第27話 怪文書

あれ。


「でも、レベル差結構有りますよね?」


ユウタが尋ねる。


レイ ニンゲン 女 Lv.93 モンク Lv.1 商人 Lv.1

ユウタ ニンゲン 男 Lv.84 プリースト Lv.1 メイジ Lv.1

サクラ ニンゲン 女 Lv.106 ハイソードマン Lv.1

エレノア ニンゲン 男 Lv.91 ウィザード Lv.1

トキ ニンゲン 女 Lv.193 トレーダー Lv.9 シーフ Lv.41

カギロイ ニンゲン 男 Lv.93 ハンター Lv.1


トキがな。


「制限ダンジョンを使うか」


「制限ダンジョン、ですかぁ?」


「ああ。入場時に、既定レベルより高い人は、上限レベルまで下げられるダンジョンだ。無論、危険は伴うが、公平設定が可能だし、本来のレベルに見合う経験値が得られるので、上手く使えば役に立つ」


死亡したら人生終了のゲームでは、危険極まり無いが。

雑魚に殺されて現実リアルで死ぬとか、嫌過ぎる。


「レベル100の制限ダンジョンでしたら、迷いの森ダンジョンがお勧めですね」


月花が、空中に地図を展開する。

未体験のダンジョンだな。


「なら、ちょっと行って、ゲートを作るか」


アジトマップの出入り口は、複数設定できる。

ダンジョンの側や、街の側は、積極的に開放したい。


「にゃ、手伝うかにゃ?」


「いや、大丈夫。そう遠くも無いし」


「では、のんびりしてるかにゃ」


ゲートから外に出る。

偽装を解除、本来のステータスが戻る。


意外と、レベル上がっているな。

制限ダンジョンの様に、元のレベルでも遜色無い経験値が入っている様だ。


ひゅ


一歩、一歩。

背景が、高速で流れる。


この速度なら、程無く着くはずだ。


--


「此処が・・・迷いの森ダンジョンなのですね」


ユウタが上を見上げ、言う。

背の高い木々が生い茂る、地上型ダンジョン。


「制限ダンジョンは、1階層が、ほぼ適切な難易度。下層に行くにつれ、制限レベルと、出現する敵のレベルに差ができて、難易度が上がる。とりあえずは、1階層でレベル上げをすればいいと思う」


みんなを見回し、説明する。


「にゃあ。カギロイさんが、全然違う高レベルダンジョンに案内するかと思ったけど、普通に迷いの森ダンジョンだったにゃあ」


失礼な。

俺を何だと思ってるんだ。


(いえ、普通に通り過ぎて、深く蒼い森のダンジョンのゲート解放しましたよね?)


黙っていればバレない。


(ギギ・・・ゲートガ・・・フエテイルカラ・・・ワカルト・・・オモフ)


普通に喋れ。


「ゲートが点灯しているから、ご主人様が間違えて深く蒼い森のダンジョンを解放した後、気づいて戻って、迷いの森ダンジョンを解放したのは明らかだと思いますが」


普通に喋るんじゃねえ。

念話にしろよ。


「あ、そう言えばゲートが増えてた!行ってみたい!」


レイが嬉しそうに跳ねる。


「深く蒼い森のダンジョン・・・?聞いた事が無い・・・未踏破地域の・・・名前も物々しいので、レジェンドダンジョンでは・・・にゃあ」


トキが眉根を寄せ、言う。

周辺の魔物もレベル1万を切ってたし、そこ迄ではないと思う。


「まあ、後で行ってみれば良いんじゃねえか!」


サクラが豪放に言う。

死ぬぞ。


「ともかく、制限ダンジョンを起動しよう──ロリア」


ガタッ


それ迄歓談していたトキが、顔から表情が消える。


「ロリ・・・ア・・・?」


しまった。


「ロリアって、誰?」


レイが小首を傾げる。

若い世代は知らないんだよな。


「忌むべき存在です。この世の全ての悪・・・口にする度、魂が汚れます・・・にゃ」


トキが淡々と告げる。


「10年前、人類の大半を殺害した、最強最悪の魔王の名前ですねぇ・・・」


エレノアが、苦笑いを浮かべながら言う。


(ははは・・・)


ロリアが苦笑い。

マジですまん。


「んー。わたしゃ良く分からないだけどさあ・・・ロリアってそんなに悪い事したのかぁ?」


サクラが言う。


「当然でしょう?アレに親を殺された人、愛する人を殺された人、子供を殺された人・・・姉を殺された人・・・良く分からないからって、言っていい事と、悪い事が有りますよね」


トキが、感情を押し殺した声を吐き出す。


「う・・・お父さん・・・お母さん・・・」


レイが、俯く。

空気が、重いな。


「いやあ、でもさあ・・・魔王化したのって、ロリアなのか?」


ちょ。

(え)

(?)


「お、おい、サクラ・・・?」


思わず、制止を──


「当然でしょう?」


トキが、視線だけで殺せそうな様子で、サクラを睨む。

おいおい・・・


「んー。だってさ・・・ロリアって、弱かったんだろ?ロリアが魔王化しても、六王を殺すなんて無理じゃね?」


(ぐふっ)


ロリアが化けているフロートポッドが歪み、幾分下がる。

呪詛吐かれた時より大きいダメージ受けてるな。


「魔王が六王に圧倒された事からも、魔王化って、そこ迄規格外でも無いんじゃねー

か?だってさ・・・街には最大戦力がいて、更に・・・あの、魔導王アークウォーロックフェルがいたんだぜ?」


分からないとか言いながら、詳しすぎませんか?!


そう言えば、思い返せば。

トキが良く分からない事を言ったときも、クリティカル出せてたな。

実は相当頭が良いのかも知れない。


「でも・・・魔王化したのは前魔王の娘ロリア!それは、賢者ソフィア殿から明言されている・・・!」


「断定的、証拠が揃い過ぎているのが気になるんだよなあ。だってさ、魔王はその場にいた全てを殺害、その後即死結界を張った・・・誰がそれを報告したんだ?六王ですら逃げる事も抵抗する事もできない相手に?」


しかも虚偽だしな。

賢者ギルドが何故、虚偽の情報を広めてくれたのか・・・それは分からない。

まあ、カゲは盗賊ギルドに所属する。

そこから情報提供されれば、それは信じるべきもののはずだ。


「確かに、魔王がロリアかどうかは、異説が有りますねぇ。主に怪文書の類ですが。ただ・・・」


エレノアが言う。


「ああ、あれだよね」


ユウタが言う。

あれ?


「「「消したら増える」」」


(ぐふっ)


どうした?!


「魔王がロリアではなかった説、動画やテキストで投稿される度、何故か消えるんですよね。最近では、消したら増える、ってフレーズをタイトルにつけて、投稿が相次いでます」


(あああ・・・)


ロリア、まさか・・・消してるのか・・・?


(不自然に消せば、都合が悪い、すなわち真実だと思われて、逆効果だと思います。何故それが分からないのか、分かりません)


ぐしゃあ


オトメの言葉に、ロリアの上に9999が幻視され。

地面に落下、フロートポッドが半ば潰れ、じわりと汁が滲む。

フレンドリーファイアしてるんじゃねえぞ。

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