第112話 我輩は旧神の末席だったんだが、召喚されたら人間の相手をさせられて、無双せざるを得ない件

・・・で、アレと戦うのか。


「月花、弱点は無いのか?」


「無いですね」


断言。


・・・仕方が無い。


「覚悟を決めたようだな・・・では、ゆくぞ。此処まで辿り着き、勇ましく散る事、来世にて誇るが良い」


エリゴルの姿が・・・掻き消える。


カッ


回り込んだメイルの槍が、エリゴルの槍を受け止め・・・いや、受け流しつつ、逸らす。

ゆるりと後退。


侵掠しんりゃくする事風の如くううううう!」


エリゴルの猛攻。

なるほど・・・風林火山の風とは、そういう意味か。


ガッ


背後から、冷気を纏ったフェリオのクローが、エリゴルを襲う。

だが、結界に弾かれ、流されたようだ。


「受け流す事火の如く!」


エリゴルが槍を振り回し、フェリオを狙う。

だが、フェリオは既にかなり距離をとっている。


エリゴルが再びメイルを視界に収め、


ゴゴゴゴゴゴ


ルナナの圧縮光弾がエリゴルを次々に撃つ。

全弾命中!

メイルは距離をとっている。


「届かざる事山の如く!」


エリゴルが叫ぶ。

一瞬で張った対光結界が、光弾を無効化した様だ。


ドゴゴゴゴゴゴ


ワムテの圧縮闇剣。

禍々しい闇の刃がエリゴルを襲い、不意の反属性に対抗できず、幾つかは結界を通り抜け刺さったようだ。


「黄泉帰る事火の如く!」


エリゴルが叫ぶ。

傷が塞がっていく・・・林は?


ゴオン


トライプニルが放った圧縮火線がエリゴルを貫く。


ザンッ


カゲが死角から斬り付け、


ニャッ


バスレトがエリゴルの足下の時空を歪め、バランスが崩れ、


コウッ


フレアの放った銃の一撃がエリゴルを貫き、


ジャギジャギジャギ


月花の放った光の杭がエリゴルを串刺した。


良し、一気に畳み掛け──


「ま、待て」


エリゴルが叫ぶ。

白くはないけど、旗を振りつつ。


「おかしいだろう?!何故、我輩と互角に戦えるのだ?!」


「・・・頑張ってレベル上げしたからじゃね?」


エリゴルの問。

何故と言われても困る。

レベルとステータスの問題だしな。


「何なのだ?!あたかも離れた場所から俯瞰する者が指示を出してるかの様に整った連携・・・そなた等のその連携の上手さは何なのだ!」


「凄いよなあ」


エリゴルの指摘に、俺も感想を述べる。

俺は戦闘に参加出来ていないので、我が従魔の事ながら、他人事だ。

あたかも俺の考えを読んだかの様に、正確に動いて、結果、完璧な連携になっている。


でもさ。


「歯応えが有るのなら喜ぶべきじゃないのか?あんた、全力で生死を賭して戦いたいって言ってたじゃないか?」


だよな?


「違う!良いか?我輩は、元の所属の中では強い方では無い。だが、この世界に喚ばれたら、この世界では比類なき力を持っていた」


うん?


「分かるだろ?召喚されたら凄く強くて、相手は自分の力に慄き、許しを請い、届かず・・・我輩は謙虚な態度のまま無双する・・・それが良いんじゃないか?!」


「分からねえよ。それに共感出来る奴なんていねえよ」


歪んだエリゴルの戯言に、呆れて言葉を吐き出す。


・・・


言われてみれば、圧倒的な力で蹂躪するのも嫌いじゃない気もする。


「ふはははは、残念だったな。我輩は今より修羅となる。そなた等は大きな過ちを犯した。我輩を退ける最後のチャンスを失ったのだ。先程攻撃を絶やした事、来世で後悔するが良い!」


いや、あんた旗振ってたじゃん。


エリゴルが旗を振りつつ、呪言を唱える。

空気が軋みをあげる。


「疾きこと風の如く!」


風がエリゴルを包む。


侵掠しんりゃくすること火の如く!」


炎が槍に纏われ、


「動かざること山の如し!」


エリゴルのバックに山が見える。


「これぞ秘奥、風林火山なり!汝等は最早、一切の謀を許されぬ!」


林は?


「ご主人様、今のエリゴルは、近い未来を識る事ができます。勝率は絶望的です」


「そうか・・・だが、やるしかない」


攻勢を止めなきゃ良かったが・・・後悔しても遅い。

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