第69話 冷静な対応

蒼天の槍の事は、考えない事にした。

自分は主人公体質からは程遠いが、周囲より高いレベルのせいで、思わぬ事態になる事がある。

気をつけようと思いました。


今日は、封印エリア、椰子の木洞窟──初心者向けエリア開放の為、移動中。

トライプニルに乗れば一瞬なのだが、LJOの世界を歩くのは好きなので、乗らない事が多い。

義務など無い、気ままな人生。

急ぐ必要は無い。


「キミ」


声をかけられた。


美しい緑色のショートカットの女性。

身体に似合わない大きな盾・・・多分LR。


この流れは・・・


恐らく、碧山の盾のギルドマスター。


無視して逃げ・・・いや、そこから何か連鎖してギルドが解散する可能性が。

落ち着け、シルビア。

冷静になれ、冷静になれ。


「はい、何でしょうか?」


普通の対応を心掛ける。


「此処は危険な場所だ。すぐに立ち去りなさい。近くの街まで送ろうか?」


うん。

此処は内地。

魔王軍侵攻の恐れは無い。


出現する魔物も、推奨レベル5千前後の、平和な場所だ。

つまり、的外れな事を言っている。


だが。


そこを指摘する、つまり認識を正した結果、妙なコンボが発生する可能性が有る。


どうすれば良いか?


とにかく、逆らわなければ良い。


「そうなのですね。知りませんでした。では、お手数ですが街まで案内して頂けますか?」


「お安い御用さ」


女性が、にっこり笑う。


街道を、女性に連れられ歩く。

あ、道間違えてるよ。

こっち、廃教会への道だ。

右だよ右。


訂正はせず、大人しく歩く。


色々話しかけられるが、色々捏造してなんとか流す。

慣れたものだ。


廃教会・・・定期的にエリアボスの、ヴァンパイアシスターが湧くのだが。

湧いてませんように。


「あれ・・・こんな所に廃教会・・・しかも、道が途切れている?」


女性が小首を傾げる。


「何かお困りですか?迷える子羊よ」


いたぁ。


でもまあ、戦闘回避は難しくない。


「はい。実は街に行きたいのですが、道に迷ってしまいまして」


俺が先手を打って話しかける。


シスターは、ああ、と頷くと、


「道が違いますね。戻って、最後の分岐を左に進んで下さい」


教えてくれる。


「有難う御座います」


俺が笑顔で御礼を述べる。


が。


「待って」


女性が何かに引っ掛かり、止める。


ち。


「私達は・・・子羊じゃない」


はい、どうでもいいですよ、そこ。


「それに・・・いかにも何かが出そうな廃教会・・・怪しいよ」


シスターはくすり、と笑うと、


「ボロボロですよね・・・ただ、私にとっては想い出の場所なので、時々手入れしてるんです」


主人であるヴァンパイアロードと出会った場所。


「想い出・・・それはいったい?」


突っ込んで聞くなよ。


シスターは微笑み、


「此処は孤児院を兼ねていたんです。私も此処の出身で・・・みんな忙しいので、手入れに来ているのは私くらいですけどね」


カヴァーストーリー。

なかなか優秀な隠しボスだ。


「街から離れ過ぎている。怪しいよ」


女性が食い下がる。


「元々、街道の先に大きめの村があったので。そこに行く人で賑わっていたので、此処の教会に寄る人も多かったんです」


シスターが答える。

これは本当。


よし・・・何とか回避できそうだ・・・


「黙れ、ヴァンパイア。我が真実の眼には、貴様の正体は映っているんだぞ!」


女性が叫ぶ。

反則きたあ。

前提イベント台無しじゃん。

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