第13話 ワン

「カギロイ殿、そろそろ23時30分です」


「有難う。そろそろあがるか」


安全な場所でログアウト。

ロリアは、ゲーム内でも、ゲーム外にアクセスできるらしい。

まあ、俺も、普通にスマホゲームとしてプレイしていれば可能なんだが。


ログアウトした後は、そのまま就寝。

ゲームを再開してから、晩御飯は要らなくなったな。

・・・実は、家も要らないんじゃね?


--


「ワン?」


犬?


「今人気ダントツ一位、アイドルのワンですよ。ライバル企業が、コマーシャルソングにワンを起用する、と言う噂が有るんです」


経営戦略会議。

別に、したければすれば良いと思うが。


「ワンですか。今まで企業活動には一切関わっていませんでしたが・・・五英雄とワンは繋がりが有ると言う噂が有りますからね。有り得ない話では無いですね」


夢守が思案気に言う。


別に、五英雄と政治的に対立している訳では無いのだが。

五英雄とは無関係の企業、と言う事で、相手側から警戒の目を向けられる事が多い。

普通の一般企業だからな、うちは。


ちなみに、六英雄──人類を救った英雄達、から1人減っているのは、深い意味は無い。

六英雄の1人、カゲがうちのボスの夢守。

かつ、夢守は五英雄にその事を別に伝えていない。

ただ、それだけだ。


(ワン・・・確かに情報が少ないですね・・・むむ、1年前の盗撮映像なら有りました)


(良し、映してくれるか)


「少しディスプレイを借りるぞ」


俺がそう言うと同時。

会議室に投影された疑似スクリーンに、アイドルの映像が映る。

なるほど・・・確かに可愛い。


歌い始める。

ついつい、その歌声に惹き込まれ・・・


映像が終わってからも、しばし、皆無言。


「確かに、ワンは魅力的なアイドルの様だな。コレがCMをすれば、少し痛いかも知れん」


品質と値段で勝負するしか──


「お・・・朧月さん?!今のは一体・・・?」


部下が驚いた様に尋ねる。


「話題に上っていた、ワンの映像だな」


「・・・その素顔すら見た者は稀。歌の販売はされているけど、ライブは極限られた者しか参加できない・・・どうやって入手したのですか・・・?」


夢守が訝しげに問う。


「さあ。ネットに落ちてた盗撮映像らしいが」


何処にあったんだ?


(所属プロダクションのサーバーのキャッシュに暗号化されて残ってましたよ)


それ、盗撮映像じゃ無いんじゃね?


「・・・流石ですね、朧月君」


夢守が半眼で言う。


・・・何か有りそう、その目は、そう語っていた。

夢守には、ロリアの事教えても良いんだけどな。

ロリアが魔王と言う嘘を広めた際の、共犯者だし。


--


週末。

ウィークエンド。

ただの2連休。


エクストリーム定時退社からの、エクストリームダイレクトログイン。


怪魚と烏賊を倒し、腹ごしらえを済ませ。


「レベルもそれなりに上がったし、水泳スキルも上がった。そろそろ」


「ボス、ですね」


「いや、その前に探検だな」


「探検・・・ですか?」


神殿までは一本道。

確かに地上に探索の余地は無いが。


俺は広大な地底湖を見て。


「この湖は、怪しい」


「何も無さそうですが・・・」


ロリアが困惑した様に言う。


行くぞ。


--


ざばあ


何度目かのダイブ。

水面に顔を出す。


敵と遭遇、戦闘になって中断。

もしくは、何も見つけられず、息継ぎの為に浮上。


・・・


「ロリア」


「はい?」


「水中呼吸の魔法を」


「はい」


にゅにゅにゅ


ロリアが、ロリアの姿に擬態する。

この姿でないと、魔法は行使出来ないらしい。


「アーク・アクアブリーズ。ドルフィンウォーク」


俺とロリアを、青い光が包む。

画面上部に、水のアイコンと、3:00:00と表示される。

数字が徐々に減る。


「3時間が限界か」


「魔装を解除すればかけ直せるので大丈夫ですよ」


大丈夫らしい。


流石に、素潜りよりは楽だ。

水中移動補助も掛かっているようだ。

移動速度も上がっている。


ゴボ・・・


怪魚・・・水中で戦うと、鬼の様に強いが。

それでも、素潜りで戦った時よりは楽に倒せた。


そして。


違和感がある岩肌。

それを押すと・・・


ゴウン


へこみ、岩が落ちていく。

岩肌に開いた、穴。

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