第114話 幻獣ウォリプス

「まあ、私に関係なく、人間の勝利──魔王軍の敗北は動かないですね。人間の総合力が上がってますし、魔王軍は主力を殆ど失っています。特に六王、及びその側近の力の伸びが恐ろしい・・・」


ロリアが、目を閉じ、呟く。


「人間達の強さは恐ろしいうさぁ」


ルナナがぶるぶる震えて言う。


「もふもふさんなら六王相手でも無双できると思いますが・・・」


ロリアが半眼で言う。

流石にもう無理じゃね?

六王・・・五王は、吹っ切れたかのように力をつけたし。

特にフェル。


「シルビアは攻略戦どうするの?」


フェルが尋ねる。


「俺はいつも通り、不参加。ダンジョン探しだな」


本当に100個以上有るんだろうな?


「ふーん。残念だけど、仕方ないわね」


フェルが不満そうに言う。


さて・・・攻略戦迄に見つかるか・・・


--


見つからなかった。


小高い丘から、攻略戦を見物。


最近接要塞への攻城戦。

此処が落ちれば、魔王城への道を阻む物は無い。


とは言え・・・


既に要塞はぼろぼろだ。

遊撃部隊が、遊撃を繰り返した為だ。

周辺の砦で護る思想だったらしく、本城は護りに適した構造では無い。

なのだが・・・要塞にも殆ど戦力が残っていない。


戦いの火蓋が切って落とされ・・・


うわ。

いきなり巨大な隕石群が砦に。

フェルが言ってた仕掛けかな。

占拠して砦として再利用・・・そんな意図は無いようだ。

豆腐を潰す様に、砦と防衛戦力が崩れていく。


「・・・あそこまでやりますか・・・」


ロリアが呻く。

流石に無心ではいられないようだ。


そのまま魔王城落とせるんじゃね?


何にせよ・・・ゲームクリアは時間の問題のようだ。


--


幻獣ウォリプス。

鯨だ。


海のフィールドの遥か沖。

クエストも無い、存在意義の無いフィールド。


意味も無く漂う幻獣。


フェルと2人で、見物に来ていた。


「本当にいたんだな」


思わず、呟く。


プレイヤーの中ではこの世界の知識の多さでトップにいる自信が有るが・・・それでも、まだまだ知らないことの方が多い。

数多のプレイヤーがいるのだ。

俺の知らない事を知ってるプレイヤーも多い。


噂話。

勿論、出鱈目も有るが・・・本当の経験も含まれ。


フェルが聞いた話も、本当の話だった様だ。


対象レベルは相当高そうだが、ノンアクティブ、攻撃しなければ戦闘にはならない。


「言ったでしょ」


フェルが胸を張る。


・・・何時もより更に大胆な格好、水着なので、目のやり場に困る。

幻獣の上がバランスが悪いせいだろう、フェルがかなり近づいてきていて、微妙な気分になる。


「いよいよ、明日、ね」


「ああ・・・」


明日、魔王討伐の決行。

失敗は考えられない。

つまりは、明日がゲームクリア。


フェルが溜息をつくと、


「延期は出来ないからね?今この瞬間も、沢山の人が死んでるんだから」


困った様に言う。

そう、先延ばしには出来ないのだ。


「ゲームクリアしたらどうなるんだろ・・・みんなとも会えなくなるのかな」


呟く。


フェルや・・・六王、そして、従魔。


ふと見ると、フェルの顔が曇っている。

もう少しでゲームクリアできるのだ。

もっと明るい顔でも良さそうだけど。


「どうした、フェル?」


フェルは慌てた様に、


「な、何でもないわよ。あ・・・そうだ、シルビア」


フェルがじっと俺の顔を見て、


「ねえ、シルビア──リアルで会わない?」


瞬間、周囲の音が聞こえた気がした。

リアルで・・・会う?

俺のリアル・・・


引き篭もって長い年月。

食事もこの世界で済ませるので、外にも出ない。

唯一の外との接点は、家事代行サービスの担当のお姉さんくらい・・・


怖い。

知らない人とリアルで会うのは、怖い。

部屋の外に出るのが、怖い。

太陽の光を見るのも、窓から外を見るのも、怖い。

窓の外を見たら世界が崩壊していて、生きているのは自分とお姉さんだけでした・・・そんな事になっても不思議じゃない・・・そんな夢想すらする。


「や、冗談よ、シルビア」


フェルが笑いかけてくる。


「そ、そうか」


思わず、上擦った声で返事を返す。


フェルはまた俺を見ると、


「ねえ、シルビア、私は──私と──」


顔が・・・近い。

心臓が高鳴る。

身体が──密着し──


「フェ・・・ル・・・?」


フェルが俯く。

ややあって、フェルが顔を上げ、


「シルビア・・・全てが終わったら、時間を欲しい。また此処で」


そう、真剣な声で告げた。

若干フラグっぽいが・・・あの魔王にフェル達をどうこうできる訳も無く。


「分かった。魔王を倒したら、また此処で」


俺はそう告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る