第43話 月夜の海岸亭

アジト、月夜の海岸亭。

アーティファクトをギルド管理フェアリーに捧げる事で開放される、特殊マップ。


ザン・・・ザン・・・


静かな波の音だけが、ささやかなBGM。


空は、薄曇り。

朧気に見える、蒼い月が美しい。


砂浜の海岸にビーチテーブルが数個設置されている。

設置された椅子に、俺、オトメ、サクラ、トキ、レイ、ユウタ、エレノアが座る。


併設された店では、メイドさんがカクテルを入れている。

・・・あれ、女神様だよな?


月花が、オレンジジュースを注いでいる。

子供用か。


「さて・・・時間をとってもらったが・・・いや、大した話じゃ無いんだけどな」


「大した話じゃ無いって雰囲気じゃ無いよ?!何ここ、何ここ??!凄い、凄い、凄い!」


興奮気味にレイが叫ぶ。

いや、確かに、想像以上に凄いマップだった。

適当に手に入れたアーティファクト開放しただけなんだが。


「話と言うのは、マスターのレベルとかの事ですか?」


「それもだが・・・LJOや六英雄について、な」


勿論、若い世代には伝えず、風化させる、というのも悪くは無いが。

知ってる人は知っているし、今後関わる機会も有るだろうし。

知識格差に気を使うのも面倒だし。


・・・ロリアの事だけは慎重にならないといけないが。


コトリ


女g──メイド様が、カクテルを。

月花が、オレンジジュースを配る。


カクテルが配られたのは──俺とトキだけ?

サクラはアルコールが苦手なのだろうか?

リアルでアルコール飲めない人、ゲーム内でもアルコール駄目なのかなあ?


サクラが立ち上がり、不満気に月花とメイド様を見る。

月花が意味有り気な視線を送ると、諦めて座った。


さて、何から話したものか。


「NLJOは、多くの人に惜しまれながらもサービス終了してしまったオンラインゲーム、LJOの続編として作られた。此処までは良いな?」


「・・・LJOって、人類への試練として女神様に課された超常現象ですよね?最終的には人類は存続を勝ち取れましたが、その代償は大きく、全人類の7割から8割を失ったと聞いています」


俺の説明に、エレノアが続ける。

俺は、頷き、肯定する。

だいたいあってる。


「更に、残った人は、老人と幼い子どものみ。老人は生命維持が困難になったものや、自ら命を断った者も多く、実質的にはほぼ、子供のみになりました」


ユウタが続ける。

俺くらいの年齢は、超レアになってしまった。

ちなみに、最初に狙われた年齢層は、16〜26歳だ。


「LJOが、極めて危険なものなら・・・その後継であるNLJOも、危険な可能性が有ります。プレイしても大丈夫でしょうか・・・気になります!」


オトメが不安そうに言う。

お前、プレイヤーじゃねーから。

ややこしい事を言うな。


「もちろん、NLJOの安全性は、注視されてるにゃ。ただ・・・現状、ゲーム内死亡時もペナルティがあるだけで現実リアルで死にはしないし、LJOの時の様な、深刻な背景説明も無い・・・NLJOは人類への試練ではない、という結論にゃ」


トキが、ユウタを、みんなを見回し、言う。


「はい、NLJOはただの娯楽です。純粋に、ゲームとして楽しんで下さいね」


月花が微笑む。

月花が言うと、心強いな。


ガタッ


「でも・・・でも、ゲーム内で呪いを受けた人が、現実リアルで意識不明に・・・!」


オトメが、身を乗り出し、叫ぶ。

レイが、エレノアが、ユウタが、びっくりした様子で、周りの顔を伺う。


「いや・・・あんた、プレイヤーじゃないよな?マスターの従魔の魔物だよな。なんで慎重派の人間みたいな風なんだ・・・?」


サクラが半眼でツッコむ。


「・・・意識不明の件で、NLJOの危険性を指摘する意見も出たにゃ・・・意識不明って言っても、数時間だけにゃ?確かに意識を失う系の状態異常になると、現実リアルで意識を失うにゃが・・・」


「今は対応をお願いして、スマホモードでプレイしている人の場合、何もフィードバックされなくなってますよ」


月花の補足。

そうなのか。


「そんな訳で、NLJOは現状、安全なゲームと──」


「美味しい?!!」


トキのまとめを、レイの大声が遮る。

トキが困惑して、止まったのを見て、


「ああっ、トキ。ごめん!あまりにも美味しくて・・・」


レイがぺこぺこ謝る。


「僕も──な、何これ?!」


ユウタが叫ぶ。

サクラ、エレノアも口にして──呻く。


どれどれ・・・


?!


な・・・な・・・


アルコールの強い刺激と──しかし、極めて飲みやすい。

香りが口を、脳を、駆け巡り。


これまでの全ての人生が報われた様な。


救い。


多幸感が身体中を支配する。


もし、これを一滴差し出し、信仰を迫れば・・・

人々は、容易に服従するだろう。

数多の功徳を積んだ英雄が、人生の終わりに与えられる褒賞にも思える。


恐らく──神酒ソーマ

使われた果実も、神々の楽園の品だろうか。


美味い。


涙が流れるのを、止められない。


・・・何て事するんだ、神様。

皆、恍惚としている。


子供組が飲んでいるのはお酒ではないが、やはり至上の美味なのだろう。


トキは目を瞑り、ゆっくりと首を振ると、1口しか飲んでないグラスを、自分から遠ざける。

自制したか。


くい


俺も、全部飲んでしまう。

うん、美味い。


俺とトキが持ち直した後も、レイ達は恍惚としたままだ。


「おい、戻ってこーい?」


す・・・


メイド様が、ケーキセットを運んでくる。


「そ、それは後で良いかなっ」


俺が首を振ると、メイド様はきょとんとして・・・小首を傾げ、奥に下げた。

この上、恐らく至上の美味のケーキを食べたら・・・多分、昇天してしまう。

メイド様はサービスのつもりなのだろうが、人間の弱さをなめるな。

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