第49話 サウザンド、みーつけた

「・・・月花も確か、似たような事を言っていたような」


「そう言えば、そうだったな」


ロリアが頷く。


「ほらっ!月花さんもおかしいって言ってるじゃないですか!」


「落ち着け、見たままを信じろ」


実際にできているんだから仕方がない。


「・・・とにかく・・・私物を運び込む手配はしましたので、もうすぐ届きます。これから宜しく御願いします、お父様」


桜花が、ぺこり、と頭を下げた。


--


翌日。

桜花を連れて出社。


桜花は学校に行ってないらしいので、とりあえず会社に。

まあ、学校はおいおい話をするか。

・・・正直、俺もさぼってたしな、学校。


「この娘が桜花ちゃん、ですね」


夢守の部屋に連れて行くと、夢守が桜花の頭を撫でる。


「朧月桜花と言います、宜しく御願いします」


桜花が頭を下げる。

しっかりと俺の名字になっているな。


「うちの社員として登録するのは構わないけど・・・結局、どんな経緯でこうなったのか、説明して頂けますか?」


夢守が小首を傾げる。


後をつけられたこと、背後から迫られた事、このままだと親族に狙われる事、等を話し。


夢守が、怪訝な顔をする。


「・・・えっと・・・それは、現実リアルの話、ですよね?」


「ああ」


「・・・朧月さんのマンションって・・・駅の目の前ですよね?帰宅途中に襲いかかる、というのはおかしくないですか」


・・・あれ、そう言えば。


「そういえば、駅の前だよな。でも、別に寄り道した訳でもないのに、結構歩いていたような・・・?」


「それにさ・・・朧月さんの住んでいるあたり、治安も良いし、人通りも絶えないでしょ?周囲に誰もいない、という状況、見た事ないのですが?」


「・・・あれ・・・?」


周囲に俺と桜花以外いなかったよな・・・?

でも。


「それって気にすべき事だったか?」


「何を言ってるんですか。それは勿論・・・あれ?」


うん。

俺と桜花が会った時、距離的に不自然で、人気ひとけがないのも考えられないけど・・・それは気にすべき事では無い。


「・・・そうですね、そう言えば、気にしなくていい事でしたね」


夢守が小首を傾げる。


「それとね、桜花ちゃん」


「はい?」


「人を背後から、気配を断って忍び寄るとか、やっちゃ駄目ですよ・・・?」


夢守が、桜花の肩を持ち、言い聞かせる。


「宜しいですか?人に頼み事をする時は、相手の目を見て、真摯に話すんです。背後から気配を消して忍び寄るのもおかしいし、後ろから刃を突きつけるのも駄目です。人様に刃を向けてはなりません」


「あの・・・刃は向けていません」


多分、背中に頭をくっつけていたのだろう。


「それに・・・これは、故事にならったんです」


「故事、ですか?」


夢守が、きょとん、とする。


「はい。かの、影王アークシャドウイデアは、シルビアさんの友人となる際、背後から忍び寄って、刃を突きつけ、要求をのませた、とあります。それにならいました」


ああ、あったなあ。


「イデアは、そもそも実在が危ぶまれている六王です。そもそも、その様な行為、常識的に考えておかしいです。そのあたりの常識は、しっかりと教育の必要が有りそうですね・・・」


夢守が溜息をつく。

顔色一つ変えず、動揺の欠片も見せなかった。

すげえ。


夢守の自室を辞し、俺の自室へと向かう。


「とりあえず会社に籍は用意するが、別に働いても働かなくても構わない」


「私は・・・働きたいです。誰かに・・・お父さんに・・・必要とされたい」


桜花が、まっすぐな目で見つめてくる。

俺は桜花の頭を撫でると、


「分かった。それで、桜花は何をできるんだ?」


「あの・・・パソコン操作・・・とか、得意です。チャットをしたり・・・あ」


桜花がてとてと、と共用スペースの机に歩み寄ると、


パキ


何かの機械を外す。


「おい、どうした?勝手に外すなよ」


「あ、これは私が以前仕掛けた物で・・・もう不要になったので、廃棄します・・・必要でしたらお使い下さい」


「ん?」


何だこれは。


「・・・ハードウェア型バックドア・・・社内システムに侵入する為の装置。まさか、堂々と物理装置が設置してあるとは気付かなかった」


ロリアが呆然と言う。


「・・・え?」


「桜花・・・そなた・・・サウザンドだな?」


・・・サウザンド・・・って?!


「うちの社内に何度も侵入していたハッカーか?」


「はい・・・お恥ずかしながら」


「・・・桜花だったのか・・・」


「それで副社長の個人情報に偽装した罠に、食いつきが良かったのか」


ロリアが呆れた様に言う。


何にせよ・・・サウザンドの脅威は去ったようだ。


--


「なるほど・・・つまり、NLJOこっちに来ないと思ったら、ロリア、サクラさんと一緒に、繁殖行為を行っていた、と」


オトメが頷く。

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