第38話 六英雄の七人目
「今回は純粋なお遊びなので、強制とかしないですよ?!」
月花が慌てて否定する。
ち。
「それは安心しました」
イデアが、苦笑いする。
・・・女神様に直訴すれば或いは。
(やめましょう?)
ロリアが半ば焦りながら止めてくる。
しないって。
多分。
「と、ともかく・・・呪いの武具は危険、なのですね・・・そもそも、装備すべきではありません。注意を促しましょう」
トキが思案気に言う。
「眠りや魅了、混乱はどうなるんだ?」
「ステータス異常そのものは、
俺の問に、月花が答える。
「月花ちゃん。スマホモードでプレイしている場合は、
イデアが尋ねる。
「・・・不可能では無さそうですが、実現可能かどうかは断言できないですね。相談はしてみます──既に、かなり無理を言ってるんですよね」
難しい顔で、月花が頷く。
トキは、顔を上げ、
「にゃ、有難うにゃ。色々分かったにゃ!とりあえず、呪いやステータス異常には気をつけるよう、周知するにゃ!」
トキは、来た時とは違い、幾分元気が戻った様子だ。
「がんばです、トキちゃん」
「イデアさんも協力して下さい?!」
イデアは、しゅるしゅると覆面をまくと。
「しかし・・・拙者はトキ殿に信用されてないでござるから・・・」
「ああああ、ごめんなさい、カゲさん!!信用します、信用していますうう!!」
「慌てると語尾のキャラづけが無くなるのは、未熟ですよ。六英雄の七人目、その通り名が泣きます」
「そんな呼び方されてません・・・にゃああああ!」
そういえば、時々カゲも、語尾が消えてたなあ。
鑑定も看破も一切通じなかったのは、レベル差もあったのかも知れないが。
恐らく、偽装系のプレイヤースキルが有るのだろう。
イデア、影武者イデア、そして、ソフィア。
鑑定や看破の結果を信じ、実質を疑わなかった。
思い返せば、疑うべき点は相当あったのに。
俺は本当に・・・間抜けだったと思う。
(間抜けマスター、まぬたと呼ばれていましたからね)
お前いなかっただろ、オトメ。
語呂の良いあだなを捏造するな。
トキが走り去っていく。
「さて」
しゅるり
カゲが、再び覆面を外す。
「ご主人様、説明頂けますか?」
「その前に、ご主人様呼びやめないか?!」
「・・・では、シルビアさん」
つい本名で呼びそうになる。
ゲーム内で会うのは久々だ。
「説明、と言われてもな。ゲーム、こっそり開始してました、くらいしか。ちゃんと、挨拶に行く予定はあったんだぜ?」
「予想はついてましたけどね・・・ただ、うちの会社で起きている不可思議現象に関しては説明して欲しいです」
イデアが、口を尖らせる。
「ああ、アレは俺じゃない。ロリア」
にゅにゅにゅ
ロリアがロリアに擬態する。
「お久しぶりです、カゲさん」
「・・・ロリアさん?!なるほど・・・ロリアさんが従魔をされているのですね」
イデアが頷く。
ロリアはカゲの頃のイデアしか知らないので、カゲ呼びだ。
「ロリアは、
「なるほど」
「は?」
納得するイデアと、何故か訝しがる月花。
「どうしました、月花殿」
ロリアが小首を傾げる。
「あちらの存在をこちらに喚ぶシステムは、組み込まれていますが・・・こちらの存在を向こうに移動させるなんて、できませんよ?」
あれ。
「できてるぞ?」
「昔、月花ちゃん、
「できる訳が無いのですが・・・魔物の件は可愛いジョークです」
イデアが苦笑い。
慌ててたもんなあ。
「仮に、実体をこちらに残し、魂のかけらだけ転移しても・・・あちらに存在する事はできない筈です」
「実体としては存在できていないな。スマホの中にいるだけだ」
「スマホ・・・?確か、携帯型の電子端末でしたか?魂の媒体となる仮想体を量子演算で実現・・・10年でそこまで文明が進歩するとは思えないのですが・・・」
やばい。
何言ってるのか分からない。
「まあ、できるんだからできるんだろ。神様に聞いてくれ」
人間業を超えた技術の領域。
俺には分からん。
「女神様は、ご主人様がこちらに来ている事を知りません」
・・・え?
「女神様が、ですか?」
イデアが驚いた顔をする。
「はい。ご主人、及び、その周辺の存在は、何故かシステムから認識できませんし。私も報告していないので」
「月花、報告してないのか」
「──」
「ん?」
「何でもありません。とにかく・・・ご主人様は、本来、βテストが終わってからお喚びする筈だったんです。ご主人様には、満足行く品質でプレイして頂きたかったので」
いや、普通に早くプレイさせて欲しかったんだが。
αテストから呼べよ。
「『だって、女神様や他の従魔に──きゃあああ───教えたら、ご主人様を独り占めできないじゃないですか』と、そこの妖精は言っていました」
途中で月花がオトメの口を塞いだが、何処からともなく声を出し、月花の悲鳴を乗り越えて喋る。
「捏造はやめて貰えますか?!」
月花が叫ぶ。
ですよね。
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