第115話 終演

魔王城攻略。

ゲームの最終イベント。


終演。

人間を滅ぼす様に配置された魔王軍も。

魔王軍に苦しめられるべく配置された人間も。

ゲームのプレイヤーとして招かれた異世界人、我々も。


もうBGMが流れるなら、勝利目前のポップな音楽が流れているだろう。

ラスボス前にレベルを上げすぎてしまい、最後の作業だけが残っている状態。


ゲーム内でのプレイヤーの死亡は激減した。

とは言え、参加プレイヤー数上限は確実に増加している。

老若男女問わず、一定数が毎日召喚されている。

(流石に自律出来ない赤子等は対象外だ)

召喚は、始まりの街の召喚広場に。

そこで適正検査、配属振分け、訓練・・・

リアルで巻き込まれる人がいる以上、早急なクリアが必要、らしい。


魔王は、逃亡を図って再起・・・といった考えは無い。

2度目の人生を与えられ、僅かの間すごした・・・それでもう満足、とのことだった。

植え付けられた感情、人間への憎悪、にも疲れたらしい。


魔王軍は、最期の戦いに向けて準備・・・という雰囲気では無い。

実は、昨日は最期の晩餐で贅沢の限りを尽くし、お祭り騒ぎだったのだ。


・・・豪胆なのはフェル。

心臓に毛が生えているのだろう。

種族が魔族なのも利用してか、ちゃっかりお祭りに混じっていた。

俺が指摘しなければ、みんな気付かなかった。


むしろ、現地の人間の方が、事態を把握していないのかも知れない。

魔王を倒した後、この世界が続く保証はないし・・・

というか、続くなら俺がやり続けたい、永住したい。


最期くらい、高見の見物ではなく、討伐部隊に参加。

と言っても、盗賊ギルドのメンバー──全員覆面黒装束──に紛れてだが。

五王も気付いて無──フェルがちらちら見てくるから、四王も気付いて無い。


トラップに伏兵、正面突撃・・・襲い来る魔王軍を、人間軍が危なげ無く倒して行く。


魔王軍は、皆、悔いの無い顔だ。


ゴッ


斬り込んで蹂躪していた魔族の女性を、ミストが切り裂く。

ロリアの幼馴染にして、四天王の1人・・・俺も酒を飲み交わした仲だ。

どっちが勝っても複雑な心境になる戦い・・・始まりの街で祈って待っているロリアが正解かとも思う。


いや、見届けると決めたんだ。

魔王軍は皆納得しているし、人間軍は背負う物がある。

この世界の終演を、見届けねば。


そして・・・


フェルの放った光の槍が、魔王を貫いた。

崩れ落ちる魔王。


まだ終わらない。


迫る、魔王軍の生存者。

六王の、そして数多くのプレイヤー達の攻撃が、着実に終わりをもたらし・・・


日が傾く頃には、魔王軍は完全な壊滅をしていた。


・・・まあ、実際には、首都以外の街にはまだ居るんだけど。

それはそれ、クリア条件は魔王討伐なので、問題無いだろう。


これで、このゲームは・・・俺の愛する世界は、終わりを告げる。

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