第124話 ファイナルクエスト

ダンジョンから戻り、再び地上の隠れ里にて修行。

俺への信頼が増したせいか、みんなの力の伸びはペースが上がった。

元々力を隠してるカゲと、びっくりするくらい才能が無いソフィアは別だが。


魔王軍の位置は把握している。


大軍で移動すれば、流石に動向を察知できる。

そうなれば打つ手もあるが。


来たか。


6名の生存者、未来の英雄を呼び寄せる。


「何ですかな、シルビア殿?」


アーサーが不思議そうに尋ねる。

午後の修練よりは早い時間に招集。

疑問に思うのは当然だ。


「魔王が単独でこちらに向かっている。予定通り、地下のシェルターに隠れて欲しい」


告げる。


「・・・動向を隠す為に単独で・・・?しかし、何故分かったのですか?」


ソフィアが不可解そうに聞いてくる。


「LRのトラップだ。流石に効果は抜群だな」


普通に気配を探っていただけなら、察知は不可能だっただろう。


「・・・流石、宝王ですねぇ」


アリスが感嘆の声を漏らす。


「お手伝いするでござる」


カゲが言う。


「勝算は有る。みんなと隠れていて欲しい」


「承知したでござる」


カゲが引き下がる。


「俺でも、盾くらいにはなれるぞ」


アーサーが進み出る、が、


「足手まといです、やめておきましょう」


ソフィアがアーサーを手で制する。

アーサーが振り切ろうと前に進もうとして、


めり


鎧にソフィアの腕がめり込み、ずりずりと押し下がらされる。

アーサー、君はへっぽこ賢者の腕力にも勝てないのかい?


みんなをシェルターに隠し・・・いよいよだ。

勝算は、有る。


俺は、力が有るのに、何もしなかった。

腐った奴等の暗躍・・・関わらず避けていたが・・・俺なら、別の道があった筈だ。

ゲームの中でも、密談が無かった訳では無い筈。


ましてや・・・最後の瞬間までダンジョン攻略・・・そんな事を考えずに、祭典の場に俺がいれば・・・おかしな事を言う奴等を皆殺しにする事は可能だった。


無論、俺は本当に犯罪者にはなるのだろうが。

元々犯罪者扱いされていたし、リアルには知人も親戚も居ない。

お気楽な身。

今のこの未来より、遥かに良い未来だった筈だ。


この状況が、俺への罰だとでも言うのか。


俺は頭を振る。


そうでは無い。

分かっている事だ。

人類が愚かだっただけだ。


人類は愚かな行為を行った。

その結果として、滅亡の危機に瀕している。

それ以上でも、それ以下でも無い。


これから行う事は、贖罪では無い。

ただ、俺は俺に出来る事をするだけだ。

それが・・・力が有る者の、義務。


・・・ん?


「シルビア殿、準備は順調ですか?」


何故か追いやった筈のソフィアが出てきた。


「・・・何故出てきた。隠れていろと言った筈だが」


「大丈夫ですよ。カゲ殿がみんなを見張っていますし、私も結界を張っておきました」


君が出てきている事が大丈夫じゃないんだが。

君、1番弱いよね?

何故か時々、馬鹿力を発揮している気がするが。


「あまり気負わないで下さい。貴方に義務はありませんよ。貴方は何時も、出来る事を出来る範囲でやっていただけだ。今回も、魔王を倒す、そんなクエストに挑戦する、それだけです」


・・・クエスト、か。


「斬新な考え方だな」


「怖い顔をしていては、女の子は口説けませんよ」


ソフィアはそう言って笑うと、シェルターへと帰っていった。

何をしたかったんだろうね。


・・・俺、怖い顔をしているかね。


そして──


--


「存在隠蔽は完璧だった筈なのだけど・・・流石ね」


罠による動向察知から4時間・・・


魔王は、その場に現れた。


「LRの罠を使ったからな。魔王様の圧倒的な魔法でも、何とか対応できたよ」


魔王はくすり、と笑うと、


「流石ね、シルビア。やはり貴方は、存在が規格外ね」


圧倒的な力。

魔王にその気が有れば、俺は瞬間的に溶けていただろう。


「ねえ、シルビア。私が許せない?」


魔王が、微笑む。


「俺が許せないのは、自分自身だよ」


俺は、そう告げる。


俺はゆっくりと魔王へと歩み寄ると、


魔王を抱き寄せ、


そのまま唇を、


奪う。


ややあって。


「・・・ずるい、なあ」


顔を離した魔王が、よろり、と後ろに下がり。

体から、光の泡が漏れ始める。


「こんなの・・・躱せないじゃん」


口移しで移した。

ゴッドレアのアイテム、蘇生の石。

デスダークリッチ、アンデッドである魔王には、覆せない弱点。

これが普通のRPGであれば、蘇生アイテムや魔法にも耐性が有るのだろうが。

本来存在する筈がない物には、対抗する事など不可能だ。


魔王は、残った力で俺の命を・・・


奪う事は無く、再び俺の唇へと唇を重ねる。

そして──


「妹を、御願い。私が殺してなければ、だけど」


そう言い遺すと、魔王は光の泡となって消えた。

あっけない最後。


・・・誰だよ、妹。

会った事ねえよ。

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