第67話 飛ぶ鳥が落ちる勢い

「蒼天の槍め・・・!」


珍しく、アイリスが声を荒げる。

かなり焦燥した様子だ。


横のミストも、何時もの陽気は隠れ、疲労を顔に張り付かせている。


「どうぞ」


カゲが出したお茶と、お茶菓子を食べ、2人が一息つくのを待つ。


蒼天の槍・・・フェルも困っていたが、みんな迷惑している様だ。

まあ、俺も被害にあったと言えばあったんだけどね。


「お疲れだな」


「うん・・・最近は休まる暇が無くて・・・」


ミストが疲れた様子で言う。

引き抜きとか勧誘?


「今日も、午後から防衛・・・何でこんな事に・・・」


アイリスが言う。


勧誘とかじゃなく、蒼天の槍に良い様に使われてる感じ?


「ヒイロめ・・・」


ミストが恨みがましい声で言う。


大体状況は読めた。

勢力が強くなった蒼天の槍が、調子に乗って、他のギルドを酷使しているのだ。

従う必要は無いと思うけど・・・そのあたり、色々有るのだろう。


「何が、自分を待っている白馬の王子様がいるだよ。自分のギルド放り出して雲隠れなんて。ギルドが空中分解して、行き場無くした人が流れ込んで、うちは大混乱だよ!」


超展開?!


ミストが呻く。

乙女かっ。


そもそも、男なのに王子様って。

いや、人の趣味嗜好にどうこう言う気はないけど。


「うちもだよ。やる気に満ちた実力有るギルドメンバーが一気に数十倍増えて・・・喜ばしい事だけど、限度がある」


アイリスが突っ伏して言う。

うわ・・・


とは言え、俺も自分のギルド放り出した身なので、ヒイロとやらには少し同情する。

みんながヒイロに頼り過ぎたのだろう。

他人の手柄を奪い続けた、良心の苛責も手伝ったのかも知れない。

なむなむ。


「そう言えば・・・」


アイリスが、ふと思い出したかの様に言う。


「僕の所に、変な女性が来たよ」


「変な女性?」


アイリスは、こくり、と頷く。


至高の六王ヘキサグラムの事を嗅ぎ回っているみたいだった。僕が元至高の六王ヘキサグラムって言うのは有名だからね。探りを入れに来たみたい」


「気になる人は気になるんだろうね」


俺は苦笑しながら答えた。

実態は、ただの仲良しまったりギルドだったんだけどな。

所属メンバーの実力、エリア開放数、名前・・・謎のギルド感が強い。


「情報提供する義理も無いしね。もう半年以上前に解散したって言ったら、嘘だってくって掛かられたよ」


アイリスも苦笑する。


「私の所にも来るよ、至高の六王ヘキサグラムの事を聞く人・・・そう言えば、うちにも、解散したって信じない女性来たよ」


ミストが言う。

同じ人かなあ?


ミストがはっと気付いた様な表情を見せ、


「実はこっそり再結成してたり?!」


「無い無い・・・俺以外がこっそり創ってたら知らんが」


「ギルド名、至高の六王ヘキサグラムのギルドは存在しません。混乱を避ける為、同じ名前での登録は出来ません。例え解散済でも」


月花が否定する。


にしても、


「結局、ミストとアイリスのギルドが、防衛の中心になっているのか?」


「うん・・・うちは賞金稼ぎのつもりだったんだけどね。何時の間にか、遊撃隊のコアギルドに」


ミストが困った様に言う。


「僕は、元々治安維持の騎士団だったからね。拠点防衛のコアギルドになったけど、平時の警備の人員も増えて、悪くは無いかな」


アイリスが、やや回復した様子で言う。


「他に、フェル殿のギルド、リミア殿のギルド、フィロ殿のギルド、うちのギルドが規模が大きいでござる。最大規模のギルドは、碧山の盾でござるな」


カゲが補足。

なるほど。


「今まで後退を続けていた人間領が、踏み止まる様になってきました。プレイヤーの皆さんの貢献が大きいようでござる」


カゲが言う。


「そっか、良い傾向だな」


さぼってる負い目はあるものの、嬉しくはある。

エリアの開放や、強力な武具の供給、狩場情報の提供はしているけど。


しばし歓談し、2人と別れた。

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