第86話 優しさ

「どういう事?!」


フェルが、凄い形相でまくし立ててくる。

どうした?


フェルは、漆黒の髪をした少女。

魔導王アークウォーロック、六王の1人だ。

圧倒的な魔法の才能は有るが、細かい事は苦手、ギルドの事もサブマスと妹に任せ切りだ。

無駄に人を勧誘しまくって、ゲーム内で最大規模のギルドにしてしまった。

魔法の才能は規格外で、破壊不可の筈のオブジェクトを容易に蒸発させる。


「何かあったのか?」


俺が尋ねると、リミアが答える。


「黒派の影響が強まった結果、ギルドの再編が行われました。六王のギルドを除いて、全て解体され、六王のギルドに組み込まれました」


んー?


解体された方はたまったものじゃないが、フェルのギルドは別に良いのでは。


リミアは、黄金の髪をした少女。

聖王アークセイント、六王の1人だ。

支援や回復が得意、敬虔な女神の信徒。

・・・何気に武闘派で、素手で高位の魔族を圧倒する。

看破スキル持ちなので、嘘をつくとバレる。

昔は自動発動なので苦労したが、今は心の中に留めておけるようになったらしい。


「他に、ギルド名も分かりやすくなりましたよ。魔道士ギルド、神官ギルド、賢者ギルド、剣士ギルド、騎士ギルド、盗賊ギルド・・・この6つです」


リミアが続ける。


「ああ・・・名前が変わったのが不満なのか」


『魔法使い隊』よりはマシだと思うよ。


「それだけじゃないわ!せっかくバランス良く、最高規模に人を集めていたのに・・・魔法職以外は全員、別のギルドに振り分けられたのよ?!ギルドの規模が一気に半分以下よ!」


おめでとう、リリックさん。


「魔法使い用のギルドに、前衛とかがいる方がおかしいだろう」


「そんな事無いわっ!何処のギルドに入ろうが、プレイヤーの自由じゃない!」


俺のツッコミに、フェルが言い放つ。


リミアがくすり、と笑うと、


「フェルが言っているのは正しいですよ。フェル、凄く人気があるから、みんなフェルを慕ってフェルのギルドに集まっていたんです」


「そ、そうなのか」


「そうよ!例えギルドが離れても・・・みんな私の部下なんだから!」


フェルが胸を張って言う。


「・・・本当にフェルの号令でみんな動いてしまうんですよね。元々うちのギルドだった人まで」


リミアが疲れた様に言う。

・・・凄いな。


何にせよ・・・人類は着実に体制を整えているようだ。


--


「つまり、後5回、攻略を成功させれば・・・チェックメイト。勝率は、決して低く無い」


フィロが、地図上の駒を動かしながら、宣言する。


魔王軍への反撃作戦。

その作戦が・・・何故か俺の目の前で行われていた。

作戦には参加しないぞ?


みんな頷いている。

それで良いのか?


「なあ、今って、殆どの領地を奪われている状況だろ?直線状に都市を占領しても、周囲から攻められて全滅する危険性が高いと思うが」


俺の疑問に、


「あいつら、あまり奇策を用いないからね。大丈夫だと思うよ。人間を舐めてるんだと思う」


アイリスが答える。

周辺都市放置なんて怖いと思うが。

少数精鋭の電撃作戦じゃあるまいし。


作戦案の進軍ルートは、人間領から最短距離で魔王城を結んでいる。


「でも、万が一途中の都市が落とされれば、補給路が断たれて全滅するぞ?」


俺ならそうする。


「冒険者ギルドはギルド倉庫が共通なので、拠点機能さえ回復させれば、補給の心配は有りません」


俺の指摘に、リミアが答える。

超イージーモードじゃねえか。

女神様優しい。

君達、女神様と軍略家に謝れ。

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