第90話 それは時間の問題

「大丈夫ですよ。私も最初は全力で抵抗しましたが・・・ご主人様の従魔にして頂いた途端、嘘の様に憎しみが消え、今では従順に色々させて頂いています」


メイルが言う。

予想外に活躍しているのは認めるが、お前むしろ従魔になろうと必死だったじゃん。

そもそも、本当にあの巨人と繋がりあったのか疑っているんだが。


「・・・洗脳ではないか!支配魔法・・・恐ろしい・・・」


「大丈夫にゃ。ご主人様の配下になったら、真の喜びに目覚めるにゃ。新月大侵攻の計画も、黒牙の塔に必死に匿っている妹君の事も、喜んで喋っちゃうにゃ」


バスレトが甘い声で言う。


「馬鹿な・・・!死んでも口にするものか・・・待て、今何と言った」


魔族が叫び・・・途中から素のトーンになって、訝しげに言う。


「此処で貴方が死んだら・・・遺されたフレアちゃんが・・・デヴィクト叔父様が後見人・・・いえ、夫になってくれるから大丈夫ですね」


「デヴィクトに手を出させるかっ!」


月花の低い語りに、魔族が叫ぶ。


「ふむ?大変であるな。外の混乱が収束して、こちらに攻撃を仕掛けるようだ。我らは問題ないが、お主は耐えられまい。指揮しているのは・・・デヴィクトであるな。ああ、妹君は望まぬ契りを」


「ちゅ、中止だ!無駄だ!攻撃するなっ!」


トライプニルの語りに、魔族が外に出て叫ぶ・・・


外には誰もいませんよ。


ぷるぷる・・・


耳まで真っ赤にして、魔族が膝をつく。

まあ、外の魔族達がいないのは、外の混乱が続いているんだろうね。

逃げた魔獣、結構多かったし。


「もういっそ殺せえええ、いや、殺すなあああ」


魔族が叫ぶ。

混乱しているようだ。


「どうすれば良いか、分かりますよね?」


メイルが落ち着いた、いや、温度を感じさせない声音で問う。


「・・・」


魔族は静かにうなだれると、俺の前に跪き、


「ロリアは、貴方に降伏致します。どうか私を貴方の従魔にして下さい」


「駄目」


ひゅう


壁に空いた穴から、風が吹き抜ける。


いや、従魔増えるとややこしいじゃん。

何で俺を無視して増やす方向に動いてるのさ。


「「「「「「「うわ鬼畜、引くわー」」」」」」」


フェリオ、月花、トライプニル、ルナナ、カゲ、メイル、バスレトが声を揃えて言う。

君達、タイミングがぴったりですね。

練習してたの?


「・・・な・・・」


涙目ですがる様な声を出すロリア。

・・・フォローしておくか。


「ロリアさん。大丈夫だよ。君も、君の妹も生かしてあげる。俺の従魔になる必要は無い」


「・・・!」


ロリアの瞳に生気が戻る。


「ただ、さ。流石に、無条件で、って訳にもいかない。この都市の研究や、軍事施設、軍備、他の都市の状況・・・知っている情報を流して欲しい」


「・・・そ、それは・・・」


ロリアがうなだれる。


「従魔になってたら、どっちにしろ情報は貰っていたんだから・・・一緒でしょ?」


「うむ・・・」


ロリアが頷く。

俺はそっと、ロリアの耳元に口を寄せると、


「妹さん」


ぴくり。


俺の言葉に、ロリアが身をこわばらせる。


「先程、デヴィクトは君を亡き者にしようと動いていた・・・」


知らんけど。


「つまり・・・奴は、君の妹を手に入れる為には、手段は選ばないと言う事だ」


ロリアが手を・・・拳を・・・握る。


「妹さんは、戦いを・・・?」


ロリアは首を振ると、


「妹は・・・戦いを好んでいない・・・だが・・・妹を守る為には、私が強い立場であらねば・・・」


俺はそっとロリアの肩に手を置くと、


「人間領はまだ広い。君と、君の妹の2人くらい・・・そっと紛れても分からないよ。もう、良いんじゃ無いかな?」


「だが、魔族が人間領に行くなど・・・」


「それは間違った考えだね・・・だって、魔族でも普通に人間領で暮らしているし・・・かなり高位の地位に就いている者もいるよ?」


フェルとか、フェルとか。


ロリアはかなり揺らいでいるようだ。


「このままでは、デヴィクトの好きにされてしまう・・・奴は倒さなければならない・・・ねえロリア、協力してくれる、ね?」


ロリアの目を見つめて言うと・・・ロリアはこくり、と頷いた。


「・・・流石ですね」


カゲが溜息交じりに呟いた。

うむ、流石妹想いの姉は、良い決断をする。


後はまあ。

聞き出した主要施設を破壊、重要人物を適当に暗殺、力を削ぎ・・・

適当に暴れ、後は一目散に逃走。

街を奪還できるような戦力もいないしな。


約束通り、ロリアとその妹は逃がしてやった。

出来れば、敵対しないと良いなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る