第98話 ただ見ているだけ

「場所は、分かってそうですよね。臨海都市、シーガイラです。原因は、近接のダンジョン、水龍ダンジョンにおけるスタンピード。被害状況は、城壁が破壊、防衛戦力の全滅、住民の捕食が行われています」


淡々と月花が報告する。


んん?


「・・・何?」


アイリスとミストが、状況が飲み込めてない様子だ。

俺もだけど。


「ダンジョンから魔物が溢れて、内地の都市が壊滅の危機にゃあ」


バスレトの解説。


・・・何故。


「と、とにかく急いで戦力を」


ミストとアイリスが慌てて帰って行った。


「ダンジョンに誰も行かなかったお陰で、ダンジョンコアが満たされ、魔物が満開になったのです」


メイルの解説。

なるほど・・・


「でも、俺は聖墓ダンジョンに潜っていたぞ?」


「うむ。聖墓ダンジョンのコアはかなり飢えておったが・・・ダンジョンコアはダンジョン毎に有るからな。スタンピードの直前に他のコアとリンクして力を集めるが、その前段階までは、特定のダンジョンだけ潜っても無駄であるよ」


何その面倒な仕組み。


「まあ、1度何処かでスタンピードが起きれば、しばらくは大丈夫ですよ」


月花が落ち着いた声音で言う。


流石に手伝った方が良いかな。


「良し、俺達もちょっとだけ手伝おう」


そう告げると、立ち上がった。


--


「うさぁ!」


ルナナの甘えた様な声・・・それを聞いた魔族が発狂する。


「に、逃げろ、もふもふだ!!」


「待て、敵前逃亡は許さん!現場を維持せよ!我が撤退する時間を」


カッ


ルナナが放った光が、貴族っぽい魔族も、部下も、全てを消し去った。

後に残るは、ドロップの山。


--


ぱからぱから


トライプニルが駆ける。

迎えるは、魔族の将軍。


「我が煉獄の炎を受けてみよ!」


トライプニルの火炎放射。


「効かぬわ!」


魔剣を振り、トライプニルの炎を拡散。

炎が散り、将軍は余裕の表情。


「ぬぅ・・・我が渾身の炎が防がれるとは・・・!」


呻くトライプニルに・・・将軍が斬り込む。


「あの世で後悔するが良い!」


ゴウッ


突如、将軍が光に包まれる。

浄化の炎・・・魔族に超特効がある炎。

しかも大分苦しむらしい。


「ぐおおお?!魂が・・・魂が燃える?!」


苦しむ将軍に、トライプニルが告げる。


「ぬしが・・・ぬしが悪いのだぞ・・・我にこの技を出させるとは・・・我も、こんなスキルは使いたくなかった・・・」


いや、今のトライプニルのレベルなら、ただの炎でもこの程度の敵なら蒸発する筈なんだが・・・

何、耐えたから仕方なく使った、みたいな空気出してるのさ。


ちなみに、トライプニルは炎属性が得意なのだけど・・・浄化の炎だの、堕天の炎だの、炎に特殊効果を付与して扱える。

ほぼ確実に弱点攻撃するので、強い。


--


ズン・・・ズン・・・


攻城悪鬼、アバドン。

高さ10メートル近い、巨大なキメラだ。

城を攻める為に作製されたソレは・・・最早移動要塞にすら見える。


それを誘導する者も、猛者ばかり。

秘蔵の精鋭達だ。


今日、人間の都市は陥落する・・・それは疑いがない。

それでも気を抜かず進む魔王軍・・・その前に立ち塞がるは・・・


城?


いや・・・狼?


そう、数十メートルの高さ・・・山とすら錯覚するそれは・・・狼。


神狼。


最早相手にする事すら冗談と思わされるそれは・・・


一瞬だった。


それはいつの間にか背後に移動し・・・いや・・・普通に動いて、通ったのだろう。

早すぎて視認出来なかったのだ。


アバドンは、狼の前足に潰されていた。

まるで豆腐を潰すかのように。

本来、悪夢の様な再生能力を有するそれは・・・再生すら許されず、息絶えている。


それでも一瞬の放心に留め、狼に意識を向け・・・


だが、遅い。


狼が放った冷気のブレスは、魔王軍の魂すら氷りつかせ・・・美しく砕けた。


--


手薄になった所に大攻勢をかけてきた魔王軍・・・

せめて、魔王軍の足止めくらいしておこうと思ったのだけど。


意外と無双している。


接敵前に敵がいなくなりそうなので、月花が用意してくれた遠視の魔法渦で、実況でもして暇を潰すことにした。

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