第3話 神と、祈りと、腹パンと

「・・・変更したいのですが」


「分かりました、新しい名前を入力して下さい」


梟はあっさりそう言うと、紙を渡してきた。


「ほーほー、私は貴方に紙を渡しました。そう、神だけにね」


殴りたい。

あと、あんたは神じゃない。


Name:

 カギロイ

Class:

 戦士


記載して、渡す。

梟は、契約書を吟味するやり手の実業家の様な顔で、紙に目を落とし、


「何故名前をシルビアにしないのですか?」


梟が、顔を上げ、尋ねる。

分かって言ってるんだろうな。


「・・・俺は昔、色々やらかしたからな・・・シルビアという名前は名残惜しいが、その名前を使えばややこしい事になる」


仕方が無い。


「職業をレンジャーから変える理由は何ですか?」


梟が再び尋ねる。


「純粋に戦えないからな。弱い職業に変に拘って・・・良い事は無い。それに・・・やはり、目立つからな」


能力が有る者が、勤めを果たせば良い。

能力が無い者は、無理をせず、背伸びをせず、暮らせば良い。


だが・・・力が無くても、為さざるを得ない状況は・・・有るのだ。


レンジャー。

非戦闘職。


あらゆる武器の適正が、それなりにあるが・・・どの武器も最適では無く、戦闘に役立つスキルも覚えない。

魔法も使えず、高い防御力も無い。


そして・・・

あまりの不人気さ故に、気がついたらレンジャーをやっているのは俺だけ。

俺=レンジャー、といった認識すら出来ていた。


純粋に、普通に戦える職業を選びたい、というのもあるし。

目立つ事もしたくない。


今回は・・・選ぶわけにはいかない。


「ほーほー、分かりました・・・反映しました、ご確認下さい」


-----------------------------------------

名前:[UPD]カギロイ(真名:シルビア)

種族:ニンゲン

種族レベル:1

ファーストジョブ:レンジャー

職業レベル:1

セカンドジョブ:なし

STR:8

AGI:8

DEX:8

VIT:8

INT:8

MEN:8

BONUS:0

武器:なし

防具:なし

装飾:なし

-----------------------------------------


「やり直せ」


名前は何かおかしいし、職業は変わっていない。


「神のやる事にケチをつけるのですか?!」


リテイク要求を拒否する梟。


「・・・神なのか?」


「女神様に依頼された人のペットの梟ですね」


「それはただの梟だよな」


もふっと胸を張る。

微妙に愛らしいからむかつく。


「ほーほー、ジョークです。反映に時間が掛かるんですよ・・・申し訳有りませんが、少しお時間を下さい」


・・・そういうものなの・・・か・・・?


梟はずびしっと、俺に羽を差し出すと、


「それより、シルビアさん・・・チュートリアルを実施させて頂きます!」


「いらない」


ひゅう


風が吹き抜ける。


「・・・何故・・・ですか・・・?」


「俺は、前作の経験が有るからな。チュートリアルを受ける必要は無い」


操作性、一緒なんだよな。


「それでは困るんですよ!良いですか?女神様も、ご主人様も、シルビアさんの行動には注視しているんです・・・何せ、前作の最高レベル到達者・・・」


「最高レベル到達者は俺じゃないぞ・・・?」


レンジャーは、レベルが上がるのが遅い。

それは、経験値効率、といった話では無い。

純粋な、戦闘能力の低さが原因だ。


一般の戦闘職が一定時間に、高レベルの魔物をたくさん狩れるとして・・・

非戦闘職たるレンジャーは、同じ時間で、低レベルの魔物を、少ししか狩れない。

当然、レンジャーが高レベルになるのは難しい。


「ですので!バランス調整をする上でネックとなる、シルビアさんの存在には・・・ご主人様も、大層気に掛けておられるのです!」


「・・・まあ、そう言われると、否定し辛いが・・・」


確かに、バランスは少し崩していたかも知れない。


「女神様からも、シルビアさんには完全不干渉の依頼が出ております。表だって、シルビアさんに接触する訳にはいかないのですよ!ほーほー!」


「思いっきり接触してるし、ばらしてるじゃないか」


この梟、かなり駄目なヤツなのでは・・・?


「では、今から、60体のNPCに特定の順序で話しかけないと出られないマップへと案内しますね」


「スキップで」


ふざけるな。


「では・・・次は戦闘訓練・・・666種類の武器それぞれのチュートリアルを開始します」


「スキップで」


多いわ。

チュートリアルもストーリーも飛ばさずちゃんと読む方だが。

限度が有る。


「最後に、貴方が弊社に入って貢献できる事は何でしょうか?」


「んん?」


チュートリアルだよな?


「ありがとう御座いました。お祈りメールは数日中に送らせて頂きます。本日はお時間を頂き有難う御座いました」


ふか


ふくろうがお辞儀する。


「それでは、システムメニューのログアウトを選び、結果が出るまでご待機下さい」


「チュートリアルだよな?!採用面接じゃないよなぁ?!というか、お祈りメールって言ったよなああ?!」


始めさせろよ。


「仕方が無いですね・・・戦闘訓練だけさせて下さい。それでデータを収集し、問題なければ開始を許可致します」


「・・・アリガトウゴザイマス」


腹パンしたい、この笑顔。


視界がぐにゃりと歪む。

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