第99話 殺す価値もない
「エミリオ様!」
歴戦の勇者、と言った顔をした魔族。
薄汚れた天幕に駆け込む。
「どうした?」
「我が軍が・・・謎の集団の攻撃を受けています」
「さっきからの騒ぎはそれか・・・俺が出る必要がある、か」
エミリオと呼ばれた魔族が立ち上がり・・・
「いえ・・・それが・・・もふもふを見た、と」
「退路はどっちだ?!」
エミリオが勇者っぽい魔族に叫ぶ。
「こちらにおいで下さい!」
そんなにもふもふが嫌いなのか。
ことり
立ち上がったエミリオの首が・・・転がる。
吹き上がるドロップ。
「な──」
ことり
叫びかけた魔族の首も、ついでといった感じで転がる。
カゲだ。
恐らく、慌てて駆けていく魔族を見て、つければ身分が高い者の場所に行く、と考えたのだろう。
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「貴様、何者だ!」
幾つもの遠見渦を流し見していると、魔王軍に見つかった。
何でこんな中途半端な場所に来るんだ、こいつ。
「お前こそ、誰だ?」
「我を知らぬだと?!」
逆ギレされた。
誰だよ。
ヒュッ
音より疾く、魔族の漆黒の魔剣が閃く。
居合いって奴だ。
躱し、蹴りを入れる。
パコッ
高く放物線を描き、魔族が飛ぶ。
さて、ドロップに変えるか。
無造作に氷薔薇の槍で首を狙う──
「馬鹿な・・・!魔王たる我が・・・何故・・・」
・・・何だと?
思わず槍を止める。
何やってるのコイツ??!
魔王なら、城の奥に引き篭もってろよ?!
護衛とかつけろよ?!
「・・・何故殺さぬ?」
魔王が訝しげに問う。
いや、だって、あんた倒すとゲームクリアじゃん?
「お前は、殺す価値が無い。疾く逃げ帰り、城に篭もっているが良い」
言い放つ。
「貴様!愚弄するか!」
魔王が叫ぶが・・・
「お前にも守るべき者がいるのだろう?お前が為すべきことは、此処でプライドを守り命を失う事か?それとも、大切な娘・・・あ」
やべ、魔王の娘、家出中だった。
「貴様?!何故言い淀んだ?!貴様、何か知っているのか??!」
「いや・・・その、すまん」
素直に謝る。
「待て待て待て、本当にお前は何を知っているんだ・・・はっ、まさか貴様、娘を誑かしたのは貴様か??!」
誑かす、って。
誰が魔王の娘に手を出すんだ。
「いや・・・俺はただ、ロリアと──」
・・・ひょっとして名前を出したら、ロリアの立場が危なくなるのか?
魔王軍との関係を残しているのかは分からないが・・・いや。
残してきた親族が冷遇される可能性もあるか。
「いや、何でも無い」
「やっぱり娘を誑かしたのは貴様だよなあああああ?!」
魔王が叫ぶ。
ロリアの名前を出す訳にもいかないしなあ・・・
魔王が魔雷の魔法を詠唱するが、
ヒュッ
鞭で体を打ち中断させる。
「が・・・は・・・」
魔王が膝をつく。
非戦闘職に魔法を撃とうとするな。
効果は抜群なんだから。
「分からん奴だな。そんな事だから、娘が逃げたのだろう。お前はちゃんと娘と向き合ったのか?部下を見ているのか?そして、お前は自分自身と向き合っているのか?」
とにかく適当な言葉を並べて魔王に帰って貰わないと。
倒すわけにはいかないんだから。
「何・・・だと・・・」
動揺する魔王に、
「心当たりがあるようだな・・・ならば、まだ軌道修正も可能だろうよ」
重々しい声音で、淡々と告げる。
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2019/05/22:
同様→動揺
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