第60話 そこの兎にも勝てない

カッ


フェイントの後打ち込んだ剣を、


ヒュン


あっさり躱され、反撃が来た。

何とか紙一重で躱す。


隙だ。


カカカカ


連撃を加える。

受け止め、いなされ、


カンッ


強く打ち合い、距離を取る。


ザッ


剣を地面に突き刺し、


「腕を上げたね、シルビア」


そう言ったのは、アイリス。


「アイリスも、相当上達したな」


大分練習したのに届かない、と悔しがるべきか。

相当な実力差が有るのに、剣なら互角なのを驚くべきか。


「ギルドには、剣の相手いないのか?」


俺が尋ねると、


「そうだね・・・流石にレベル差が有るからね」


まあ、そうか。


アイリスは、騎士団を創った、というか創らされた。

騎士団を立ち上げるにあたり、ギルマスを頼まれたらしい。

実は以前から頼まれていたが、俺のギルドに所属していたので断っていたとか。


「アイリスのギルドが、仲間内では1番大きいな。500人くらいいるんだっけ」


「スタートが違ったからね。僕の場合は、既にメンバー候補がたくさんいたから」


アイリスが苦笑する。


「ミスト殿とフィロ殿が100、リミア殿が200、フェル殿が400、でござる」


カゲがポツリと言う。

みんな意外と多い?!

と言うか、フェルすげー。


あれ。


「カゲのところは?」


イデアのところ、何人くらいなのか。


「正確な数は言う訳に参りません。ただ、1000より多いでござる」


多?!


「そう言えば・・・」


ふと思い出した様に、アイリスが言う。


「カゲくん。キミとも打ち合いしてみたいな」


アイリスが言うが、


「御容赦を。拙者はゴブリンにも泣かされる程、戦闘は苦手故に」


カゲは押し止める様に手のひらを向け、辞する。

この前グレーターデーモンを3枚におろしてましたよね。


「・・・そうだ、カゲくん。イデアに伝言頼めるかな?」


「承るでござる」


真剣な声音で言う、アイリス。

カゲが頷く。


「トラミスの街、西の街道で、PKを含む強盗の襲撃が起きている。騎士団でも護衛は出しているが、限界が有る」


「承知したでござる。調査致すでござる」


調査・・・場合よっては警告・・・それでもやめなければ・・・

アイリスからは治安維持、フィロからは調査依頼が、時々イデアのギルドに行く。


「ところで、剣の相手は?」


アイリスの口調が落ち着いたものに戻り、カゲに尋ねる。


「御容赦を。拙者はそこの兎にも勝てない故に」


カゲが固辞。

そこの兎は、俺も勝てないよ。


--


ダンジョンを駆ける。


決して高ランクのダンジョンではないが、未踏破ダンジョンだ。


ガーディアン、ガーゴイル・・・侵入を阻むトラップモンスターが・・・過ぎ去る。

ここまでレベル差があれば、気付かれない。


途中、レア宝箱は一応開けるが、ゴミばかり。

入っていてURだ。


そして・・・ボス部屋。


バタンッ


流石に此処は、盛大に開ける。

この前こっそり開けて、中のボスを暗殺したのだが・・・ちょっとつまらなかった。


「?!」


お茶碗を手に持ち、魚を口に運ぼうとしていたボスが・・・固まる。


「レベル4万のアライアンス級、グレーターデーモンですね」


月花が告げる。

一般モブよりは強いが、所詮その程度だ。


「行け!」


号令をかけつつ、俺は闇に溶ける。

慌てて護衛が部屋に流れ込むが・・・


ザッ


フェリオの爪の1薙ぎで、敵の首が飛ぶ。


うさぁ


ルナナの腕の1振りで、敵の首が飛ぶ。

何でそれで飛ぶんだ?


パカン


トライプニルが駆け、敵を蹴飛ばし回る。


ザザザッ


何とか戦闘態勢を取ろうとしたボスの背後にまわり、滅多斬りにする。


ボウッ


ボスが闇に溶け、天井付近に現れる。


「貴様・・・等?!」


叫ぶ・・・が、そこで言葉に詰まる。


カゲが背後から、刃を突きつけている。


「言い残す事が有るか?」


俺が尋ねる。


「何故だ・・・?!侵入者の反応は・・・無かったぞ?!」


いや、普通に歩いてきましたよ。

月花、フェリオ、ルナナは、部屋に入ってから喚び出したけど。


サンッ


カゲがボスの首を撥ねた。

イベントが発生するタイプの敵なら、ああいう無駄な台詞は吐かない。


「これで50、か」


ダンジョン単独クリア、50個目。

尚、カゲは自身のプレイヤースキルの効果で、半従魔扱いとなっているらしい。

俺の従魔強化スキル等も乗るし、単独クリア扱いにもなる。

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