第88話 ただ猫の様に

「誰だ!」


魔族が放った風が、壁を打つ。


「・・・気のせいか」


魔族が再び前を向き、元の行為・・・捕虜、人間の虐待へと戻る。

別に、的外れな訳では無い。

魔法が当たる前に、俺が移動しただけだ。


虐待される捕虜に思うところがない訳では無いが・・・流石にキリがない。


此処はダンジョン・・・では無い。


ふと思い立って、進行ルートから外れた都市に潜入してみたのだ。


「にゃあ、気付かれなかったにゃあ。助かったぁ」


駄猫が喋る。

おい。


「やはり誰かいるな!」


魔族が再び風の刃を放つ。

駄猫がひょろっと躱し、


「にゃ・・・にゃあー」


猫のフリをして誤魔化す。

猫だけど。


「お、猫ではないか。俺の好物だ」


捕虜を放置して、魔族が駄猫の元へ向かう。

大人しく隠れておけよ。


ふっ


魔族がかき消えると、次の瞬間バスレトに覆い被さり・・・


ころり


首を斬り飛ばされる。

従魔の中ではダントツに弱いって言っても、レベル40万は超えてるからな。

そうそう簡単にはやられない。


ぺろり


前足を舐める。

見ようによっては血を拭っているように見えるが、返り血が付くほど遅くはない。


月花ですら送還状態なのに、ちゃっかり外に出ているあたり、駄猫だと思う。


「何処に行きますか?軍事施設、魔導研究施設、魔獣研究施設、兵器研究施設、捕虜収容所・・・」


月花が上半身を出し、耳元で囁く。

本当に戦闘民族だよなあ。

文化的な観光スポットが全然無い。


「姫将軍の寝ている施設は、あの白牙の塔ですよ」


メイルが言う。

黙れ、駄魚。


「ロリアちゃんを狙うなら、薔薇の花束を持って行くといいにゃ。青色が好きだにゃ」


バスレトが言う。

青色の薔薇ってあまり見た事が無いような。


「うさあ」


ルナナが青い薔薇の花束を俺に渡す。


「はい、あげる」


カゲにそのまま渡す。


「はわ・・・あ、有り難う・・・でござる」


カゲがそっと花束をしまう。

おや、意外と喜んでくれた。


「魔導研究施設、かな」


何をやっているんだろ?


--


「オン・・・ウルヴァルリア・・・オン・・・」


怪しい詠唱が響く。


「魔導の探求、ですね。魔族とは、魔導と強さを追い求める存在・・・戦いとは別の、もう一つの在り方です。此処から戦闘向けの技術を産み出す事も有りますが・・・それとは関係がない探求も行っています」


月花の解説。

およそ戦闘用とは思えない魔物を培養していたり、魔導文字を空中に浮かべたり・・・


「あれは霊真エーテルの抽出に繋がりそうな研究じゃな・・・かつてこやつ等が滅びる原因となった研究・・・まあ、この世界が拒絶するじゃろうから・・・あそこから進む事はないのじゃがな」


フェリオが言う。

ん?

こいつら滅んでないよな?

滅んでいるのか?


「シルビア殿、先に進むにはセキュリティロックがかかっているようでござるな」


カゲが調査から戻ってきた。

先の方も見たかったんだが。

電子ロック?っぽいのだと、俺ではお手上げだ。

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