第39話 トラウマ

「ともかく──」


イデアが、そう切り出すと、


「ロリアさん、貴方を悪者にする様な真似をしたのは謝ります。五英雄に伝え、広めさせたのは私です」


「・・・そろそろ、その謝罪は食傷気味なのですが・・・魔王の件は大丈夫ですよ。むしろ、魔王として恐れられるのが、私の存在理由です」


ロリアが困惑した様に言う。

まあ、謝罪する方にしてみれば初めて謝罪しているのだが。

ロリアにとっては、同じやり取りなんだよな。


ともかく。

これで色々片付いた、のかな。


--


「ますたああああ!」


ギルドチャットでレイに話しかけられ。

レイと合流したのだが。


さっそく、レイが抱きついてきた。

レイの頭を撫でてやる。


「どうした、レイ」


レイはぷくーっと膨れると、


「ますたあ、なんか落ち着いてる!この前は、もっとドキドキしてくれてたのに!」


「俺もいい歳だからなあ・・・」


ロリアのお陰で、少しは耐性ができている。


「まあ、お子様は相手しないって事さ」


サクラが豪放に笑う。


「お子様言わないで?!私はもう、一人前のレディーだよ?!」


「・・・いや、どうみても、実年齢がなあ・・・」


サクラが困惑した様に言う。

サクラが正しいだろう。

レイは、恐らく幼い。


「うー・・・それより、ますたあ!従魔バトルしたい!」


「従魔バトル?」


俺が尋ね返すと、オトメが代わりに答える。


「従魔同士、種目を決めて、競わせる遊びが流行っているようです」


「いや・・・従魔はそういう存在では無いと思うんだが・・・」


「純粋なバトルだけとは限らないようですね。人語をどのくらい理解しているか競ったり、跳躍力を競ったり」


「なるほど・・・」


俺は、レイの方を向き、


「なら、俺からはオトメを出そう。何で競うんだ?」


「よろしく御願いします」


「オトメさんじゃなくて!」


・・・あれ。

レイがツッコミを入れるかの様な勢いで叫ぶ。


「・・・もしかしてロリア?」


「ますたあのうさぎさん!!」


・・・ああ。


「・・・う、もふもふですか」


ロリアが呻く。


「・・・ロリア、何故かアポカリプスが苦手だよな」


多分、ルナナを思い出してしまうんだろうな。

ルナナは魔族相手に暴れまくってたからなあ。


ぽふ


手の平サイズのアポカリプスが出てくる。

ぴょん、ぴょんと跳ねる。


「それで、何の種目で競うんだ?」


「えっとね、ラビットパフ同士の競争は、跳躍力、的あて、かけっこで行うの!」


「ラビットパフレース、ですね」


オトメが呟く。

なんだそれ。

ラビットパフ同士、レースさせて、賭け事でもしているのだろうか。


アポカリプス、良く分からないが、適当に負けてやれよ。


(分かったうさぁ)


ぴょんぴょん、アポカリプスが跳ねる。


「よーし、私からいくね!うさちゃん、ジャンプ!」


ぴょん


レイのうさちゃんが飛び上がる。

2メートルといったところか。


「次はアポカリプスうさぁ!」


「喋った?!」


レイが叫ぶ。


ぴょん


3メートルといったところか。


「待って、待ってますた、今喋ったよ?!」


「そりゃ、従魔なんだから、育てれば喋るだろ」


「そうなの?!」


従魔を何だと思ってるんだ。


「いえ、ご主人様、それは違ううさぁ。喋る様になる魔物と、喋らない魔物がいて、ラビットパフは滅多に喋る様にはならないうさぁ」


「・・・そうなのか」


「喋ってるよ?!アポカリプスちゃん喋ってるよ?!」


・・・まあ、否定している本人が喋ってたら、説得力ないよな。


「それでどうするうさぁ?どんな種目で戦っても、ご主人様の従魔が負けるとは思えないうさぁ?」


「ううう・・・」


「・・・やっぱりもふもふは苦手だ」


ロリアが半眼で言う。


「ますたあ、どうやって育てたら喋る様になったの?!」


「いや、普通に、敵を倒して経験値流しつつ、魔石与えただけだが」


「ますたー、普通は魔石与えない、というか、そもそも魔石なんて滅多に手に入らないぜ?」


サクラがツッコミを入れる。

レンジャー以外だと手に入りにくいんだっけ。


「なるほど・・・他職では魔石が手に入らないのか・・・それは従魔を育てる上でかなりのネックになるな」


「ウェポンマスターは魔石が手に入りやすいの?」


レイが尋ねる。

ウェポンマスター?


・・・ああ。


「レイ、ますたーは職業偽装しているから、ウェポンマスターって表示は嘘だぜ?ますたーは、レンジャー系列だ」


「偽装?!」


サクラが訂正する。

そうか、レイは知らなかったか。


「そうだ。あまり深い意味はないんだが、実際の職業はレンジャー系列の職業だが、それは隠している。すまないが、他の人には黙ってておいて欲しい」


「うう・・・ますたあ、秘密が多い・・・」


レイが困惑した様に言う。

そこまで多くないとは思うが。


・・・まあ、ギルドメンバーには教えておいても良い気がする。

今度機会を見て、みんなに教えるか。


「そもそも、魔石を従魔に与える、という行為自体がおかしいうさぁ。普通は従魔は魔石を食べないうさぁ」


何・・・だと・・・


「・・・そうなのか。それは知らなかった。従魔と言えば、カギロイ殿の従魔しか見た事なかったからな」


ロリアが頷く。


「・・・というかさ、アポカリプス、だっけ。やたらと詳しくないか?」


サクラが小首を傾げる。


「うさぁ。システムにアクセスして情報を持ってきているだけうさぁ。アポカリプスが詳しい訳じゃないうさぁ」


「・・・システムにアクセスして情報を持ってくる・・・って可能なのか?」


サクラが怪訝な顔で問う。


「そりゃ、従魔なんだからできるだろ?」


何を今更。

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