第8話 レンジャーの十戒

8時間程の連続戦闘の後、昼食休憩。

木の魔物から採取した木片に火をつけ、牛の魔物から採取した肉を焼く。

塩が無いのが痛い。

1度街に寄るべきだろうか・・・?


敵からドロップした、簡易テントで仮眠。

冒険を再開。

レンジャーの戦闘能力は残念だが、戦闘のコツ、そして、今作から実装されたウェポンスキルのお陰で、かなり楽に進められている。


一瞬だけログアウトして、リアルの時間を確認。

3連休2日目の昼に、3階層への階段へと到達した。


2時間程かけて、ボスを倒す。

回復能力が無いボスなら、非戦闘職でも時間をかければ倒す事ができる。

戦闘職なら瞬殺なのだろうけど。


<[UR]コケトリスの瞳を入手しました>

<[UR]魔石・コケトリスを入手しました>


武具ドロップは無し。

これはこれで貴重なのだろうけど。


さて、進むか。


「待つでゲス」


不意に、声を掛けられる。

ボスからドロップした3つの宝箱、鉄、銀、金。

うち、金の宝箱だ。


「何故わしを無視するでゲスか?」


いや、だって、


「お前、ミミックじゃん」


喋ってるし。


「何度も何度も・・・」


「そりゃ、ミミックは開けないよな?」


レア魔石とか出るのだろうか?

でも、大抵強いからな。

労力に見合わない。


「扉に化けたらスルー、トラップに化けたら回避、宝箱に化けたら放置・・・どういう事でゲスか?!」


「・・・今の奴と同一個体なのか・・・?ともかく、開けないからな?」


「金の宝箱だぞ?!」


「魔物だよな」


「無害だぞ?!」


「でも、実益も無いよな」


ミミックは開けない。

これは国際レンジャー協会の共通見解なんだ。


「今開けたら、レア魔石を進呈」


「間に合ってます」


ボス魔石、幾らで売れるかな。


「だいたい、何故ミミックだと分かったのだ・・・ゲス」


「ミミックを見破れないレンジャーはいないからな」


そんなレンジャーは3流だ。


これ以上の問答は不要。

俺は先を急いだ。


--


「待て」


3階層。

小部屋。

少ボスを倒し、部屋を出ようとすると、


台座に刺さった美しい剣が語りかけてきた。


「何故、我を抜かぬ?」


「ミミックだからな」


正確にはイミテーションモンスターという分類。

ミミックでは無いのだろうけど。

宝箱、扉、武具、宝石・・・あらゆる物に化ける。

ゲームによっては、先制攻撃で即死魔法とかやってくる。


「我を抜けば、望みの褒美をやろう。さあ、我を手に取るのだ」


「レンジャーの十戒。レンジャーは、トラップに引っ掛かってはならない。すまないが、お前を抜く訳にはいかない」


俺はそう告げると、先を急いだ。


--


「待って下さい。何故私を開けないのですか?」


通りすがり様、声を掛けられる。


「ミミックだからな」


「・・・そもそも、何故見抜けているのですか?」


「ミミックを見破れないレンジャーがいてたまるか」


「・・・レンジャーの要求基準が厳し過ぎませんか・・・?」


いや、ミミックに引っ掛かかるレンジャーとか、有り得ないだろう。


そもそも、


「ミミックかどうかに関わらず、宝箱も階段も無い・・・意味の無い扉は開けないだろ?」


「普通は、何もないか分からないので、開けて確かめると思うのですが・・・」


そんなレンジャー嫌だな。


--


「ははははは、引っ掛かりましたね!」


テンション高く飛び出してきたのは、宝箱。

大きな金の宝箱の中に、白金の宝箱が入っていて、飛び上がったのだ。


「いや、開けてないからな?」


俺が開けたのは、外側の金の宝箱なんだが。


「問答無用!私と勝負しなさい!」


ゴッ


「痛い・・・」


情けない声を出すミミック。

こいつが弱いのは分かっていた。

単に、ミミックに引っ掛かりたく無いだけだ。


「満足したか?」


「私の負けです・・・貴方にお仕えします」


「いらない」


予感はしていたが。

10年振りの強引な流れ。


「そんな・・・貴方様の従魔にならなければ、泡となって消えてしまうんです!どうか、どうかお願いします」


「人魚姫みたいだな・・・」


気の毒だとは思うが。


「やはり、私には無理でしたか・・・導きの鳥に与えられた機会を、活かせませんでした」


ふくろうの差し金か?


「私が背負った罪は、やはり自分で解決すべきですよね。頑張ります」


「おう。良く分からんが、頑張れよ」


俺に従魔として仕える事で、一定の減刑を受けるとかだろうか。


「そもそも、あんた、何をやらかしたんだ?」


「やらかした、と言いますか・・・罪を着せられ、それを否定しなかった罪ですね」


それが罪になるのか?


「どんな罪を着せられたんだ?」


「言えません」


そうか。


「まあ、頑張れよ」


「はい。シルビア殿も頑張って下さい」


「待て」


俺の知り合いか?

そして、罪を着せられたと言う事は。


「・・・まさか、ロリアなのか?」

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