第44話 あちらのメイド様からです

「・・・と、ともかくだな。前ゲーム、LJOで最後にクリアしたのが、六英雄で・・・今、世界を導いている五英雄は、そのうちの5人だ」


「五英雄・・・アーサー、ポラリス、アリス、ムサシ・・・そして、ソフィアですね」


ユウタがまだふらふらしながら、呟く。


「それに、カゲを加えた六英雄、そして、宝王アークトレジャーシルビア・・・前作における、たった7人の生き残りだな」


サクラが言う。


「六英雄は知っているけど、宝王アークトレジャーシルビアさんは初めて聞いた!」


「まあ、そのシルビア、というのが、LJOでの俺の名だ」


「「「「??!」」」」


レイ、ユウタ、エレノア、カゲが声にならない声を上げる。

カゲ、何時の間に。

あと、ちゃっかり驚く側に混ざるな。


「・・・マスター、前作経験者だったんですね・・・」


ユウタが、驚いた様に言う。


「まあな。システムとして変わった部分も多いが、色々教えられる事は多いと思う」


宝王アークトレジャーって、何ですか?」


エレノアが尋ねる。


「俺の職業名だな。レンジャー系列、4次職だ」


アークトレジャー、という呼び方は、いつの間にか誰かが言ってただけだが。

多分、普通に、『ほうおう』で良い。


「ますたー、本当は4次職で、表示されているレベルは偽装って言ってたよね!本当のレベルは幾つくらいなの?」


「そこまで高くないぞ。1,288,466だ」


「「「「「????!!??!?!!」」」」」


トキ、サクラ、レイ、ユウタ、エレノアが、声にならない声を上げる。

え、なんで、トキとサクラまで驚いているんだ?


「お・・・お・・・おかしいにゃあああああああああ???!」


「落ち着け、何もおかしな所などない」


「・・・マスター、マスターが前作経験者、六王の7人目、人類の救世主、前作最高レベル到達者、宝王アークトレジャー、六王の上に立つ存在、神々を従えし存在、至高の六王ヘキサグラムのギルドマスター・・・それは知っていたが」


「待て、色々おかしい所がある」


「だからってそのレベルはおかしいぞ?!」


サクラが叫ぶ。


「・・・いや、レベルはおかしくないだろ・・・?」


サクラ、色々知ってるなあ・・・至高の六王ヘキサグラムとか、ほぼ誰も知らない筈なんだが。

むしろ、トキのレベルの低さが気になるんだが・・・姉と妹を比べるのは良くないか。


「・・・なんか、ますたー、すごい・・・!」


ぎゅううう


レイが結構強い力で抱きついてきた。


「人類の救世主・・・マスターも、魔王討伐に関わっていたんですね。前作の生存者なら、当然ですか」


ユウタが敬意を込めた目で見る。

眩しい。


「伝説の人物を間近に見て・・・感動です」


エレノアが言う。

いや、普通にしてくれ。


「このお酒、おかわりは可能でござるか?」


カゲが月花に尋ねている。


「・・・あれ、見慣れない方がいるような・・・?」


サクラが半眼で呻く。

気付くのが遅いぞ。


「カゲさん?!」


トキが叫ぶ。


「あ、お構いなく」


カゲが手で制す。


「カゲ・・・カゲ・・・六英雄?!」


ユウタが叫ぶ。


「はい、六英雄のカゲでござる」


「凄い・・・」


エレノアがうっとりとして言う。


「拙者より、そこにおられる、トキ殿の方が凄いでござる。六英雄の7人目・・・そして・・・六王、魔導王アークウォーロックフェルの妹・・・前作で、LJOに参加していないにも関わらず、フェルから聞いた話だけで魔導大系を確立し・・・他にも、他種の制度は、トキが考案したものが多い・・・LJOにログインしていなかったけれど、十二分に英雄でござるよ」


「・・・まさか、魔導王アークウォーロックフェルの妹、解子が、トキだったとは・・・」


サクラが呻く。


「え、まって、何で今本名ばらされたにゃ?!」


ゲームに参加していなかったせいで、本名の方が有名になってしまっている。

憐れな。

まあ、フェルが妹の本名をべらべら喋ってたせいもあるだろうけど。


「解子さん、すごーい」


レイが微笑む。


「にゃあああ?!キャラクターネームで呼ぶにゃああああああ?!」


「・・・まあ、俺が言いたかったのは、俺が前作のシルビアである事、六英雄とも一応つながりが有る事、くらいかな。トキも、前作から関わっているので、色々詳しいと思う。何か分からない事があれば、聞いてくれれば良い。効率の良い狩り場とか、戦闘の方法とか・・・」


「有り難うございます。助かりますぅ」


エレノアが嬉しそうに言う。


「あの・・・聞いても良いでしょうか・・・?マスターって・・・ひょっとして、女神様に拝謁した事が有るのでしょうか?」


「有るよ」


ユウタの問いに、答える。

・・・いや、今此処に居る全員が拝謁中・・・


「・・・凄いです!」


ユウタが祈る様な仕草をする。


「凄い凄い凄ーい!女神様、私も会いたい会いたい会いたい!会って、踊りを見て貰うんだ!」


「そっか。俺も見たいから、そこの岩の上ででも踊ってくれるか?」


「うん、良いよ!」


わーぱちぱち。


シン・・・


不意に、空気が凍る。

いや・・・なんだろう。


空気が止まって・・・何かを・・・待っている・・・?


あれは・・・レイか?


今まで楽しそうにしていたレイが・・・まるで別の存在の様に見える。


ゆっくりとした動作で、岩の上にのぼると、



この世、造り給うたもの

その御業、感謝の術無く

この身は御身のもの

されば踊らん



それは、神への賛歌。

それは、神への感謝。

神に捧げる踊り。


心に、魂に染みこんでくるその唄と、

生きる喜びそのものの様な舞い・・・


永遠とも思えるその時間は、刹那の間に終わり。


「・・・ふう・・・どうだった?」


「・・・凄いな。感動したよ」


満面の笑みで尋ねるレイに、素直に感想を返す。

空気が動き出した気がする。


まるで、世界そのものが、足を止め、レイの踊りを見ていた。

そんな気がした。



月花が、レイに布・・・羽衣?を差し出す。


「ん、何、これ?」


「あちらのメイド様からです」


「・・・えと・・・おひねり・・・的な・・・?さっき凄く美味しいジュース貰ったよ・・・?」


レイがメイド様を戸惑い、見ると、メイド様が微笑む。

うわ、メイド様の笑顔、滅茶苦茶貴重な気がする。


「・・・まあ、大した話はできなかったが、今日はこんな所か」


「・・・今日は生涯忘れられない1日になりましたよ」


ユウタが引きつった笑みを浮かべる。

確かに、レイの踊りは凄かった。


「みなさん、凄いですねぇ」


「まあ、過去は過去、今はただのギルドマスターだ。あまり気にせず付き合って欲しい」


エレノアに、素直な気持ちを言う。


「ますたああああ!好き!」


「おう、俺もレイの事は好きだぞ」


レイの頭を撫でる。


「改めて実感したけど・・・マスター、やっぱり凄いんだな。うまく言えねえけど・・・私がマスターを好きなのは、マスターが凄いからじゃねえ。そこだけは言っておく」


「お・・・おう」


サクラの微笑に、微笑を返す。


「あー、やっぱり、サクラと反応が違う!」


「まあ、大人の関係って奴だ」


サクラが、レイの頭をてしてしと撫でる。


「ご主人様・・・」


月花が、そっと耳打ちする。


「どうした?」


俺も、小声で尋ねる。


「後で、メイド様が話が有るそうです。カゲさんも一緒で構いません」


「承知したでござる」


さて。

・・・そもそも、女神様にはばれてなかったんじゃなかったのだろうか。

何で普通に此処にいたのか。

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