第119話 人類の英雄

まあ、俺が本物だと証明する為の演技。

俺に都合が良い展開だ。

無論、カゲは本気で戦う訳ではない。


・・・良いアシストではあるが、誘導がわざとらしくて、違和感が・・・ああ、侍のおっちゃん、ニヤニヤしてる。


100万超え、に少しどよっとしたが、すぐ収まった。

俺が非戦闘職だと思い出したのだろう。


「じゃあ、魔法で勝負よ!」


1番手は、茶髪の女性。


「承知した」


応える・・・が。

俺、非戦闘職、しかも魔法職じゃないんだが。

いきなり魔法勝負とは、なかなか良い性格をしている。


「我が名はポラリス、魔導を極めし者。射貫け、炎の槍よ。魅せよ、天の裁き」


ポラリスの杖の先に炎の槍が生じる。

ターゲットは、50メートル以上離れた野良ベヒモス。

10万というレベルの割には威力が有る方だが・・・魔導を極めし者は言い過ぎだ。


「インフェルノ・ノクターン!」


ポラリスの杖から飛んだ炎の槍が、ベヒモスを正確に射貫く。


ゴウン


致命傷を負い、ベヒモスが倒れる。

1撃だ。


満足そうに杖をつくポラリス。


くっ。


緑髪のエルフが笑い声を漏らす。


さて。


「まず、お前達に言いたい事が2つ有る。1つ目は、非魔法職、しかも非戦闘職に魔法で勝負を挑むな」


魔法職と非魔法職の違い。

それは、魔法を使う際、世界システムのサポートを得られないという事だ。

マナによるルーンの構築、世界改変・・・全てを自力で行う必要がある。


つまり──非常に面倒臭い。


「『告げるヴォ』、『改変グァ』、『在れダァ』、『ウラ』」


手の中に灯った、小さな灯火。

近くの岩に吸い込まれる様に当たり・・・炎上、岩が溶解。


ぐつ・・・ぐつ・・・


燃える岩を一瞥、ポラリスに視線を向け、


「これで満足か?」


問う。


破壊可能オブジェクトである魔物の殺害と、破壊不可オブジェクトである岩を溶解。

当然、難易度の格が違う。

・・・フェルなら、詠唱無しに山1つ蒸発させるとかやってのけるが。


ポラリス、後緑髪のエルフ、共に沈黙している。


「2つ目だが・・・お前等、レベル差を舐めるなよ?いくら非戦闘職でも、此処までレベル差有れば、負けないからな?」


何故、1桁のレベル差を覆せると思ったのか。


「次は、俺だ」


銀色のフルプレートの、兄ちゃんが進み出る。


「俺の名は、アーサー。騎士系の職業だ。剣での勝負を挑みたい」


チャ


アーサーが剣を構える。

騎士なら槍の方が良さそうだが。


「・・・まあ、構わんが」


近くにあった小枝を拾う。

小枝は、残念ながら破壊可能オブジェクトだ。


「ちゃんと剣を構えたまえ!」


言いつつ、アーサーが突っ込んでくるが。


サンッ


アーサーの剣を根元で斬り飛ばしたうえで、アーサーに枝を突きつける。


「・・・魔法ではなく剣でならあるいは、と思ったが、無理であったか・・・」


アーサーが無念そうに言う。

非魔法職だってば。


「それで、次は?」


「私です」


聖職者の女性。


「信仰心の高さを競いましょう」


「待てよ」


それ、レベル関係ないよね。


「天にまします女神よ。貴方の敬虔な信者が願い申し上げます。一滴の恵みを!」


空中に虹色の水滴が・・・集まり、コップに水が入る。

量は、コップに半分くらい。


「聖水の生成・・・どうでしょうか?」


挑む様な・・・いや、違う。

悪戯をする様な?

そんな顔で空の酒樽を取り出す。


「おい、アリス?」


緑髪のエルフが怪訝な顔で問う。

当然だ。

自分より遥かに大量の水が出る事を予期していないと、こんな事はしない。


女神様、会った事は何度かあるが、神秘を行使した事は無いしなあ・・・

俺が呼びかけて、反応が有る訳がない。


「女神様、聖水下さい」


アリスの真似をして、祈ってみる。


まあ、空の酒樽が鎮座するだけ。


「・・・まあ、見ての通り、俺に神秘の行使は出来ない。だが、これで俺がシルビアじゃないって話にはならない筈だ」


天候が急激に悪化し、ポツポツ雨が夕立の様に降り出した。


「くく・・・言い訳か、見苦しいですよ、シルビア殿!」


緑髪のエルフが笑う。

てか、シルビアって認めてくれてるじゃん。


「やあ、シルビア殿お」


カゲがゆっくりと刀を抜いてこちらにかけてくる。

近くまで来て、後ろに飛び退き、


「うわあ、やられたでござるぅ。貴方こそ間違い無くシルビア殿です」


大根役者過ぎる?!

雑にも程が有るだろ。

ほら、浪人のおっちゃんが腹を抱えて笑ってる。


「馬鹿な・・・カゲ殿まで負けるとは?!」


緑髪のエルフとアーサーが驚愕した様に話している。

今ので騙されるの?!


早く屋根がある所に移動したかったが・・・雨がやんだ。

通り雨だった様だ。

ちょうど樽がいっぱいになっている。

月花が樽に蓋をすると、何処ともなくしまった。

無駄にしない心遣いは素晴らしいが、雨水なんてとっておいても・・・

魔法で作れるし、この前銘水汲んでたよね。


「最後は私、ソフィアが」


名乗り、一礼するソフィア。


「・・・構わないが、何の勝負だ?魔法ならさっき見せただろ?」


ソフィアはすっと遠くの山を指差すと、


「貴方にアレが動かせますか?」


お前は出来るんだな?


「・・・また小賢しい事を・・・」


呻く。

意図は分からないが・・・


オブジェクトへの干渉。

存在の位置を否定し、上書き。

めちゃくちゃ面倒だ。


「動け」


山、という存在に対し、命令を発する。

存在の格の力比べ。

流石に、フィールドオブジェクトに負ける程ではない。


ゴゴゴ


数メートルではあるが、山が動いた。


「・・・で?」


ソフィアに問い掛けるが、口をパクパクさせるだけ。

・・・何がしたかったんだ?


「とりあえず・・・お前等は、最後の人類の希望だ。魔王と戦う最後の砦だ。今日からお前達を鍛える。お前達は・・・人類の英雄になってもらう」


俺は、低い声で、そう告げた。

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