第26話 橋の上の騎士
ヒュ
白馬に乗った騎士が槍で突いてくる。
躱し、背後から薔薇槍で連撃。
騎士の生命力を削り切る。
今日は久々のソロ。
PTは美味しいし楽しいけど、ソロもホッとする。
ドロップが落ちる。
魔石が2個、解体で3個目。
あぐあぐ
問答無用で月花が食べる。
[でさあ、また借金増やされて・・・払えないから、また明日、一緒に狩りに行こうよ」
ギルドチャットで雑談しつつ。
・・・
[待て、昨日、200億程分配しただろ?何で無くなるんだ?]
[いや、良く分からないだけどさ・・・300億の絵画飾っておいただなもとか言われてさあ]
[・・・おかしいって・・・何とかそのイベント中止出来ないのか?]
[あ、でもさ。幸せを呼ぶ絵画らしくて、飾っておくと想い人と親密になれるそうなんだ]
・・・幸せの壺かよ。
[詐欺だと思うぞ・・・それにしても、想い人とかいるんだな]
[はわっ?!い、今のは聞かなかった事にしてくれ!]
まあ、詮索する気は無い。
今は、フィールドを歩いている。
と言っても、結構レベル帯は高く、ソロ推奨レベルは3000だ。
さっき倒したのはフィールドボスで、ソロ推奨レベルは4000。
格上だ。
そして、
「ご主人様」
月花が警告。
「ああ、分かっている」
橋の上、一人の騎士が、待ち構えている。
簡単に通してくれそうにない。
くるり
方向転換、橋を避け、別方向に向かう。
「こ、こら、待て・・・待ってくれ」
騎士がのたのたこっちに向かってくる。
あまり早くは無い。
騎士はフルプレートにフルヘルム、タワーシールド。
典型的な防御特化だ。
声は、魔力で変声している様だ。
くぐもった声が聞こえる。
「何も、そなたを害しよう、と言う訳では無い。私は剣が苦手でな、少し相手をして欲しいのだ」
「・・・俺は戦闘職じゃ無い。剣の相手なら、戦闘職に頼んでくれ」
「だからこそ、そなたにお願いしたいのだ。恥ずかしながら、私の剣は戦闘職と打ち合える程では無い」
「実力差も分からないし、危険だと思うぞ?」
「ここに有る木剣を使う」
騎士が2本の木剣を出す。
さて・・・
「大体、何で剣なんだ?その格好なら、槍が向いていると思うが」
「うむ・・・それには深い訳が有ってな・・・」
騎士が、俺の横に来て座ると、俺にも座るように促す。
あれ、何故か何時の間にか、面倒な事に巻き込まれていないか?
騎士の横に座ると、月花がお茶を出す。
「うむ、かたじけない」
騎士はお茶を受け取ると、器用に飲む。
どうやっているのだろう。
「実は、拙者は武家の家系でな」
「・・・由緒正しい家なんだな」
「だが、長子たる拙者には剣の才能が無くてな・・・そもそも、運動は苦手なのだ」
「ふむ」
「だが、せめてこのゲームでなら少しは剣も・・・と思ったのだが・・・見ての通り、あまり振るわぬ」
「まず職業がおかしいよな。剣士やろうぜ」
「だが、やはり剣の道は諦められぬ。そこで、細々と練習をしておるのだ」
「転職すれば良いと思うんだが・・・」
「そこで、そなたを見た瞬間、電撃が走ったのだ。是非、拙者の剣の練習相手になって欲しい」
・・・練習相手、というのは微妙だ。
やはりレベル差や職業差があるので、成り立たない。
せいぜい、同職、ライバル同士、とかならいけるだろうが。
まあ、少し打ち合えば分かるだろう。
「分かった」
力では押し負ける。
速さで撹乱、剣を突きつける、とかかな。
それでも突っ込んで来たら木剣が折れるけど。
まあ、その場合はそもそも打ち合いが成り立って無いしな。
チャ
構え、
「いくぞ」
駆け寄り、剣の軌道を確認しつつ、首筋に・・・速い?!
フルプレートに似合わない速さ。
正確に俺の剣筋を見極め、合わせてくる。
カッ
打ち合い。
成り立ってる・・・だと?!
無論、お互い調整はしているのだが。
技量はほぼ互角。
数十分打ち合った後、距離を取る。
「・・・十分強いじゃないか」
「そなたこそ、非戦闘職の動きでは無い。やはり拙者の見込んだ通り、そなたと拙者は相性が良い」
まあ、俺でも動きについていけるのだから、そう強いレベルでは無いのだろうけど。
ふむ。
悪い奴でも無さそうだし、ギルドに誘ってみるか。
成長すれば盾として活躍してくれそうだ。
それに・・・フェルが男性を増やしたいって言ってたしな。
「キミ、良ければ俺のギルドに入らないか?攻略目指しているギルドでは無く、遊び狩りしたり、チャットで雑談するだけの、まったりギルドなんだけど」
「む?ギルドか。確かに、何処かに所属したいと考えていた。是非御願いしたい」
好感触。
ちなみに、無事ギルド作成イベントは実装。
各地でギルドが作られ、広場とかに行くと、結構募集の看板が建っている。
建物の影、教会の裏等に、たまり場、と称して集会所を作るギルドもちらほら。
いや、お前等、ちゃんとギルドハウス作れよ。
街の中は混むから、という理由で、敢えて街道の脇に看板を建てて募集するギルドもいる。
要請を出し、受諾。
「うむ、今後ともよろしく御願いする」
ぺこり、と頭を下げる・・・っと。
「・・・忘れていた。俺はシルビア。ギルドのマスターをやっている」
「拙者は、アイリス。見ての通り、蝶の様に舞い、蜂の様に刺す戦法を得意としている」
うん、どう見ても、鈍重に敵の攻撃を受け止める役目ですよね。
[みんなー、1人メンバーが増えたよ]
[またマスター、ナンパしたのですか?]
リミアが恒例のネタをやる。
何で男をナンパせねばならん。
[初めまして、アイリスと言います。情熱的な誘いに誘われ、加入させて頂きました。一応、シルビアさんと互角に打ち合えるくらいの実力が有ります]
わざわざ若い女の子の声に変声する芸の細かさ。
そういうの要らないから?!
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