻き乱した上で突如脱退、順調だったフォースさんのギルドが、崩壊しました」


「・・・俺が馬鹿だったよ・・・」


フォースが、後悔を滲ませる。


まあ、良くあるギルドクラッシュだ。


「で、相談というのは何ですか?仕返しって訳でも無いでしょうし・・・何か取られた物を取り返したい?」


「いや、それはもう良いんだ・・・俺が焦っているのは──」


ぐび


フォースは、でかいビールジョッキを1回であけると、


「六英雄の1人、剣神ザ・ソード、アーサー」


アーサー、そんな2つ名がついたのか。


「その横に・・・エリアちゃんを見たんだ」


凄い出世だな。


「六英雄は、最大ギルドの1つ、騎士ギルドに絶大な影響力を持つ。現実リアルでも、湖上建設は業界1位の巨大企業・・・アーサーが誑かされれば、ゲームも現実リアルも無茶苦茶になる・・・それを、阻止したいんだ」


「やれやれ・・・本当に面倒な事しかしませんね」


オトメが溜め息をつく。


「・・・まったくだ」


フォースが、溜め息に、苦い後悔を乗せて呟く。


「あの、アーサーは」


「アーサーと知り合いなのか?!」


フォースが驚きの声を上げる。


「そんな訳無いでしょう。オトメの冗談ですよ」


「・・・そ、そうだよな。六英雄と知り合いなんて、あり得ないよな」


「当然です」


知り合いだけど。

向こうが覚えているとは限らないけど。


ぱちん


指を鳴らす。


「呼んだでござるか?」


「ああ・・・3秒か、衰えたな」


「かなり早い方でござるよ?!」


俺はカゲを見て、


「聞いての通りだ。情報が欲しい」


「聞いてないでござる?!」


く・・・あの頃のカゲはもういないのか。


(・・・シルビア殿、流石に傍に控えてた頃と比較するのは無理が有るかと)


むう。


「アーサー、エリアちゃん」


「ああ、その件でござるか」


カゲが頷く。


「闇の者・・・誰だ?」


フォースが尋ねる。


「カゲだな。友人だ」


「カゲ・・・って、六英雄?!」


ガタッ


フォースが、驚愕の表情を浮かべ、下がる。

そう言えば、有名なんだっけ。


「あ、お構いなく」


「構いますよ?!な・・・何で六英雄と知り合いなんだ??!」


「それより、カゲ、情報が欲しい」


カゲは頷くと、


「アーサー殿の傍に侍る女性、エリア殿・・・職業は、アコライト系3次職、アークプリースト。レベルは数万、プレイスキルはそこそこ。レアアイテムも多いので、成長が楽しみなプレイヤーでござる」


「・・・いや、人間関係とかそのあたりを」


「そこのフォース殿を初め、複数のギルドに入り、内部崩壊させているでござる。今は、アーサー殿に取り入り・・・騎士団の幹部にも手を出し・・・やばい状態になっているでござるな」


「・・・騎士団、既にやばいのか」


「リアルは17歳の女子高生。リアルでもアーサー殿と関係を持ち、アーサー殿も入れ込み・・・家庭も崩壊前夜でござる」


「おいおい・・・」


アーサーは、あれでも公人。

スキャンダルは、結構影響がでかい。


「魔性・・・でござるか・・・人に取り入るのが上手いようでござる。ゲーム内の容姿も良いし、リアルも可愛いでござるな。被害者からは恨みを買っているでござるが、それ以上に庇護者、崇拝者が多い。男女問わず」


男女問わないのか。

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