第41話 インスタンスイベント

(逃げられましたね)


ロリアの、悔しそうな声。


『副社長に女性の影』というハニーポットに、凄い勢いで飛び込んできたサウザンド。

勿論、副社長に女性の影、という情報が欲しかったのではあるまい。

何かの重要情報の偽装だと考えたのだろうが。

俺の女性関係漁ってどうする。


普段ならやらないであろうミスを犯し・・・結果、ロリアによるトレースを許し。

そのアクセス元を調べたのだが。


残念ながら、もう1段階だけ、偽装があった様だ。

関係ない人物の私物のパソコン、それが発信元であった。

おそらく、その人物のパソコンを介し、アクセスしていたのだろう。

踏み台、という奴だ。


ただ、かなりの痛手にはなったらしく。

それ以降、サウザンドのアクセスは止まった。


恐らく、準備を整えているのだろう。

それが整ったとき・・・再び奴は来る筈だ。


(サウザンド・・・必ず捕まえます・・・!)


ロリアの決意に満ちた声。


「セキュリティの事は詳しく分かりませんが・・・結局、何か情報をとられたのでしょうか・・・まあ、商売が不利になっても、それはそれで構わない気もしますが」


イデア──夢守が報告書を見ながら呻く。

元々、六英雄に人類が依存し過ぎないようにやっている商売だ。

第三勢力に競争で負けても、それはそれで構わないのだ。

サウザンドが六英雄の手の者なら、話は別だが。

・・・勘だが、恐らく違う。


「まあ、分からない事を考えても仕方が無いですね。それより・・・六英雄の動向を調べましょうか」


俺は、話題を転じた。


--


「うーん・・・一緒に狩りするのは楽しいけど・・・また大陸ダンジョンかなあ」


レイが不満気に言う。


大陸ダンジョンは、低階層でそこそこの歯応え。

近く、罠も少なく、湧きも良い。

レアアイテムも出やすく、2階層以降なら少ボス狩りも楽しめる。

どうしてもヘビロテしてしまう。


「この前マスターが開放してた、レジェンドダンジョンは駄目なのか?」


サクラが尋ねる。


「無理だな。トキでもレベルが足りない」


トキは一応、圧倒的なレベルでは有るのだが。


レイ ニンゲン 女 Lv.314 モンク Lv.61 ダンサー Lv.45

ユウタ ニンゲン 男 Lv.261 プリースト Lv.42 ウィザード Lv.22

サクラ ニンゲン 女 Lv.513 上位侍 Lv.81

エレノア ニンゲン 男 Lv.402 ウィザード Lv.73

トキ ニンゲン 女 Lv.4,244 富豪 Lv.41 ウォーロック LV.37

カギロイ ニンゲン 男 Lv.300 ウェポンマスター Lv.30


「トキすご~い!どうしてそこまでレベルが高いの?ねえ、どうしてどうして??」


「うにゃ・・・知り合いに見つかって、レベリングされたにゃあ・・・」


(知り合いって、六英雄うさぁ?雁首揃えて、あの期間であのレベル・・・才能の無さがやばいうさぁ)


(え、知り合いって六英雄ですか?凄そうな名前なのに、あれだけの期間で、ご主人の1回のレベルアップ量に満たないとか・・・どうしてそこまで無能なのか気になります!)


お前ら。

その意見には賛同するけど。


(・・・六英雄、の実力は詳しく知りませんが。あのフェルの妹であれば、もっと高レベルかと思っていました)


・・・確かに。


「あれ、ますたあの方がレベル低そうなのに、この前ダンジョン探索してましたよね?」


「・・・それは・・・まあ、あれだ・・・色々有るんだ」


エレノアに痛いところを突かれる。


「ぶー、ますたー、何か隠してる!」


レイが不満そうに言うと、ぎゅっと抱きついてくる。


ぐいー


レイを持ち上げつつ。


「そうだな。そろそろ、色々話しておくか・・・といっても、大した話では無いのだけど。明日にでも、ゆっくり茶でも飲みながら話すか」


何時までも偽装しておくのも、面倒だし。

まあ、そこまで口は軽くないだろう。

多分。


ふにん


サクラが後ろから抱きついてくる。


「わたしゃ、どっちでも良いけどな。大体予想はついているしな」


「こ、こら、サクラ、離れろ!」


「なんだよ、マスター。つれないなぁ」


サクラがくすくす笑う。


「うー、サクラと私の反応が違う!」


レイが頬を膨らませる。

いや、レイは大人しく掴まらせて、サクラを追い払おうとしてるんだから、レイが怒るのはおかしいと思うが。


レベル300の制限ダンジョン、と考えると・・・やっぱり、大陸ダンジョンになるんだよなあ。


「クエストを受注しませんか?」


ユウタの提案。


「クエストを受注?」


「はい。冒険者ギルドでクエストを受注すると、イベントが発生するものがあるんです」


・・・フィールド型イベントを任意に起こせるのか。


イベントには、プレイヤー毎に何度も作成される、インスタンスイベントと・・・NPC達の生活に関係して起きたり、ストーリー進行に関係したりする、ユニークイベントが有る。

ユニークイベント、といっても、無数のNPCが無数に起こすもので・・・そこまで特別視するものでも無い。


インスタンスイベントであれば、例えば。

NLJの頃、とある教会に近付くと、吸血鬼のシスターとの戦闘が発生した。

ああいうものが、インスタンスイベントだ。

時間経過で復活なので、少し違うか・・・?


ユニークイベントと言えば。

魔族の都市を観光に行き、ロリアと友人になった。

ああいうのがユニークイベントにあたる。


(・・・あの惨劇をイベント扱いされるのは、ちょっと・・・)


惨劇て・・・言い方が有るだろうに。

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