第91話 絡め手を用いて

侵攻は順調らしかった。

想定よりも小さな抵抗で、近接の都市を陥落。

初めての都市奪還。

人類は作戦成功を喜んだ。

この作戦は、見学していない。

ちょうどダンジョン攻略していたからな。


で、続報。


「そっか、陥落したか」


夜間に外から少数精鋭で奇襲を受けたのと、奪還した地下に埋められていた魔獣カプセルからの攻撃・・・中と外からの両面攻撃で、防衛部隊や職員、商人等は全滅・・・いや、捕虜になった奴もいたかもしれないが。

まあ、想定出来る手段ではあるし、悪く無い手だ。

と言うか、地下の魔獣とか、見逃すなよ。


「・・・おかしいとは思ったんだよ・・・何故か、敵から、今までの侮った様子が消え、こちらを恐れるような雰囲気すらあった」


ミストが呻く。


直近、何か魔物側の警戒を刺激する様な事があったのだろうか?

まあ、何にせよ、人間側の油断が1番の原因だろう。

敵が搦め手を使わない前提の立案なんて、あり得ない。


そもそも、まず戦力整えてから侵攻じゃなかったのか?


「誘われていた、のだろうね。ある時期を境目に、防衛レベルが急激に下がったから・・・好機と思って飛びついてしまったよ」


フィロが呻く。

いや、飛びつくなよ。


「防衛レベルが下がったのは、もふもふ事件のせいで近隣都市が致命的な被害を受けたからですね。防衛や治安維持の為、一部の兵力をまわしたんです」


発言したのは、ロリア。

人間領に亡命したのだが、何故かちょくちょく俺の所に来る。

しかも魔王軍の情報を持ってくるので、未だに繋がりが有るのだろうか。

向こうにも情報流されてるとやだなあ。


「もふもふなのです!怖いのです!」


元気に言ったのは、フレア、ロリアの妹だ。

ルナナがお気に入りで、膝に抱えている。

怖くない方のもふもふ。


「もふもふ事件、って何だい?」


フィロが尋ねる。

それ聞いちゃう?


「都市に襲撃があって・・・軍事施設が壊滅、多くの幹部が殺され・・・特に印象が強かった、白くてもふもふな悪魔が象徴的に扱われ、もふもふ事件、と」


「痛ましい事件だったうさぁ・・・」


ロリアの解説。

ルナナが悲しそうに言う。

ルナナ、君、見てきたように言うね。


人間側は、訓練の一環で色々討伐しているらしいから・・・その延長で都市を攻めているのだろうか。


「シルビア、キミ、何かした?」


アイリスが尋ねる。


「何かって?」


「いや、こう・・・侵攻の手助け的な」


「俺は侵攻には参加しない。申し訳無いが、な」


俺は頭を振る。


「・・・そうだったね」


アイリスが頷く。


・・・


あれ?


ひょっとして、もふもふ事件って、俺の物見遊山が原因?

もふもふって、ルナナとフェリオ?


・・・


多分気のせい。


「警戒レベルが上がったり、搦め手を使い始めたのも、そのシル・・・誰かさんのせい?」


ミストが尋ねる。

おい、今誰って言い掛けた?


「それは違います。次期魔王候補だった魔王の娘が全て亡命したので、危機感を煽られたようです。人間は取るに足らない存在ではない、油断ならない、と」


ロリアが否定する。

俺は関係無いらしい。


「おにーさまが、おねーさまの心を奪ったからなのですぅ」


フレアが嬉しそうに言う。

姫さんは、誰かに心を奪われたらしい。


「ちょ、フレア、貴方何を言うの?!」


ロリアがフレアの口を塞ぐ。

機密事項なのだろうか。

つくづく、ロリアの立ち位置が分からない。

敵対はしたくないものだ。


「いつものシルビアだね」


ミストが頷く。

何故俺。

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