第126話 明日の為に今日を生きる

現実世界。

帰ってきた。


別に未帰還者というわけでは無い。

稀には現実には戻ってきていた。

部屋からは出たことが無かったが。


そして・・・今は、ゲームの世界にもう戻れない。


「八百万の神々よ、此方より彼方へ、御魂は乖離し、化身は箱庭に、遊戯の場、我は此処に在る」


無論、秘密の言葉を唱えても意味はなく。


部屋は清潔だ。

お姉さんがこまめに掃除をしてくれているのだろう。

・・・よくよく考えてみれば、ずっとキャンペーンとやらで無料で利用させて貰っていたけど・・・本当に良かったのだろうか?


お腹が空いてきた。


「おい、月花」


語りかけ・・・頭を振る。

月花が居るわけが無いのだ。


激しい喪失感。

フェリオ達を失った時の比では無い。

もう月花には会えない。

あの世界には行けない。


水道をひねるが、水は出ない。

水道代を支払っていないから、水道を止められたのだろうか?


ふと思い立って、照明をつけようとするが・・・つかない。

当然、パソコンも起動しない。

電気代も、か。


親の遺産・・・まだ残っていたはずだ。

それがあれば、少しの間だけなら生活できる。


・・・そう、少しの間しか生活できない。


分かっている。


この無情な世界では、働かなければならない。


ふと、部屋の隅に何か積んであるのが見えた。

非常食にミネラルウォーター。

お姉さんが用意しておいてくれたのだろう。

本当に用意周到な人だ。


・・・


大切に食べさせて貰おう。


お腹を満たし、外に出る。

俺は・・・この世界で生きるんだ。

きっと、次のゲームに・・・巡り会う筈だ。

だから・・・俺は、外に出る。

俺は・・・働く。


違和感。

現実は、こんなに静かだっただろうか?

最後の記憶では、もっと人が居た筈なのだけど。


人の気配がしない。

俺は、現実では超人では無い。

なので、気配察知等できないのだけど。

それでも、人の気配を感じない。


外に出て・・・


崩れかけた家、塀に突っ込んだ車、放置された人の死体に・・・周囲に倒れる犬の死骸。


・・・?


何処だ、此処は?


かさ


部屋の外に置かれた手紙。

その手紙には・・・


「魔王打倒と人類救済、お疲れ様でした。少しですが、食料と水は用意しておきました。」


そう、可愛い文字で書かれていた。

お姉さんの字だ。


・・・知っていたのか。

ゲーム内での俺の事を。


電線が、切れている。

電気がつかないのは、そのせいだろう。

水道も・・・水道局が機能していないのか、配管が壊れているのか。


不意に悟った。


人類は、滅びかけていた。

だから・・・働く人がいないのだ。

ゲームに召喚されるのは、子供と老人は避けられる傾向があった。

働き手から先に消えたのだろう。


俺は・・・この世界で生き延びなければならない。

生きねばならない。

難易度最悪、達成可能かどうかの保証もない・・・クソクエスト。


それでも・・・


俺は、帰ってきたんだ。



後日談。


俺は、他の人がいないか彷徨い・・・お姉さんに遭遇。

お姉さんも、気付いたら会社の責任者を押しつけられていた上、社員もほぼ集まらず、苦労していたとか。

頼み込んで、お姉さんの会社で働かせて貰う事になった。

有り難い。


人類は、大半が死滅していた。


ゲーム内に召喚されて死んだ者もいれば、世話する人が居なくなり、餓死した人も居る。


それでも・・・ゲームが終わり、人類も前に進み始めた。

六英雄も、時々話題に上るので、上手くやってくれているようだ。

カゲだけはあまり話題にならないのだけど。


数年後には、娯楽も復活しはじめて・・・


俺は生きる。

いつか、またあの世界に戻れる日を信じて。


********************************


お付き合い下さり、大変有り難うございました。


この作品には、未来の話が存在します。


いつか続きを書きたい気もしますが、その場合は、NLJOより後の時代になりそうです。

主人公の子供とかが登場する可能性が有ります。

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