第3話 愛の一振り
「で??どーゆー事なの??工藤クン?」
と口火を切ったら工藤の女装の理由は何てことは無く、ただ好きだからの一言でアッサリ片付けられてしまった。曰くパッとしない何もない自分を大きく変われる、輝く事ができる事が女装である。ゲイでもホモでも無く、本人はどノーマルとの主張。
「あの……星野さん」
「何よ」
「その……あの被っていいかな、ヅラ」
さっきまでゴシ〜ックでロリ〜タで大人のオンナ、クールビューティ決めっ★!!であったのが、ヅラが取れて短髪スポーツ刈りがゴスロリを着ている文化祭の悪ノリの格好だった。……化粧はバッチリキマッているが。
「まぁ確かに絵的にちょっとキツイから、いーよ」
「……ハイ、すみません」すちゃっズボッ
「バレちゃった」
カツラを被った瞬間にオドオドしてた姿から大人の余裕の微笑み。……おのれ、おのれぇ。綺麗じゃないの。
「何変わるの?」
「何が?」
「さっきと180度違うよ、フンイキ」
「うん。変わる。だから好きになって、気づいたらめちゃくちゃハマってた」
その飄々としたヨユーの態度に少しムカッと来たが、私は工藤にさらに質問を続ける。
「いつから?どうやって?ソレやり始めたの?」
「去年。ウチの母親がメイクの仕事してんの。女の子が欲しかったのか、子供の頃は良く女の子の服着せられてメイクとかされてた。」
「はぁ」
をいをい「私」でいくんだ。そのカッコの時は。
「……でなんてゆーかそう言った感じで下地はあったんだ。んで自分で女装をやり出したのはぶっちゃけここ最近。さっきも言ったけど、ほら私って何もパッとしないじゃん、普段は。星野さんもそう思うでしょ」
普段の工藤を思い出す。と言ってもガッコーにいる時は、今まで喋ったことなんかない。クラスに一人はいるぼっちなくらーいオタクな感じ?何か端っこの方で本を読んでて、いるのかいないのか分からん感じ。
「だよね。やっぱり。だからこうクラスのみんなを見ていると何かこう青春してるなぁ輝いてるなぁが強くて。痛くて。羨ましくて。自分も輝きたくて……だからしちゃった」
少し間が空いて、喋ることも見当たらず。タバコに火を付ける。
「駄目だよ。星野さん。未成年でしかも女の子がタバコなんか吸っちゃ」
おめぇが言うのか、それ!つかアンタも吸ってたじゃん!!イラッときたので豪快に紫煙を撒き散らす。
「……まぁそーだね」
と工藤もタバコに火をつける。ん??そう言えばあいつ!さっきシガレットキスしてきた??んんん??いやっ、さっきはキスなんかじゃないって言ってたけど。ソレはソレ。えぇえ、マジなんかあのーその。まあキモい。んん待って待ってそう言えば私ゲロまみれだったよね??アレ?制服は?てか今更だけどこの服って??ぇ?ぇえええ???
「ああ。干しといたよ」
「てか、あたしブラまで変わってるんだけど、あんたまさか……」
「いーじゃん女同士なんだし」
「ちげーだろ」
どノーマルとかさっきは言ってた癖に都合よく男と女切り替えんな。
「んじゃ見たよね」
「うん?」
「あたしの……裸」
「……ハイ」
「サイッテーー」
思いっきり副流煙を工藤めがけてブチまける。マジありえない。ゲホつく工藤。てかアレ?あたしさっきそんな男?にフラれた事を慰められてた?
「ねぇ星野さん、フラれたって言ってたけどさ」
思ってた矢先に工藤はその話を振る。
「星野さん、その大学生の先輩が好きだったんだよね。泣いてたしね」
「そらまぁ好きだよ。泣いてたしね」
タバコを灰皿へもみ消す。窓の方を眺める。アパート2階から見える景色はとても低い。ここからは星は見えない。テレビは緊急ニュースのテロップが流れる。連続殺人 6人目の少女の遺体が発見される。と。マジか私の街じゃん。怖っ。
「何が好きだったの?」
「何で?」
「だってさっきの話聞く限りだとすんごい酷いクズ男じゃん」
アンタがソレ言うかい。
「もうマジでクズ。本気のクズ。キングクズ」
「けどそんな露骨なクズ男を星野さんは好きだったんでしょ。涙を流してたし。星野さんの好きって何なのかな?て気になって」
あぁ〜〜〜〜。何でこうも痛いところをつくのかな。てか何でそんなん聞くわけよ。けれど何か言わなきゃなと考え込む。何だろ?私の好きって。
好き。愛。恋。そんなん有り触れてるモノ。うん千円払ってホテルに入り体とカラダを晒しあって、アナにボウを突っ込んで飛び跳ねて、きゃうんキュるんと言ってたら万事おk。そんなお手軽な遊び。
けど何か違う。絶対に何か違う。違うんだよ、ナニかが。いや楽しいし心が弾むよ。キスもSEXも。けどそうじゃない。
そうだ。空っぽなんだ。あたしって。うん空っぽだ。注いで欲しいんだ。愛を。ぽっかり空いた私のハート。キラキラ空に輝く星々が金平糖だったらすんごい甘いんだろうなぁ。そんなものをきっといっぱい埋めて欲しいんだ。
そしたら違う。私の恋愛は。
じゃあ?私が欲しいのって?私の好きって。ううんある。あるよ。ただソレがちょっとダサくて恥ずいから口に出してなかっただけで。絶対にある。私の答え。
「死ねるくらいに貴方が好きだって言ってくれる人と一緒にいたい」
「……ハイ?」
工藤は目を開く。そんな工藤に真っ直ぐに目線をぶつける。
「多分、うん絶対。ソレが私の好き。ソレを言われたい。」
「ソレが星野さんの」
「うん、コレが私の好きってやつ」
沈黙。呆然とする工藤。何よ、そりゃ痛いよ。あたしだってそう思うよ。重いよ想いがって思うよ、そりゃ。けれどコレが本当。嘘偽りないあたしの好きは絶対にコレだ。
固まってると思ってた工藤の顔が崩れる。手で口を覆う。かと思ったら突然を腹を抱えて笑いだし始めた。女装のキャラをぶち壊すくらいの大爆笑。
「そんなおかしい?」
「アハハハハ!!いや、ごめん。そう言うつもりじゃないんだ。けれどもあまりにも同じすぎて、ソレがおかしくて。アハハ。はぁ、ホントにおかしい」
いるんだな。こんなに近くに。と工藤がポツリと小さい声でつぶやく。ソレは私への言葉じゃないみたいだ。
そろそろ良い時間になってきたし帰ろうとすると、もう少しで制服が乾くからと引き止められる。また紅茶淹れるねと工藤はキッチンへと向かう。
テレビをボーっと見ながらさっき言った言葉を考える。そして元カレのクズの言葉が頭によぎる。
「確かにあたし達がしてた事は本当の愛じゃなかった」
誰に言うでも無く一人呟く。けど私の中の本当の愛って何なのか?……多分それが分かったよ。だからthank you。アンドバイビー。パイセン。
テレビはまたさっきの連続殺人のニュース。新情報とニュースキャスターが淡々と告げてた。
6件目の殺害の時、被害者女性が誰かとカフェで待ち合わせしていた。それを監視カメラが捉えた。その待ち合わせの相手が今回事件の鍵を握っているのかもしれないと。
監視カメラに映った女性はゴスロリの服装をしている。身長の高さからもしかしたら女装をした男の可能性もある………と。
……え(*´ω`*)??
「星野さん」
バッと振り返る。心臓が突然高鳴る。高鳴りすぎてうるさい。ヤバい、すごく動揺をしてる。
目の前にはゴスロリ女装をした男。工藤があたしを見下ろしていた。
手に持っていたものは。
包丁。
え?え?マジで?マジ??
「さっき星野さんが言った言葉笑っちゃたんだけど、アレはソレがおかしてくて笑ったんじゃない」
ヤバい。コレはたぶんマジでヤバいヤツ。アレ?声が出ない。マジかびっくりしすぎたら声なんか出せないって何かどっかで聞いたことあるけど、コレがソレか?
「アレはあまりにも一緒だから、つい笑っちゃたんだよ」
ドドドドドドドドドドドドドドドド
BLEACHでしか見た事無い音が私の心臓を絶え間なく打ち続けてる。それに重なるように工藤は言葉を続ける。
「死ねるくらいに貴方が好き」
「私もそう言って欲しい。ソレが本当の愛だ。そう思ってた」
「私、いや僕はずっと1人だった。母親も今は新しい男に夢中」
「僕は空っぽだ。だから知りたかった。僕が定義したこの恋だとか愛だとかは。ホントにソレを知りたくて」
「だから刺したんだ。何人も。」
「けど分からなかった」
ヤバい。こいつ。意味が分からない。マジでヤバいヤツだ。
「けど出会えた。僕と同じ考えを持つ。君に」
足が震えて。動けない。
「君に僕のこの定義を。愛を。恋を。………ぶつけたらもしかしたら分かりそうで」
工藤は右手に持っていた包丁を振り上げて
「だから死んでくれないか。愛を教えて欲しい」
振り下ろした。
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