第85話 抜け駆け
「お嬢さん、俺と、夢の国に御一緒して頂けませんか?」
俺はその言葉と共に、青水晶の薔薇の花束を差し出す。
相手は、ミスト。
ミストは、ぽかんとした様子で俺を見る。
俺の格好は、白のタキシード[UR]。
トライプニルに跨っている。
うん、何をやってるんだろうね。
ミストは、赤髪の少女だ。
六王の1人で、
魔法は使えないものの、目にも留まらぬ疾さと、圧倒的な力強さで、純粋に強い。
仲はかなり良かったのだけど・・・俺がスレイの死、そしてこの世界の現実を受け入れられなかった為、俺を許せず・・・そのまま、関係が断たれた。
ミストと、仲直りをしたい。
バスレトが絶対自信が有る、と言ったので、信じてみたのだが。
やっぱりからかわれていると思う。
「・・・シルビア?」
「・・・駄目だよな」
顔を見たくないと言われてるしな。
「にゃ、効果は抜群にゃ。ミストはかなりグラっと来ているにゃ」
バスレトが嬉しそうに言う。
どう見ても戸惑ってます。
「あれ・・・シルビア、また従魔増えたの?」
ミストがバスレトに興味を示した。
まあ、猫だしね。
女の子は好きだよね。
「にゃ、やっぱりにゃあが見えるのにゃ!にゃあはシルビアの恋愛アドバイザー、にゃあが見えるのは、シルビアの事が好きな女性だけなのにゃ!」
嘘つけ。
「いや、気の所為だった。何も見えないよ」
ミストが首を振る。
設定に乗るのかよ。
そして、そんなに俺の事が嫌いか。
「その・・・綺麗な場所なのは確かだ。一緒に行かないか?」
無理だろ。
「・・・分かった。行っても良いよ」
良いのか。
ミストをトライプニルの後ろに乗せて、妖精の森に向かう。
敵も弱く、ドロップも地味だが、妖精が飛び交ったり、湖が綺麗だったり、木漏れ日が美しかったり・・・綺麗なエリアだ。
バスレト、良くこんな場所知ってたな。
ミストも、満更でもないようだ。
「シルビア・・・此処は?」
「ミストに見せたくて、探したんだ」
そう言えって言われました。
「・・・スレイが言ってた秘密のエリア・・・それを思い出したよ。いつか案内して貰おうと思ってたんだけど・・・果たせず・・・」
「お酒飲み過ぎて約束すっぽかしたのはミストにゃ」
ミストの呟きに、バスレトがつっこむ。
事実なのか、ミストは口をぱくぱくさせるが、見えない設定を思い出したのか、口をつむぐ。
「赤くなって口をもごもごさせているのが可愛いと、ご主人が思ってるにゃ」
バスレトが思考を捏造する。
妖精の森奥で、月花がランチを用意。
美しく美味しい料理を楽しんだ後、出口へと戻る。
確かに綺麗だが、経験値的にも、レアドロップ的にも、戦闘のスリルとしても微妙。
これで機嫌が治るとは思わないのだが。
これで楽しめるのは、恋人同士くらいだろう。
ミストと会話はするのだが、本題には入っていない。
バスレトの念話?によるアドバイスも利用しつつ、話を進める。
森から出ると、バスレトが話を振る。
「さあ、ご主人。ミストにマイハウスの事を聞くにゃ。屋上の施設に関して詳しく」
ん?
「何で知ってるの?!」
ミストがバスレトをぐらぐら揺らす。
見えないんじゃ無かったのか?
「屋上って・・・まさか」
月花が呻く。
「マイハウスの屋上に何か有るのか?」
たぬきおやじのイベント関連?
「うん・・・絆の教会、ができたよ」
「教会?」
女神様を祀ってあるのか?
「たぬきイベントの最終段階までいくと、屋上に追加される施設です。そこで結婚式を挙げると、幸せになれる、という設定ですね・・・まさか、その段階まで辿り着くプレイヤーが出るとは、思いませんでした」
月花が解説。
「・・・お金足りなかったから、友人から募って・・・代わりに、何人かの結婚式の時に貸し出したよ」
ミストが言う。
ちゃんと黒字出るのだろうか。
「もっとも、本当に効果が有るわけでも無いけどね・・・結果死に別れた人もいれば、共に死んだ人もいる。そもそも、最近は遊びや休暇といったものもないし、結婚式も行われていない。最後に使ったのはもう1年以上前だね」
赤字っぽい。
「ちょっと見せてくれよ」
「ふえ?!」
何故か驚くミスト。
そういう流れじゃ?
ミストの案内で、教会を見学。
なかなか荘厳だ。
女神像が飾ってある。
おや、女神像の顔・・・デジャヴ。
「あのね・・・シルビア」
不意に、強い口調でミストが言う。
じっと俺を見つめ・・・そろそろ本題か・・・?
腹を割って話そう。
ギスギスは・・・したくない。
「・・・やっぱり、今言うのは卑怯だと思う。抜け駆けは・・・」
ミストが首を振って下がる。
何故。
「おい、ミスト?」
「うん・・・シルビア・・・いつか、世界を救った後、聞いて欲しい事が有る」
今話そうよ?!
ミストがきっと顔を上げて告げる。
・・・
「分かった。その時に聞くよ・・・」
若干、フラグっぽいのが気になるが。
でも、
「出来れば、ミストとは昔の様に友人として接したかったのだけど・・・俺が人類の責務とやらから逃げているからな。仕方がないか」
ミストがきょとんとして、
「その話なら、私も悪かったよ。シルビアは自分が出来る事をしてくれているし、実際、みんな助かっている。スレイも・・・案外、女神様に祝福されてるって言うのは本当かも知れないよね。楽しくやっているみたいだ」
どういう心境の変化?!
スレイ、楽しくやっているの?!
と言うか、じゃあ先延ばしにした話って何?!
「・・・良く分からんが・・・許してくれるのなら良かった。ミスト、ずっと友人でいて欲しい」
俺が、素直にそう告げる。
が。
ミストは微妙な表情で、
「ずっと友人・・・はちょっと・・・」
口ごもる。
・・・そうだよな。
友人関係を永遠に続ける、というのは難しい。
お互い、相手を思いやり、努力して関係を維持しなければ。
すっと手を差し出すと、ミストが握り返してくる。
「また、よろしくな」
俺は、そう告げた。
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