第61話 何も起きません

「大台ですね。特に何も無いですけど」


月花が苦笑する。


「おめでとうございます」


カゲが深々とお辞儀する。


「有り難う」


さて・・・まだかな。


「どうしました?」


月花が不思議そうに尋ねる。


「いや、な。ダンジョン単独クリア50個で・・・女神様に拝謁できる、と聞いたからな」


「・・・あ」


月花が気付いたように呻く。


「まあ所詮、ただの都市伝説だったのかな。誰も来ないな」


「都市伝説ではないよ。ちょっと確認が遅れただけだね。ゲームの趣旨をはき違えているはみ出し者は、確認の優先順位が低いからね」


不意に見知らぬ声・・・いや・・・これは・・・月花を連れ出そうとした時に来たギルド員の・・・


「妖精係のおばさん?!」


「誰がおばさんだ?!」


あれ・・・あれか、年齢とか気にするタイプの。


「・・・で、何の用でしょうか?月花はもう俺の従魔です。放っておいて下さい」


ふと月花を見ると、滝の様な汗を流している・・・あれ。

月花以外の従魔も、同じく目を泳がせている。


「・・・いや・・・その新生命の事は把握してたんだけどね・・・キミ、なかなか面白い事をしているね」


「50個単独クリア、ですか?」


「いや、そこの馬や兎だよ。狼は私も手を貸したけどね。まさかその法を盗まれるとは思っていなかった」


「うさぁ、うさぁ」


「いや、今更普通の兎のフリをしても駄目だよ。私を欺ける訳が無いだろう?」


そもそも、兎はうさぁとは鳴かない。


「うまぁ、うまぁ」


「馬はヒヒンじゃないかな」


おばさんが苦笑して言う。


「まあ、シルビアくん。いくら本道から離れた端役とは言え・・・あまり好き勝手していると、私も動かざるを得ないよ?」


おばさんが脅しを込めた口調で言う。

く・・・


「・・・冒険者ギルドからの除名・・・とかでしょうか?」


おばさんは頭を振ると、


「言葉には気をつけた方が良いよ?私がその気になれば・・・地球に干ばつや大雨、噴火に地震・・・天変地異を起こす事もできるんだからね」


冒険者ギルドの妖精管理者が?!


このおばさん、すげー。


防災グッズ買い込んだ方が良いんだろうか。


さっきからおばさんの目がだんだん厳しくなるのは何故なのか。


「キミね・・・いい加減にしないと・・・私には、このゲームを終わらせる事も、キミをログインできなくする事もできるんだよ?」


「大変申し訳有りませんでした、お姉さん」


困るので、とりあえず謝る。


「・・・いや、地球に天変地異起こすよりも激しく反応するって、おかしいよね」


お姉さんが困惑した様な声を出す。

俺は人類の未来とやらよりも、ゲームの未来の方が大切だぞ?

この世界にそのまま転生してしまいたい気分だ。

・・・ずっとログアウトしなければそうなるんじゃないだろうか?


「まあ、偉業を達成した報酬・・・これは、キミの行いを見逃してあげる、という事にしようか。・・・これまでの口の悪さも含めて、ね」


お姉さんからの報酬は別に要らないので、別に良いですよ。

冒険者ギルドランクが上がるとか、たぬきがつくとか、そんな報酬は要らない。

冒険者ギルドの報酬アイテムも、UR武具が限度だしな。


「これは、今回の条件達成とは関係無いんだけどね・・・キミ、さ」


「何ですか?」


「このゲームの目的は、戦略ゲーム・・・人類がいかにして魔王軍に勝つか・・・それを理解している筈だよね。なのに、何故それに参加しないんだい?」

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