第26話 LJO

勿論、近づいて来ているのは知っていたのだが。

タイミングを図りつつ、音を殺して動いてる様は少し滑稽だった。


「トキさん、どうした?」


>「LJOの事は、禁忌となってるにゃ。あまり広めちゃ駄目にゃ」


ウィスパー、キャラを指定して、秘密の会話ができる。

トキの様子、月花と再会したあたりからおかしかった。

月花の名前は、五英雄には知られている。

恐らく、俺がシルビアだと気づいたのだろう。


トキが誰かは分からないが、恐らく、六英雄の誰かではない。

恐らく、六英雄への協力者、だろう。


「このゲームの前身、LJOの話ですね。NLJOでは、ログアウト不可になる事は滅多にないので、安心して下さい。ゲーム内で飲食をしたり睡眠を取れば、現実リアルのかわりになるのは本当です」


「そうなんだ、NLJOでは大丈夫なんだね!・・・・あれ、じゃあ、さっきたくさん食べたのは・・・」


「待つにゃ、月花さん。滅多にというのはどう言う」


トキが月花の肩を持つ。


「お嬢様、デザートをお持ちしました」


オトメが、パンケーキにクリームをたっぷり乗せて持ってくる。

服装もメイドだ。

・・・お前、料理できたのか。


(だって、オトメだもん)


「わーい、ありがとー!おいしー!」


ダイエットは良いのか?


「ほら、トキさんもどうですか?スイーツをむさぼるチャンスですよ?」


「話を逸らさないで欲しいにゃあああ!」


「・・・トキさん、私は運営の関係者・・・貴方の個人情報を握っているんですよ。あまりぐいぐい来られると、此処で貴方の本名をばらしたりしてしまうかも知れません」


「最低の運営だにゃああああああああああ!」


トキが悔しそうに引き下がる。


・・・


あ。


「そうだ。魔法理論を整理してた、妹さんの名前思い出した。解子ときこちゃんだ」


「個人情報を漏らすにゃああああああああああああああああああああ」


トキが涙目で俺の肩を掴んで揺らす。

いきなりどうした・・・?


・・・そういう事か。

俺は、察した。


解子──フェルの妹は、五英雄でこそ無いものの、六王の妹にして、魔道士ギルドの実質的な支配者。

尊敬を集めていても、おかしくない。


敬愛する人物の本名を俺が口にしたから、怒ったのだ。

とは言え・・・フルネームでも無いんだし、そう目くじら立てなくてもいいと思う。


「どうしました?落ち着いて下さい」


「にゃああああああああああああああ!」


猫になっとる。

月花が落ち着かせようとするが、効果が無い。


「あの・・・あのね。加賀音かがね解子ときこって、良い名前だと思うの。恥ずかしく、無いよ!」


「にゃあああああああああ!恥ずかしさを論じている訳じゃ無いのにゃあああああああああああああああ!」


せっかくフォローを入れてくれたレイを、トキがぐらぐら揺らす。


・・・加賀音解子・・・あっ。


五英雄グループに近しい、崩壊前から続いているアパレルブランド・・・カガネの社長じゃないか。

そうか、フェルの会社は、衣服メーカーだったのか。


堅実に、使える、服を展開。


幅広く受け入れられているが・・・その真価は、10年以上前から変わらない、数種のデザイン・・・カガネブランドのそれは、多くのメーカーに真似されているが・・・原点にして頂点。

未だに恐ろしい人気がある。


恐らく、アレは、フェルの作品なのだろう。

正に、魔王級。


ともあれ。

フェルから、妹をよろしく、と頼まれていたな。

加賀音解子さんか。

10年以上経ったが・・・挨拶くらいしておこうか。

五英雄とか、カゲとか・・・トキとかに仲介を頼んで・・・


「加賀音フェル、か」


「フェルは本名じゃないにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


そうだった。


・・・良く考えたら、リアルの俺はシルビアだと明かしてないし、リアルで会うの変じゃね?

普通に、ビジネス提携とかで話を持って行く方が現実的なのでは。


「・・・取り込んでます?」


ユウタが所在無げに立っている。

後ろには、サクラとエレノアもいる。

そちらは、オトメに渡されたパンを食べている様だ。


--


「公平PT?」


レイが小首を傾げる。


「ああ。レベルが近い者同士なら、より経験値分配が等しくなるPT設定だな。通常でも、貢献度に応じてある程度は分配されるが・・・近い方が、より平等に分配される」


「最もレベルが高い者と低い者のレベル差が1割以内、2割以内、2倍、3倍・・・と、段階を追って分配率が変わるにゃ。1割以内であれば、完全に等分されるにゃ」


俺の解説に、トキが続ける。


「もっとも、分配されるのは、基本経験値のみにゃ。テクニカルボーナスや、サポートボーナスは、分配後に計算されて加算されるにゃ」


そうなのか。

多分、前者は、上手くクリティカルとかをした場合のボーナス。

後者は、支援職が支援した際の経験値だろう。


「チャレンジポイントも、別途加算かなあ」


「チャレンジポイントにゃ?」


「ああ。敢えて難しく敵を殴ると、普段以上に経験値が入るだろう?あれだよ」


「どれにゃ?!」


********


2019/10/06

トキの様子、月花と再開したあたりからおかしかった

→再会

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