第20話 正中線と三角関数と微分
(カギロイ殿が低評価なのは、初めて見ました)
俺も、得難い経験だ。
これは・・・悪く無いな。
「いや、さっき、全く動じていなかった・・・むしろ、余裕だから、あたいらに経験を積ませる為、動かなかったんじゃないか?」
サクラが言う。
むしろ面倒だったと言うか。
「余裕はあったよ。俺は、フルダイブのVRMMOは良くやるし、親切な人から色々貰ったからな」
俺はそう言うと、鉄の弓や、鉄の円盾、鉄の剣を見せる。
「そう言えば、鎧も強そうですね」
ユウタが言う。
「全部コモンにゃ!強い装備じゃ無いにゃああ!後、他ゲームの知識や経験が通じると思うにゃああああ」
いや、エフェクトはURだぞ?
「実は、めちゃくちゃ強いキャラのセカンドとかだったりして」
「あり得ないにゃ。NLJOは、複数キャラの作成はできないにゃ」
サクラの発言を、トキが否定。
「聞いた事が有ります・・・NLJOには、前身となるゲームが存在したと。そのゲームでは、高レベルプレイヤーだった可能性が有ります」
エレノアがぽつり、と言う。
当たり。
「それもあり得ないにゃ。前作経験者は・・・6人と、1人。合計、7人しかいないのにゃ」
トキが小首を振る。
「7人・・・?六英雄、6人だけでは・・・?」
ユウタが小首を傾げる。
六英雄、の存在を知っている者も、減りつつある。
俺の存在を知るのは、ごく一握り、らしい。
トキは、五英雄に近しい存在なのかも知れない。
六英雄は、全員、前作と同じ名前でプレイしているしな。
「え、前作が有るの??」
レイが興味深そうに身を乗り出す。
「それより、何か来たぞ?」
警告する。
赤い蝙蝠が飛んでくる。
ブラッドバット、推奨レベル30。
決して強い敵では無いが、低レベルには脅威だ。
沸き時間はかなり長めだが、稀に狩り場に見合わない敵が沸いたりする。
「・・・しまったにゃ・・・みんな、逃げるにゃ!」
トキが叫ぶ。
「俺が足止めしよう。トキさんは、みんなを連れて避難してくれ」
「にゃあ?!危険にゃあ!あいつは・・・私が倒すにゃあ!」
トキが俺の前に出ようとする。
面倒だな。
ひゅ
俺の矢がブラッドバットに命中。
本来は当たらないステータス、距離だが。
システムアシストをオフにした、手動の射撃で、無理に当てる。
<種族レベルが32上がりました>
く。
テクニカル過ぎたか。
<種族レベルを32下げました>
静まれ、俺のレベル。
ぱしゅっ
とどめ。
ブラッドバットが地に落ちる。
「前にやっていたVRMMORPGと、操作感が似ているな」
「にゃ・・・あの距離、あのレベルで当たる訳ないにゃ?!」
「システムアシストをオフにして、狙えばなんとかなったよ。これでも、前のゲームでは、狙撃手をやっていたのでね」
言い訳しておく。
「なるほど・・・システムアシストは強力だけど、テクニックがある人にとっては、逆に邪魔になる訳か」
サクラが頷く。
「凄い・・・私もオフにする!」
レイが叫ぶ。
いや、そもそも、君はアコライトだよね?
「でも、危なくなったら、カギロイさんに助けて貰えるねぇ」
エレノアがほのぼの言う。
「・・・仕方が無いにゃあ・・・」
トキが溜息をついた。
--
少しずつ進み、みんなで殴る。
少しずつ、みんなのレベルも上がってきた。
(ご主人様、あの猫だけ目立っています。もう少し活躍されないと、負けてしまいます)
何に?
(オトメ。こういうゲームは、最初に分からない者同士で色々試行錯誤するのも、楽しみなのですよ。確かにカギロイ殿が色々教えれば、早く強くなりますが・・・敢えてそれをしない、それがカギロイ殿の考えです)
うむ。
時々、多く来た時に数は減らすが。
基本的には、威嚇程度に、急所を外して撃つくらいだ。
・・・鉄の矢、徐々に減ってきたな。
(なるほど、そういう事なのですね)
「うにゃ・・・こうかにゃ」
ババッ
激しいエフェクト。
トキがクリティカルを発生させた。
「うにゃ・・・こうかにゃ?」
パシッ
眩しい光。
トゥルークリティカルだ。
・・・もう、クリティカルヒットマスターしたのか。
早いな。
「お、トキ。それ何だ?」
サクラが食いつく。
「クリティカルヒットにゃ。上手く当てると、防御一定量無視、ダメージアップになるにゃ。更に上手く当てると、トゥルークリティカルヒットになるにゃ」
知識としては知っていたが、感覚としては知らなかった感じか?
「良いなあ、私もやりたい!」
レイがトキにぶら下がり、やり方を請う。
トキが何やら難しい理論を並べている。
そんなの分からねえよ。
何となく、感覚で、どのあたりがクリティカルか見抜く方が早道だと思う。
「なるほど、分からん」
サクラが胸を張って言う。
ですよね。
「なるほど・・・分かりやすかったですぅ」
エレノアが言う。
おい、メイジ。
キキ・・・
ネズミが近づいてくる。
「「えい」」
ババッ
エレノアとサクラが殴り、共にクリティカル。
「やればできるな」
「ですぅ」
一発でものにした・・・だと・・・
「うー?分からないよう!」
レイが叫ぶ。
・・・そうか、この流れなら、俺がクリッても不思議じゃない。
パシッ
遠くを飛んでいたバットにクリティカル。
倒す。
「なるほど、分かりやすかった。有難うトキさん」
「にゃ・・・にゃんであの距離で?!正中線と三角関数・・・微分・・・一瞬で計算したにゃか?!」
聞き流してたが、そんな事してたのか。
「ねーねー、カギロイさん!私にも教えて!」
トキに聞けよ?!
「え、いや、ほら、あれだ・・・それっぽい場所を殴れ」
「うん、分かった!」
とてとてとて・・・ババッ
無事クリティカルが出た。
「何であの説明で出せるにゃ?!」
微分云々よりはマシだと思うが。
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