第2話 泣きぼくろと紅茶

「もしかして工藤?」


それが私が目が覚めて、1時間後の発言。コレがおおいに凍りつかせてしまった。


目が覚めたら私は知らないアパートにいた。部屋は六畳程の1K。インテリアなんかも全然ない、言ってしまえば生活感が感じられない部屋だ。


そのアパートは、ゴスロリおねーさんの家だった。


「あっ起きた?よかったぁ」


とキョロキョロしてたらおねーさんがキッチンの方からやってきた。手にはティーカップと紅茶が入ってるティーサーバーを持っていた。服はゴスロリから着替えてない。


「とりあえずアールグレイ飲む?落ち着くよ?」


おねーさんは真夏で、しかも先程暑さでゲロ吐いてぶっ倒れた私に対して、紅茶をカップへ注いでいく。


マジであり得ないと思いつつ、喉も渇いてた事もあり頂きますとカップへ口をつける。鼻腔をくすぐる良い香りと良い感じの渋みと甘さ。一口つけたら途端にあっ美味しいと呟いてしまった。そんな私を見て、フフフと笑うおねーさん。


「どう?寝てたらだいぶ楽になった?」


「アッハイ……オカゲサマでだいば気持ち悪いの無くなりました。すみません、ご迷惑をおかけして」


「いいの。それにしても良かったぁ。倒れた時は、私びっくりしちゃったもん。けどウンウン言っててバカヤロー、コノヤローみたいな事を言ってうなされてて、私なんかタイヘンな事に巻き込まれてるの、この子?って少しドキドキしちゃって……」


「お恥ずかしいトコロをお見せしました……」


私は顔を赤くなってる事が分かり、急に恥ずかしくなってハニカミながら俯く。そしたらぐるんぐるんと今日あった事が頭によぎり出し始めた。フラれた事。


何で私がフラれなきゃならない、あんなクズ男に。ホテルの金すら出せなく出させるクズ男に。なーにが本当の愛を知りたいんだじゃ。てめえとの間にそんなもん生まれんわ、アホォ!!


……けど上手いんだよなぁ、ベッドは。夜の間は、突かれて疲れて少し休むを繰り返し。たまーに親がいないって事で先輩の家でもヤッてた。受験勉強のリフレッシュのため!!とか何とか理由をつけて、ここでもまた突かれ疲れすこーし休憩の繰り返し。勉強そっちのけで。おなかがすいたーと言われたら冷蔵庫にある食材でテキトーにチャーハン作って、裸どうしで二人でだらだら食べた。そんな突かれて疲れる毎日が………やっぱり楽しかった。


テレビではニュースが流れている。最近、県内で若い女の子を狙った連続殺人の報道だ。だけどそんなテレビから聞こえる音が全く私のノーミソには入ってかない。


本当の愛ってホントに何なの?


って言葉が脳裏過ぎったら私の手の甲にポタポタと水が落ちてきた。あたし泣いてんじゃん、ちょー恥ずいと思ってたらブワアっと涙が吹き出た。おねーさんはそれを見てびっくりして大丈夫?と私に寄り添ってきたのだが、一度火がついた心にブレーキをかける方法をあたしは知らなかった。やがてそれが嗚咽となってオンオンと泣き出した。なんて汚い涙なのだろう。


私に寄り添い心配そうにしてるおねーさん。テレビはやっぱり連続殺人鬼のニュース。隣町。5件目。突発的じゃなく計画的な殺人。シリアルキラー。とか言ってる。もう何なのさ、うるさいよ。


泣き疲れて残ったのは涙で化粧が剥がれてブチャイクな私の顔。落ち着くからとお姉さんはまた紅茶を注いでくれた。カップを手にする時にチラリとお姉さんの泣きぼくろが目にとまる。キュートだ。紅茶をズズっと飲む。やっぱり美味しいや。ん?けどあの泣きぼくろ……?うーん?


「それで何かあったの?」とおねーさんが切り出すとあたしはアソコしかクールじゃないクズ男な元カレの話をマシンガンのようにガンガンし始めた。……初めてあった人にここまでかってくらい自分を曝け出して、ノンストップフルドライブで語り尽くした。


チリンとこの質素すぎる部屋で唯一と言っても良いくらいの存在感の風鈴が鳴った。


「酷い男だね」


タハハとおねーさんが苦笑する。タバコに火をつけ紫煙をくぐらせる。


「ですよね!!」


とすっかり意気投合した私は、もう遠慮なし無礼講モードに突入してたので一人の時しか吸わないタバコを吸おうとして、ソフトパックのセブンスターを一本取り出して火をつけようとしたらおねーさんに止められる。未成年でしょと。


「いーじゃないですか!!私、酷い男にフラれてるんすから」

「そうだね。まいっか」

「アレ?ライター落とした?うわっサイアク。」


ポケットとカバンを弄るが無いので「火かしてください」と言ったら、おねーさんが、ん!と唇を少し曲げ顔を私へ向ける。カワイイ。


ピンときて私はタバコを近づける。ジジッとタバコとタバコで火をつける。シガレットキス。キスって言葉だけど何一つキスでは無い。けれど少しオンナどうしでキスまがいの事をしてる絵ヅラに少しときめいた。火種が私の方へと移る。がおおおっと空気清浄機が仕事をし始めた。


「おねーさん、その、なんか、色々とありがとうございます」

「いーよ別に私も何か楽しかったし」

「私もすんごく楽しかったです。あの?また会いませんか??line交換してくれません??てか名前も聞いてなかった?何です??」


そしたら微笑んでいたおねーさんが少し曇って。


「ごめん、ちょーどスマホ修理出してんの」

「じゃああたしの番号渡すんで必ずかけてくださいね?でお名前は何です?」

「えーと??江戸川蘭子」

「て何ソレ?絶対ウソじゃ無いっすか!!ホントは」

「ホントに江戸川蘭子」


と謎の問答が続いて。さすがのあたしもアレ??って疑問がふってくる。


堪らなくなったのか早く帰したくて焦ったのかおねーさんが切り出す。


「もう時間こんな時間だし、今日は帰ろ、星野さん。家の人も心配してるだろうし」

「……えっ」


固まる私。


「何?」

「……言ってない」

「え?」

「私、名前言ってない」

「!」

「何で知ってるんすか」

「いやー、そのあの……学生証!!さっき介抱してる時カバンの中見たら!学生証を見て、ソレで!!」


私の疑念は解けない。何で知ってるの?私、知ってるこの人?あの泣きぼくろ??……どこかで?


その時、おねーさんが焦って立ち上がろうとして、テーブルにあったティーサーバーをひっくり返して溢す。アッヂいい!!と足に紅茶がかかり転んだ。


「だっ、大丈夫ですか!」とお姉さんの方へ近づくと髪の毛が取れてる、ヅラだ。ホントの髪はベリーショートって言うには、少しメンズな感じ。「いたた……」と起き上がるおねーさんの顔を見て、私は驚く。


そうだあの泣きぼくろどこかでみたと思ったら。


「もしかして工藤?」


高校のクラスメイトの男子。工藤。


「アッ……ハイ」


と工藤は返す。


何とも言えなく場は凍りついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る