第106話 大丈夫じゃ無い

98個目のダンジョン。

そもそも、


「100個のダンジョンを単独クリア・・・ダンジョン、100個も有るのか?」


「有りますよ。ソロが不可能なものを含まれば無数に。ソロで行けそうなものに限定しても102個」


月花が答える。

ぎりぎりだな。

次200個とか言われたら詰む。


何とか、ゲームクリアまでに100個クリアを達成したい。


「今回はクエスト形式です」


面倒な奴だ。


にしても・・・


「空気が悪いな」


「マナを使い過ぎて、空気が病んでいるようですにょろ」


ワムテが答える。

どっかの文明の?


「クエストのクリア条件は?」


霊真エーテル抽出方法の確立、その阻止です。アレは神の領域ですので、禁忌の行為となります」


メイルが答える。


「・・・神の御業を侵すとか、不敬もいいところだ。神は神聖不可侵。止めなければ」


俺が決意を込めて言う。


「50不敬はある行為だにゃあ。恐ろしいにゃあ」


「妙な単位作るな、駄猫」


バスレトに突っ込む。


「ちなみに、直接不敬な言動をするのは、2億不敬くらいじゃな」


フェリオが言う。


「その妙な単位はもう良いから、研究阻止に行くぞ」


--


「あれが、霊真エーテル抽出の基礎理論を考案した天才・・・ロリア博士です。軍事力の8割を預かる元帥にして、第一王位継承者」


月花の解説。

超知り合いじゃねえか。


「ちなみに、ご主人様の友人であるロリアとは別の存在だと思って下さい。冷静沈着、冷酷非情。原存オリジンの完全な複製、いえ、再生に近いですね」


なるほど。

あの世界では、神が絶対運命アクティブロールを設定したり、何十年も経ったりしてるんだっけ。


世界の再生・・・元々霊真エーテルの抽出に手を出して滅びたなら・・・何もしなければ同じ結果となるのだろう。

原因であるロリアを倒すのは1つの手ではあるが・・・別存在とは言え、友人を手に掛けたくない。


例えば・・・研究資材を破壊するとか、データを消すとか・・・


そうだ。

神の使者を装って、霊真エーテルの研究から手を引くように言えば。


気配を消すと、ロリアの背後にまわり、


「娘よ、聞くが良い」


「お父様?!」


ロリアが叫ぶ。

その娘じゃねえ。


「私はそなたの父ではない。私は・・・至高の存在より遣われし者」


「・・・その、使い走りが何の用だ?」


ロリアが冷たく問う。

初めて会った時もこんな感じだっけ。

最近では見ない態度だ。


でも・・・


やっぱりロリアなんだなあ、とも思う。


「研究から手を引け。そなたらのソレは、至高の存在の領分を侵すものである」


「黙れ。我らは神にすら弓を引く者ぞ。ましてや使い走りに向ける耳など持たぬ。姿を見せるが良い、我が剣の錆としてくれる」


ですよね。

まあ、戦闘になっても負けないけど。

とりあえず姿を見せるか。


「良かろう。力及ばぬ存在がいる、それを教えてやろう」


ロリア程実力差があれば、あしらうのは難しく無い。


「──な」


ロリアは俺の姿を見て、戸惑った声を出す。

あれ・・・記憶があるの?


「なんと・・・あの・・・あの・・・」


・・・?

様子がおかしい。

全身が真っ赤になり、言葉を発するのにも支障がある様だ。

大丈夫か?


「どうした?」


ロリアに近づく。

崩れかけたので、左手で腰を支える。

右手は、壁に手のひらをつけ、バランスを取る。


「ひ・・・あの・・・その・・・」


口籠るので、聴き取る為に顔を近付ける。

顔を背けようとするので、顎を掴んで顔を向けてもらい。


「どうした?」


流石にそろそろ、外から兵士が来るのを警戒した方が良い。

耳元に口を近づけ、声を細め尋ねる。


「はぅ・・・」


完全に脱力してしまい、倒れそうになる。

慌てて、腰を抱える。


真っ赤になって、息が荒い・・・まさか、体調が悪いのか?


「大丈夫か?」


尋ねるが・・・


「大丈夫じゃ・・・無いです・・・もう・・・無理」


そのまま気を失ってしまった。

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