第9話 ファーストサイドパネル

ロリア。

前ゲームにおける、魔王の娘で。

2代目魔王降臨時に殺された被害者で。

──俺が魔王と大量虐殺者の汚名を着せた存在。


宝箱の偽装を解き、くらい液体・・・スライムとなる。


「・・・そんな事が」


あの日、何があったか。

その後、何があったか。

話を聞いた。


「ロリア、すまなかった。お前の名を汚して」


「構いません。むしろ、私はもともと、ソレ目的で創られた存在。魔王継承は名誉にこそなれ、名を汚されたとは思わないですよ。それに──フェルは、私にとっても友人。私からも礼を言わせて貰います」


魔王討伐の祝勝パーティー。

魔族の隷属化の発表。

六王と、お偉方との強制婚姻を発表。

俺の指名手配が発表され──


魔族、が次期魔王へと覚醒した。


ただでさえ世界最強の力と、抜群の戦闘センスを持っていた存在。

魔王に覚醒して力が跳ね上がり・・・抵抗した者も、攻撃をためらった者も・・・全て殺された。


俺の従魔達が、本気を出せば何とかなったかも知れないが。

相手が世界の枠内で力を振るっている以上、神性を振るいはしなかったのだろう。

制限された力のままでは・・・魔王化したフェルには勝てなかった。


これが、あの時起きた全てだろう。


そして──俺が、友の名誉を守るため・・・魔王化したのがロリアである、と嘘を広めた。

無論、NPCと、実在の人間、という差は考慮はしたのだが。

結局は、ロリアとフェルを天秤に掛け、フェルを選んだのだ。


ロリアには、謝罪の術が無い。


「だが、分かりませんね。今にして思えば・・・不自然です」


ロリアが訝しげに言う。


ロリアは死後、捕えられた。

そこで、魔王化の罪を問われ・・・罪を受け入れ・・・偽証の罪に問われ。

罪の償いとして、その姿と真実と自由を奪われ、従魔として奉仕する事を命じられた。

俺がゲームを始めるまでの10年間、ずっと黄昏くらやみに囚われていた、と。


「他のNPCには会ったのか?」


「いえ・・・そもそも、世界で役割ロールを演じる為に造られた存在・・・世界が終われば、無に帰せられる筈。魔王化の咎、もおかしい。先程言ったように、本来はそれが私の役割ロール。確かに、事情を察して、否定せずに受け入れたのは確かですが・・・そもそも、裁きの場に引き立てられる事がおかしい筈です」


だよなあ。

あまりにも理不尽過ぎるし。

魔王なんて普通に魔王ずっとやってたんだろ?


魔王化から逃げた、という罪の方が、まだ理解できる。


「後は、制約、だったか。それも違和感があるな」


「たしかに」


俺の言葉に、ロリアが頷く。


制約。


一つ、自分から名乗ってはならない。

また、自身を想起させる行為は禁ずる。

一つ、その姿を永遠に失う。

一つ、声を失う。

一つ、対象以外からは存在感が薄れる。


「最初の制約は確かに意味があるかも知れないが・・・姿を失った結果が、ミミック種・・・声帯は模倣できるし、声に魔力を乗せる事もできる。これで声を失う、という制約は意味が無い」


最初に語尾が安定していなかったのは、自身を想起させない為か。

最後の方、素になってた気がするけど。


「そして、最後の制約は、むしろミミック種としては長所となり得るな」


ロリアが続ける。

そして。


「その姿を失う・・・普通に、元のロリアを擬態すれば良いだけだからなあ」


「・・・はっ?!」


にゅにゅにゅ


今更気付いたように、ロリアの姿をとる。

美しい2本の角、艶の有る長く黒い髪、宝石の様な深紅の目。

10年振りの、懐かしい姿だ。

・・・こっそり胸を水増しして無いか?

気のせいだよな。

ちなみに、魔法で服を造ったのだろう。

裸では無い。


「それで、シルビア殿。従魔の件なのですが」


「そうだな。ロリア、君を従魔にしよう。契約を頼む」


「分かりました、従魔契約を御願いします」


・・・?

ロリアが待ち、のポーズをとる。


「あれ。従魔って、俺の意思に関係なく、勝手に従魔枠に入ってくるんじゃないのか?」


「主人の誘い無しに従魔になれる訳が無いですよね?!」


・・・ですよねー。


システムメニューのヘルプを見ると・・・


「ロリアよ、我が剣、我が盾となりて、その力を振るえ!」


「我、汝が剣、汝が盾とならん!シルビアよ、汝を我が主と認める!」


光が立ち上り・・・


<ミミック・ロリアが従魔となりました>


よし。


ぴろりん


<クエスト、従魔を仲間にしよう、を達成しました。ファーストサイドパネルがフルオープンしました>


良く有る、3×3マスのパネルが幻視される。

従魔を仲間にしよう、の他には、武器を手に入れよう、職業を決めよう、名前を決めよう、魔物を倒そう・・・そういった内容が並んでいる。


今初めて見たんですけど?!

・・・全部達成時に初めて見えるのか・・・?

一応、メニューは色々調べたんだけどなあ・・・?


ぴろりん


<ファーストサイドパネル、フルオープン報酬!偽装・ダークマターを入手しました>


・・・何か報酬が貰えたらしい。


ぴろりん


<ミミック種の従魔を入手した為、魔装システムが解放されました>


何か解放したらしい。

魔装システム?


魔装システム

 必要条件:

  偽装・ダークマターの所持

  ミミック種の所持

 説明:

  ・偽装・ダークマターにミミック種を憑依させる事で、

   任意の種の武具として戦う事ができる。

  ・武具をミミックに食べさせる事で、

   変化させた際の性能を上げる事ができる。

   ただし、同じ種類の武具を複数食べさせても効果は無い。

  ・魔石を食べさせる事で、

   武具の性能を上げたり、

   特殊なスキルを発動させる事ができる。


なるほど。

成長させられる武器か。


必要条件の片方、ダークマターはパネル品なので、実質、ミミック種を従魔にする事が条件となるシステムだ。

なかなか面白い。

特に、ウェポンマスターやレンジャー系列には有効か。


「魔装システム・・・ですか」


ロリアが興味深そうに見ている。

従魔になったから、俺のシステムメニューも見えるらしい。


「とりあえず、弓かなあ・・・」


そろそろ弓を上げたい。

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