第三章

第84話 疑心暗鬼

「疑心暗鬼?」


アイリスがもたらした話に、問い返す。


アイリスは、長く美しい髪をした、凛々しい顔の女性だ。

騎士王アークロード、六王の1人だ。

重装備と大きな盾・・・しかし、長く細身の槍を扱い、蝶のように舞い、蜂のように刺す。

加えて多種の魔法も扱い、防御力も最強。

ただ、本人は剣を扱いたいらしい。

剣を握ると、何故か戦闘能力が俺と互角まで劣化する。


「うん。シーザーの死以降、混乱が続いていてね・・・」


アイリスが疲れたように言う。


シーザーは、スレイが死亡する原因となったお偉いさん。


スレイは、最近死んだ猫人・・・俺の親友だ。

この世界を観光して回っていたのだが、徴兵され、お偉いさんの無駄観光の護衛中に死亡・・・完全な人災、人殺しだ。


シーザーは、スレイに助けられた後も危険地の観光を続け、当然の結果として死んだのだ。


「そこまで影響が有る奴だったのか?」


「白派のトップだにゃ。白派は権力集中型だったので、ボロボロにゃ」


何故かバスレトが続く。

バスレトは、俺の側から離れ、ふらっと出掛ける事が良く有る。

その為か、時々、妙に色々知っている。


まるで猫みたい。

猫か。


バスレトは俺の従魔だ。

戦闘能力は、皆無と言っていいほど低い。

種族は駄猫。

実態も駄猫。

女の子好きらしい。


「白派、っていうのは、派閥の名前だね。白が、女神不信派。強制ログアウト計画や、拠点最強化計画も、この派閥の計画だよ」


反女神様、か。


「それに対し、黒派が、女神畏怖派。女神の不興を買うのを恐れ、真面目に魔王討伐を考えている」


「穏健派はいないのか?!」


もっと世界を楽しもうぜ。


「無理だね。女神様が試練を与えてるのは確実だ。ゲームのタイトルが最後の審判ラストジャッジメントだし、導入部分でも明言され・・・」


アイリスが言う。


「加えて、中で人が死ぬと新たな人がこの世界に召喚されるとか。徐々に参加人数が増えていくとか。このままだと、全人類がこの世界に召喚、すなわち、現実世界から人類がいなくなる・・・それは明らかにゃ」


バスレトが言う。

何でナチュラルに解説側に回ってるんだ?

でもまあ・・・確かに。


「加えて言えば、もうすぐ魔物が現実世界に侵攻しますしね。レベル数千程度ですが、どの程度の被害が出るか」


月花がポツリと言う。


「待って?!」


アイリスが月花をガバっと掴む。


「月花殿?!」


カゲも慌てる。


「冗談ですよ。フェアリージョークです」


月花が苦笑しながら言う。

だから、さり気なく言うと信じちゃうって。


月花は、フェアリーだ。

元々は、冒険ギルド付属のギルド倉庫の管理フェアリー。

外の世界を見て回りたい、という熱心なお願いに折れ、従魔として連れて行く事にしたのだ。

最初の仲間で、1番頼りにしている。

数多くの魔法を操り、その強さは六王を超えている。


「本当は、1万レベルを超えた魔物になる予定じゃ」


フェリオが言う。

ちょ。


フェリオは、神狼。

元は、コキュートスのエリアボスだ。

フェンリルの兄らしい。

俺の従魔の中でも屈指の強さで、六王をあしらえる程の力を持つ。


「・・・それも冗談・・・だよね・・・?」


アイリスがぐったりとして言う。

システム側の情報なんて、プレイヤーにはアクセス出来ないからなあ・・・


しかも、時々、本当に貴重な情報提供するので始末が悪い。


「それで、疑心暗鬼って?」


話を戻す。


「あ、うん。シーザーの死に、上位者が関わってるんじゃないか、って疑いがあってね」


ん?


「殺人とかではなかっただろ?懲りずにダンジョン探検に行って、魔物にボコられたって聞いたけど」


「んー・・・そうなんだけど。その場所がね、一般には知られていない場所だったんだ」


アイリスが思案顔で言う。


何処だろう?


「煉獄城の地下、隠しフロア」


「ああ」


アイリスの言葉に、言葉を漏らす。


確かにあそこは・・・


「見つけ辛いし、危険だから、行き方は非公開にしたな」


「うん・・・アレを知っているのは、六王、シルビア・・・後は、自力調査の可能性もあるけど・・・シーザーが知っているのは不自然だ」


なるほど。


「更に言えば・・・僕達も複雑な手順を覚えきれてないから・・・フィロと、シルビアくらいしか候補がいない。勿論、2人がやる訳が無いし、動機もない」


アイリスが続ける。


フィロは、美しい銀髪をした女性。

六王の1人、賢王アークセージだ。

俺が提供した攻略情報や、他の人から仕入れた情報等を整理、各所に提供している。

俺が手に入れたアイテムをお金に変えるのもフィロ経由だ。

無論、戦闘面でも、全魔法を操る万能の強さを誇る。


「なるほど。上位者・・・特に六王が疑われている訳か」


勿論、俺は違うし。

そもそも、そんな事するくらいなら、自分で忍び込んで殴りに行く。


フィロも、やるならもっとスマートにやるだろう。


つまり、その疑惑は誤りなのだ。


「白派が過激な行動に出て、黒派に潰されたりして・・・段々と、黒派の力が強くなっている。それがまた、六王の疑惑を強めているよ」


何故に。


「黒派、の権力者って、誰なんだ?」


「黒派は・・・イデアを除く五王、及び、その協力者5人、だね。政治面は協力者が、人心面や実務面は、五王が担当している。僕の協力者は、ジョージ・マルシャル。アメリカ大統領の息子だよ」


偉そうな人だ。

多分、他の4人もなのかな?


イデアは、普段は黒装束に身を包んだ少女だ。

六王の1人で、影王アークシャドウ

情報収集や情報操作、ダンジョン探索の補助に、偵察、潜入、騎士団の支援・・・幅広く活動する盗賊ギルドの長。

なのだけど、俺の事も忘れてるし、強さもかなり劣化している感がある。

協力はしても、徴兵は断っているようだ。

むしろ、俺がカゲを通じて依頼し、動いて貰う事が多い。


カゲは、イデアがつけてくれた護衛だ。

イデアと同じく、黒装束に身を包んでいる。

カゲの素顔は、俺も見た事が無い。

ユーザースキルのお陰で、俺の従魔として扱われるようだ。

お陰で、俺の従魔強化スキルがのったりする。


「まあ・・・僕達が疑われるのは面白くないけど・・・状況はマシになってきたよ。物見遊山とかのツアーは無くなったし。兵役免除されてた大部分のお偉いさんも、訓練や守備に参加させるようになった。指揮系統が一本化したので、より戦略的に防衛出来るようになった。治安も良くなった・・・」


スレイの犠牲は無駄では無かった、か。


「反撃の時は近い。出来れば、シルビアが協力してくれれば心強い、けど」


「すまない」


アイリスの言葉を、謝罪で拒否する。


「なら仕方がないね」


アイリスは、残念そうに言った。

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