第2話 想像力

暗い部屋。

明かりは、パソコンのディスプレイのみ。


食事を終え、ゲームを再開しようとするが・・・気が重い。

最初は楽しかったのだが・・・序盤でレベルを上げ、そろそろストーリーを進めようとすると・・・不意に面倒になってきたのだ。


「別のゲーム、探そうかな」


独り言。

聞く者は、当然居ない。


そう言えば、メールが入っていたっけ。

βテストの当選とか言う。

別に応募してないんだけどなー。


Last Judgement Online


それがそのゲームの名前。

βテスト・・・どれだけグラフィックに凝っているのか。

パソコンのスペックは足りる、はず。


・・・


テキストベースのゲーム?!

いや、時代遅れにも程があるだろ?!


・・・やってみるか。


なになに・・・サイトにアクセスし・・・


:名前を入れて下さい


シルビア、と。


:名前、シルビア、受け付けました。

:職業を決めて下さい。

:後から変更が可能です。

:前衛>ソードマン、ファイター、シーフ

:後衛>メイジ、アコライト、アーチャー

:生産>ハンター、ファーマー、スミス

:探索>レンジャー


レンジャー・・・?

それにしてみようかな。


:レンジャー

:全ての武器を扱える。

:ダンジョン探索に適したスキルを覚えるので一攫千金を狙える。

:野営技能を持ち、生存能力が高い。

:これで宜しいですか?


強いじゃないか。


Y、と。


:貴方はレンジャーになりました。

:コマンド、ステータス、探索、移動。


探索、と。


:敵が出現しました。

:スライム、1体。

:攻撃、スキル、魔法、逃げる、防御、道具。


スキル、と。


:使用可能なスキルが有りません。

:スライムの攻撃、1のダメージを受けました。

:HP:30→29


無いのかよ。

しかも、1行動と見なされて敵動くのかよ。


魔法は無いだろうから・・・


攻撃、と。


:スライムに1のダメージを与えました。

:スライムの攻撃、1のダメージを受けました。

:HP:29→28


弱いじゃないか。

その後、12回繰り返し、ようやくスライムを倒せた。

休憩、徐々にHPが回復し・・・やばい、これつまらない。


もうやめよう。


--


:シルビアの攻撃、ショートソードが唸る、スライムに9のダメージを与えた。

:スライムを倒した。

:大蟻の攻撃、シルビアは攻撃を躱した。


うん。

こういう単純な奴って、ついついやってしまうよね。

レベルが上がったり、武器を拾ったりした関係で、少しずつ強くなっていた。


:旅の老婆が話しかけてきた。

:「楽しんでいるかね?」


悔しいがちょっと楽しんでる。


:「楽しんでいるなら嬉しい事じゃて」


文字が続いて流れる。

いや、俺何も反応してないし。

勝手に話進めるなよ。


:「そんなお主に、素晴らしいプレゼントを持ってきたのじゃ」


・・・何かくれるのか。

それは嬉しいな。


:「良いか?このゲームは文字だけのゲームじゃが・・・想像で補えば、無限の可能性があるのじゃよ」


まあ、実際、剣で切ったりした文字が表示されたら・・・

想像の中では敵を斬りつけてるよね。


:「そう。その想像の中で行う、というのを補助する、そんな素晴らしい呪文があるのじゃ」


ほう。


:八百万の神々よ

:此方より彼方へ

:御魂は乖離し

:化身は箱庭に

:遊戯の場

:我は此処に在る

:「これを、恥ずかしがらず、口に出して唱えるのじゃ」


自己暗示、という奴だろうか。

目を瞑って・・・


「八百万の神々よ、此方より彼方へ、御魂は乖離し、化身は箱庭に、遊戯の場、我は此処に在る」


・・・


まあ何ともないよね。


目を開けると、変わらず老婆が目の前に。


・・・


?!


いつの間にか、部屋ではなく、草原に立っている。

手にはショートソード。


「な・・・これは・・・一体?!」


「これが想像力、じゃよ」


老婆がにたり、と笑う。


想像力すげええ?!

異世界転移みたい。


・・・あれ、これ帰れるのか?

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