第28話 ゆあらば

(私、気になります・・・だって、オトメだもの)


やめい。


「個人同士のメッセージのやり取りすら消えるという噂ですよねぇ。政府とか、五王とか、大きな権力が動いているという噂ですぅ・・・最近、逆に勢いを得てますよね。魔王がロリアではない説」


エレノアがのほほんと言う。

まあ、そこ迄不自然に消えたら、怪しいわな。


「そういう、異説は有るな。所詮、歴史、だ」


俺は、淡々と呟く。

続ける。


「後から、どんな想像もできるし、誰も見た訳でもないなら・・・どんな事だって言える。ただ・・・事実は事実、それは変わらないし。ロリアが魔王になったのは、幾つものデータしている。書き込みが消えるのは・・・まあ、政府か五王か・・・だが、混乱を招く流言飛語を消しているだけだろう?」


落ち着いた声音で、言う。


「それより、制限ダンジョンに入るぞ」


無理に話を断ち切ると、制限ダンジョンを作り、みんなを誘導した。


--


迷いの森ダンジョンは、地上型のダンジョン。

木々が生い茂っていて、細い道が続いている。

道以外の場所は侵入不可領域で──


「わーい、森だあああ!」


レイが、木々の間を分け入っていく。

侵入不可領域じゃないのか。


「にゃあ、道を外れられるのかにゃ?」


トキが目を丸くする。

五王も知らなかったのか?


ガサ・・・


腰くらいの高さの芋虫、高さ2メートルくらいのカマキリ・・・

昆虫系の魔物か。


「にゃ、虫にゃあああ?!」


「虫苦手なのか?」


「別に苦手じゃないにゃ」


「そうかにゃ」


NLJOでは、一般的なフルダイブ型MMOと比較して、あらゆるものがリアルだ。

昆虫が苦手、とか、アンデッドが苦手、とかいうと、致命的に狩り場が狭まるし、敵が恐怖の幻影魔法とかを使うだけで容易に混乱する。

空気感とか、臭いとか、音とか。

本当にリアルだ。


まあ、LJOでは使命感もあったし、みんな必死に慣れて我慢したんだけど。

10メートルを超える高さの昆虫とか、魔王軍が出してきたからな。

悪趣味だ。


(いや・・・その、ですね。強い合成獣は大きくなるし、昆虫型は造りやすかったのです。アンデッドは、魔法との相性が良かったですし・・・動いて攻撃できればそれで事足りる)


ロリアのフォロー、らしきもの。

趣味悪。


「凄くリアルですねぇ・・・あの大きさで、骨が無くても動けるのでしょうか?」


「やー、難しい事は分からねーけどよー。魔法とかで支えてるんじゃね?」


「なるほどぉ。周囲に魔法がうっすら展開されていますね。外骨格というより、魔法骨格と言うべきでしょうか?」


サクラとエレノアが話している。

良く分からないけど、多分、サクラも頭良いだろ。


「うー・・・虫さん・・・」


レイが少し引き気味だ。

まあ、正常な反応ではある。


モンクは、直接敵を殴るポジションなので、本当に虫やアンデッドが苦手だと、致命的だ。


ひゅ


レイ、サクラが走る。

このPTの前衛は、この2人だ。


トキは中衛。

状況を見て、前衛になったり、後衛の護衛をしたり。


俺とエレノアは、後衛。

エレノアは敵にダメージを与えたり、広範囲高威力魔法を放ったり。

ユウタは、支援、回復、後衛の護衛だ。


ザンッ


サクラがあっさりカマキリを両断。

・・・トゥルークリティカルを高確率で出せているので、役不足だな。

敵が適正レベルになっているせいで、前衛だけで倒してしまう。


「経験値が凄く入る様になりましたね」


ユウタがログを見て言う。


「公平設定になったからな。基本経験値の分配が公平になった。テクニカルポイントは、分配対象外だが」


「ねーねー、ますたあ!チャレンジポイントっていうのは何?」


「こう・・・手に重りをつけるイメージで・・・こう・・・」


ざぐぅ


<53,241ポイントの経験値を取得しました>

<1,432,436ポイントの追加経験値を取得しました>


「手に重りをつけるイメージって何にゃあて何にゃあ・・・?」


トキが半眼で呻く。


「んー、やってみるー!」


レイがてててっと、芋虫に走り寄り、


げ・・・し


蹴り難そうに蹴る。


「そんな事しても経験値は増えないにゃ?」


「んー?40万ポイント程追加で貰ったよ!」


「多過ぎるにゃ?!」


「良いなあ」


ユウタが羨ましそうに言う。

プリースト系列はソロも難しいし、レベルが上げ辛い。

経験値は欲しいのだろう。


結局、テクニカルポイントを大量ゲットできたのは、レイだけだった。


--


ギルドホーム。

湖畔に並べられた、ビーチチェア。

それに寝そべり、レモンウォーターを口に運び・・・


ぽしぽし


月花が、小山になった魔石をほうばる。


「量が少ないし、質が悪いですね」


「俺のレベルを考えろ。それだけ捻出するだけでも大変なんだ──別の用途もできたしな」


月花に魔石を渡して、ギルド機能を強化。

ロリアに魔石を渡して、武器を強化。

オトメに魔石とレア武器を渡して、強化。


本当に、色々足りない。

LJOからのアイテム引き継ぎって無いのか?


「本当に、魔石をあげちゃうのですね」


しず


落ち着いた佇まいで、トキが歩いてくる。

微妙な格好で気配を殺してた時から、ずっと気付いていたのだけど。


五王から聞いたのだろうな。

俺がLJOで、従魔に魔石を与えていた事。


「・・・え、こ・・・これ・・・ええ・・・??」


トキが、何かに気づいた様に、リヴァイアサンの魔石を掴んで、震える。

どうした?

何かの素材だったか?


「いや、これも・・・ボス魔石じゃないですかああああああああああ?!」


「違うぞ?」


リヴァイアサンは、大陸ダンジョンではダミーボスやってるが。

静謐なる湖畔ダンジョンの3階層では、通常の雑魚だ。

しかも、リンク属性──1体殴ったら、ワラワラ寄って来る。

大体、1体で1個は出るので、そこ迄貴重では無い。


ちなみに、別に指さしたのは、デザートウルフ。

地上フィールドでは小ボスだが、ピラミッドダンジョンの2階層に普通にうろついてる。

珍しくは無い。


「・・・流石、さんですね」


トキが言う。


俺が笑みを浮かべ、トキを見ると。


「はい、私は全てを知っています。貴方が何者なのか。昔何があったのか」


トキは恐らく、五英雄の関係者。

そこ迄はわかっているのだが・・・


「私だけ分かっているのは、不公平ですよね・・・私は──」


さて、誰だろう。

正直に言おう。

全く想像がついていない。


魔道技術に詳しいから・・・ポラリスかソフィアに近しい存在・・・か?


「私は、貴方の恋人の・・・妹です」


「誰だ?!」

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