第125話 英雄なんてなりたい奴がなれば良い

魔王を倒すと同時に、魔王軍は散開したようだ。

まあ、人類残ってないので、魔族の世界になっちゃってるけど。


シェルターに向かい、魔王を倒した事を告げる。


「流石、女神様の使徒」


アリスが祈る様に言う。


「魔王を遣わしたのが女神様だからな?」


突っ込む。


「六王の7人目・・・貴方の事は語り継ぐ必要が有るな。人類の救世主として」


「俺より、六王を讃えてやってくれ・・・俺は遠慮しておこう」


ムサシが雰囲気を出して言う。

やめい。


「本当に・・・何て御礼を言えば良いのか・・・言葉も有りません」


「御礼の必要は無い。言ったはずだ。魔王を倒すのは俺、お前達はリアルに戻った後に英雄として、人類を主導してほしい。誰かが英雄にならなければ、混沌とするからな」


ポラリスに半眼で告げる。


「むしろ、シルビア殿こそ英雄に相応しい。六王の主にして、魔王を打倒せし者。我々も全力で支えるので、どうか人類を導いて下さらんか?」


アーサー。


「・・・老体に鞭打つ気か・・・もう静かに隠居させてくれよ」


呻く。


「アーサー殿、良いではありませんか?全ての偉業は我ら6人、六英雄の功績。シルビア殿には穏やかな老後をおくって頂こう」


ソフィアが言う。


決して、これは逃げでは無い。

こいつ等が権力に溺れる可能性は当然有るが・・・俺には政治は分からないし、人々がついてきてくれる様な立派な人物でもない。

俺自身が権力に溺れる可能性もあるしな。


「しかし──」


アーサーが反論しようとしたのを遮って。


「話はまとまったかい?」


音も無く、女性が歩み寄って来た。


「ぬ、そなたは何者か?」


アーサーが訝しげに問う。

女神様だよ。


「初めまして、主よ。ご機嫌麗しゅうございます」


アリスが跪き、挨拶を述べる。


「女神様、ご足労頂き、有難う御座います」


俺も、頭を下げる。

ソフィアとカゲも、跪いている。


「・・・女神様?!」


アーサーとムサシ、ポラリスが驚きの声を上げる。


「この度は大義であった。このまま滅びるやと思っていたが、なかなか興の乗る事よの」


くすり。

女神が笑う。


「望みを言うが良い。内容によっては、叶えてやらんでもない」


つまり、言うだけ言っても良いけど、叶えるかどうかは分からないよっていう。


「女神様・・・どうか・・・この悪夢の世界に終焉を」


アーサーが、頭を下げる。


「おやおや。この楽しい世界を続けたい者もおるのではないかね?」


女神様が楽しそうに笑う。


・・・この世界に残りたい、気はする。

とは言っても、俺が好きだったこの世界は、今のこの世界では無い。


「私も御願いします。どうか、この世界に終焉を」


ポラリスが、ムサシが、頭を下げる。


「主よ、どうか人類をお許し下さい」


アリスが頭を下げる。


「ゲームクリア、それが私達の望みです」


カゲも頭を下げる。


俺は・・・


「俺は、この世界が好きだ・・・だが・・・今のこの世界じゃない。誰もが笑ってすごせるような・・・そんな世界が良い」


何故こんな事になったのか。

プレイヤーがたくさんいる世界が良い。

そうでなくても・・・友人達、仲間達・・・みんながいた、あの世界が好きだった。

ダンジョンクリアの回数なんて・・・仲間が、みんながいないと、意味が無かったんだ。


「終わりは望んでないようだね。なら・・・明日もまた日が昇る、それで良いね?」


女神様が微笑む。


分かっている。


この世界で明日を迎えれば・・・たくさんの新規プレイヤーがこの世界に来る。


勿論、召喚直後に人類を溶かしていた暗黒結界は消えた。

それでも・・・混乱が起きるだろうし、新たな魔王が生まれ、戦いが継続するかも知れない。


俺は・・・この世界が・・・


「それでは、私もこの世界の終焉に票を入れます」


月花が、はっきりとした声で告げる。


「喋った?!」


ポラリスが驚愕の声をあげる。


「妖精に・・・意思があるのか?!」


ムサシが唖然として呟く。


「妖精・・・魂も持たない者に、票を入れる権利はないと思うけどね」


女神様が呆れて言う。


「それでも・・・私は此処に居ます。ですから、票を入れる権利が有ると考えます」


月花が女神様を見つめると、そっと女神様に近寄り、何か耳打ちする。

女神様が、にっと笑う。


「分かった。そなたらの望みを叶えよう。今回のゲームは、人類の勝利としよう」


俺は──


カゲが、みんなが、安堵の表情を浮かべる。


俺は──


世界に、光が満ちていく。

ログアウトの時を思い出す・・・そんな光。

視界が真っ白になり・・・

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