第37話 繰り返される過ち

「にゃああああ、ますた!」


しばらく姿を見なかったトキが、ログインした俺を突撃。


(消しますか?)


消さない。

オトメ、何故かトキに厳しくないか。


「どうした、トキ」


「少し、内密に話が有るにゃああああああ!」


内密にって声量でも無いが。


「構わないが・・・何時も以上にテンションが高いな」


「徹夜続きのせいにゃああああああああ」


リアルの仕事が忙しいのだろうか。

そこまで競合する事業でもないので、トキの会社の状況はあまりチェックしていない。


(業績は──残業時間の平均は──解子自身の勤怠は昨日が──今日が──今朝の起床時間は──)


詳細な報告有難う。

仕事は忙しく無さそうだが。


「それで、どうした?」


トキは、雰囲気を一変させると、


「シルビアさん。お話が有ります」


そう言い、近くの岩に腰掛ける。

武器を変えたいとか、従魔を探したいとか、そういう話では無さそうだ。


ぽふ


俺は、無言で頷き、近くにいたアポカリプスに座る。


・・・進化して、座れるサイズになってるからな?

念の為。


(もふもふ・・・もふもふ・・・)


何故か、ロリアのトラウマを刺激するらしい。


「実は、アリスさんから──あ、有難う御座います」


オトメが、ロリアに珈琲を給仕する。

となりに腰掛けるカゲにも。

トキについてきたのだろう。


「最近、LJOのプレイヤーが、ゲームプレイ中に意識を失ったのはご存知ですよね」


「ご存知じゃ無いな」


「えっと、失ったプレイヤーがいまして、話を聞いたりしていると、LJO内の事件が浮かび上がりまして」


スマホモードでのプレイ中って、どうなるのだろう・・・

中に入れば、肉体は消えるのだけど。


カゲ、覆面しているのに、どうやって珈琲飲んでるんだ?


「その事件の捜査に協力するうちに・・・シルビアさんとサクラさんに思い当たったんです」


刀の事件か。

スマホモードでプレイ中の奴が、強力な呪いで操られた状況。

どうやら、リアルでは意識を失うらしい。

リアルで暴れなくて良かった。


「あ、大丈夫です。六英雄に、シルビアさん達の事は言ってません。此処に来る事も伝えてません」


カゲが小首を傾げる。

気配を殺してついてきたのだろう。


「特に──カゲさんには伝えてません。あの人は・・・何というか独特で・・・正直、信用できないんです」


カゲが、私?と、自分を指差す。


「カゲさんって、横におられる方ですよね?」


オトメが尋ねる。


「・・・?!」


トキが、ようやくカゲに気付いて、後退る。


「お構いなく」


「ああああ、すみません、すみません、すみません」


トキがカゲにぺこぺこと。


「いや、カゲは信用して良いぞ。そもそも、カゲは、俺が六英雄に潜り込ませた存在だ。俺の目的通りに行動させる為にな」


「・・・え?」


トキがぽかんとする。

いや、気付けよ。


「・・・フェルから、カゲの事を聞いてないのか?フェルとカゲは友人だぞ」


こくこく、とカゲが頷く。


「カゲさんが・・・?聞いた事は無いですね」


どんより


カゲが項垂れた格好をする。


「主に出てきたのは、六王さん、リリックさん、スレイさん、フレアちゃん、後はシルビアさんの従魔さんの話でしたね」


おかしいなあ・・・ああ。


「トキ、イデアの話題は良く出たか?」


「イデアさんなら、頻繁に出てましたよ」


なるほど。


「カゲって、イデアだぞ」


「えっ?!」


カゲがきょとん、とした目をする。


「シルビア殿・・・いえ」


しゅる


カゲが覆面を取ると、久々に見た懐かしい顔。

黒髪に銀色の目。


「ご主人様、気付いておられましたか」


滲み出る、深い、夜の気配。

そこに居るのに、そこに居ない。

気配を感じないのに、存在を感じる。


「イデア・・・さん・・・?影王アークシャドウ・・・?」


気付いたのは、LJOが終わって、しばらく経った頃だった。

思えば、気付くべききっかけは無数にあったのに・・・本当に、昔の俺の鈍さ・・・いや、考えの足りなさには腹が立つ。


他の六王が俺の傍を離れた時。

イデアは、自分の影武者を用意し、自分はカゲとして俺の傍に残ったのだ。

カゲが強いのも、『イデア』が他の六王に比べて数段劣っていたのも、俺への反応が薄かったのも・・・当然だ。

それなのに俺は、イデアは俺を忘れたとか、失礼な事を考えていた。


『イデア』は2人目だと断言してたしな。

そのままじゃないか。


フェルは・・・気付いていたんだろうな。

イデアが残ったから、自分は安心して俺の傍を離れられたのかも知れない。


「・・・イデアさんなら、信用できます」


トキが、弛緩する。


「それで、トキ。刀の件が、どうしたんだ?」


「あ、そうでした。シルビアさんなら、何か知らないかと思いましてっ」


「それはまあ、知ってるが。妖刀正宗、レジェンドレア、抜いた者に強い怨念を浴びせて殺人衝動を引き起こす」


「・・・!殺人衝動・・・それで・・・あれ・・・サクラさんは大丈夫ですか?」


「サクラは耐えたらしい」


凄いよな。


「元からメンタルが強いですが、加えて、プレイヤースキルが有るので。サクラなら大丈夫ですよ」


月花が補足。

プレイヤースキル持ちか。


此処で言うプレイヤースキルは、ゲームのうまさでは無い。

プレイヤーが持っている特徴。

みんなが同じプレイスタイルにならないよう、ちょっとしたフレーバーだ。

呪い無効はちょっと強い気がするが。


それにしても。


「それで、ゲーム内の影響で、現実リアルに影響が出たから、問題になったということか?確認するが、そいつは、スマホモードでプレイしていたんだな?」


「はい。スマホモードでプレイしていました。なので、異常が目立ってしまって・・・NLJOの危険性を警告する動きが・・・」


嫌な流れだ・・・


「ぬうう・・・人間どもめ・・・かつてその流れで、人類が滅亡に傾いた事、はや忘れたか・・・愚かな・・・」


「え、そうなんですか?!」


俺の呻きに、トキが反応し、涙目で叫ぶ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る