ロストボーイフレンド

長月 有樹

第1話 ロストボーイフレンド

「本当の愛を知りたいんだ」


ソレがカレが残した最後の言葉だった。


茹だるような暑い夏。と言うには簡単に片付けられてしまうようで少ししゃくに障る。と感じてしまう程の暑い夏で私、星野美嘉は半年ちょい付き合っていた1個上の大学1年カレシにフラれた。理由は、単純で遠距離恋愛。1個上の同じ市にある進学校でかつ男子校の先輩だった。恋に距離は関係ない、そんなモノは障害にならない向こうに言っても大丈夫と言ったのはアイツの方なのに入った大学の演劇サークルでの新歓パーティで出会った3年の先輩にパクリと骨の髄までいかれてしまって、イカされてしまって、その女にイカれてしまった。その女の事で頭がいっぱいで私のことなんか頭のメモリのどこにも収まり切らん的な旨の言い訳じみたのをチョロチョロ織り交ぜつつ、案外正直に好きじゃ無くなったから別れようと長ったらしい割には中身が無いlineを小出しに送ってきてフラれた。


10〜20秒の感覚でポン!ポン!と小刻みに更新されてくる元カレのlineに滑稽さを感じつつ、こんなヤツに私の初めてを奪われたことに対して、溜息も出てきてしまう。彼のゴニョゴニョにゴムをラッピングしたのも私だ。私と言う人間は、飽きっぽく冷めやすい。けれども燃えてる時は限界まで燃え盛る。そう、灰になるまで美しく炎が踊る。美しく燃える森に佇む妖精、そりゃ私の事ョ!だからこそ今となっては、しょーもねえなとしか思えないこのクソみてえな元カレに対しても尽くしに尽くした。ビデオで復習万全。an・anで研究万全。ゴムヨシ!ピルヨシ!!カモンマイホール!!てなくらいに夜のスポーツについては、常にイメージする最強の自分を描き続けたし。SAGA。ホテルの休憩料金だって私が出した事だって一回や二回ではない。三回か四回は、かもしれない。


大学に進学してから一日に20ラリーしてたlineが一週間を待たずに半分に減りその次の週には週に一回。月を跨ぐとアイツ発信のモノは0になったという露骨っぷりだったし、まぁ近い将来終わるなと思ってたというかほぼほぼ終わっていた私の初恋は、こうも簡単に幕を閉じた。Ah儚い!!


リズミカルに先程まで音を奏でていたカレの言い訳lineは私が未読スルーをキメ始めると鳴りやみ、数分後ルームを退室した。そして冒頭にある言葉が最後に残った。本当の愛って何?つか私とのは偽物?紛い物の愛なの?


酸っぱくアッサリした初恋の終わりを体験した私は何故だかムショーにおなかがすいて、目にとまった駅前のマックにふらっと入り、ビッグマックにポテトLセット、ドリンクはゼロカロリーのコーラを頼み、凄い勢いで平らげた後、これまた目に止まったカラオケボックスでヒトカラをやり始めて、ノンストップで歌い続けた。10曲目くらいのB’zのウルトラソウルのサビのラストで中指を突き立てながらシャウトをしたら何故だか大粒の泪がこぼれ落ちてきた。その後、しゃくり上げながら涙のKissをもう一度と泪と鼻水で顔をくしゃくしゃにさせて歌った。退店するとき、バイトの兄ちゃんに変な目で見られてるのを意識しないようしないようとしてダッシュで店を出た。


疾走/爆走/激走。兎に角すんごい勢いすんごいスピードで私は走り抜ける。自慢の長い黒髪を風は優しく包まなかった。何故?イノチミジカイコイセヨオトメなんて言葉があるんだろ?とどうでも良いような事を頭に過ぎらせつつ、私は駆け抜ける。


そんな勢いも束の間。猛烈な気持ち悪さが胃から口元に駆け上り、アッコレヤバっと思った時には、そこそこ賑わいを見せている駅前の大通りで私は吐いた。


ゲェ!!オェエエエエ!!グェエエエエ!!!とおよそ女子高生が出してはアウトな奇声を出しつつ、ぐちゃぐちゃしてる半溶解状態なさっきまでハンバーガーとポテトだったものをリバース。更に史上最高の気温を更新した今年の名古屋の暑さもそれに気持ち悪さに拍車をかけ私は倒れ込んだ。自分の髪の毛か自分の吐瀉物がぐっちょりと漬かるが、そんな事を気にしてる余裕もどこにもなかった。


周りに人だかりができ、ざわつき始める事に恥ずかしさや惨めさを感じつつもあまりの気持ち悪さで倒れ込みながらゼイゼイと息を切らす事でしかコールアンドレスポンスができない。もう恥ずかしさでこのまま死にたいと思っている中、救いの手がやってきた。


「大丈夫ですか?気持ち悪いんですか?」


そう言いながら一人の女性が私のもとに近づいてハンカチを差し出した。


明るい茶髪ボブヘヤーで、ゴシックでロリータな黒いドレスのような服装の見た目そんな年も変わらなそうな女性だった。


「あー、折角の奇麗な髪がベトベト。取りあえず涼しいとこ行きましょ!地下に行きましょ!」


と私のゲロまみれになった私の黒髪をハンカチで拭き取りつつ、見た目の割に強い力で私を引っ張り起こしつつ地下街へと避難させようとした。


「ダイジョブです(ゼヒゼヒ)」

「いや全然ダイジョバナイですよ、見た目!」


と少しお間抜けな会話をしつつ、よろめきながら、あっ目元に泣きぼくろある。カワイイなと心中更に間抜けな事を思いつつ、ここで私の記憶は一旦途切れた。

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