2章

 みんなが元の姿に戻り、私の問題も無事解決し、聖域には静けさが戻った。

 いや、みんなの楽しそうな声が聞こえるから賑やかになった!


 朝からみんなでランニング……ではなくて、私だけついていけないからジョギングになっているけれど、一緒に鍛えたりしているので一日中活気がある。

 相変わらずごはんも美味しそうにたくさん食べてくれるし、リックとリュシーの漫才のようなやり取りも絶好調だ。

 クレールも加わって……トリオ、かな?

 パトリスの特訓は相変わらず鬼仕様のようだが、模擬戦ではエドがパトリスの相手をするようになったから、「少しだけマシになった」とリックが涙をにじませながら話してくれた。

 そして、私は聖域での暮らしをより快適にするため、みんなには資材集めで協力して貰いながら、聖魔法で大きな屋敷を造った。

 その他にも大浴場や訓練場、畑用の小屋なども建てた。

 もう、王都で暮らすより快適かもしれない。

 ……ううん、もっともっとみんなにハッピーになって貰うため、楽しめる場所も造るぞ!


 聖域を訪れようとする人が増えていると聞いていたが、迷いの森がちゃんと作用しているようで誰一人現れないし、とても平和だ。


 そんな楽しくて慌ただしい日々を送っていると、ある日突然セインがやって来た。


「野良聖女……いや、隠居聖女というべきか? 充実した日々を送っていそうで何よりだ」

「そういうセインも相変わらず顔色が悪いね。……というか、森に『迷い』の効果をつけたのに……」


 セインなら見破るだろうなと思っていたけれど、実際にやられると悔しい……。


「確かにそんな小細工があった気がするな」

「小細工……!」


 一生懸命作った迷いの森を『小細工』だなんて!

 目の下のクマを指で突き刺しちゃおうかな!

 ツボを突いたら血行がよくなってクマがとれるかもね!


「この聖域もお前が創り直したのか? 入ることはできないが……壊すことはできるかもしれない。試していいか?」

「いいよ! っていうわけないでしょ……」


 壊されない自信はあるけれど、それを言うと試されそうなので口にしない。

 それにしても、セインって結局はメレディス様……?

 今まで通りの態度で接しているけれど、いいのだろうか。

 問題があれば何か言ってくるだろうし、とにかくセインの正体に関わることには何も触れないようにしよう。

 藪から蛇が出て来たら困る。


「それで、用事は何なの? 遊びに来たとか?」

「お前程暇じゃない。お前にしかできないことがあるから、手伝って欲しい」

「手伝いをお願いするのに、余計な言葉があったんじゃないかなー!」

「セイン殿、あまりコハネをいじめないでくれ」


 訪問者はセインだと分かってはいたが、ついてきてくれたエドが口を挟んで微笑んだ。

 私とセインはいつもこんな感じだが、「ほどほどに」と庇ってくれたようだ。

 エドの優しさに思わず頬が緩む。


「いじめるだなんて人聞きが悪い。いじめられているのは俺の方だ。俺は日々忙殺されているというのに……見てくれ、コハネのこの締まりのない顔を」

「締まってます! もう、話がないなら帰ってね!?」

「頼みがあると言っただろう? お前にリノ村の聖樹の浄化をして欲しいんだ」

「あ! ダイアナが浄化したところね」

「そうだ」


 セインは今、ダイアナが引き起こしたことの後始末をしてまわっているらしい。

 ダイアナが私からコピーした聖魔法を使ったことで、王都周辺の田畑は成長したり、すぐに枯れたりと大変なことになっていたようなのだが、それは解決済だという。

 私が王都の聖樹を完全に浄化したことで、田畑に良い影響がでたようだ。

 だから、王都に関しては心配いらないようだが……問題はリノ村の聖樹だ。


「ダイアナの浄化だけでは、やはり完全な浄化は出来ていなかった。日に日に状態が悪くなっている」


 村人達は王都に避難しているため、人に被害はないが、このままでは廃村にするしかないという。

 国としてはそれも視野に入れていたが、村人達はどうしても帰りたいと言っているため、私に頼みにきたそうだ。


「そういうことなら、もちろん協力するわ!」


 日本という故郷をなくした私には、生まれ育った場所に帰れないつらさが痛いほど分かる。


「エド! 私、行って来るね」

「……コハネ、俺はコハネの騎士だぞ? 俺も行くに決まっているだろ?」


 何を言っているんだ? という風に呆れているエドを見てきょとんとした。

 そうか、つい「行ってきます」の感じになってしまったけれど、一緒に来てくれるようだ。


「うん!」


 嬉しくて笑顔で頷くと、背後から声が飛んで来た。


「私も行きますよ」

「おれも!」

「僕も」

「オレも……」


 振り向くと、みんなが立っていた。

 エドが苦笑いをすると、パトリスが微笑んだ。


「このまま見守っていると、置いて行かれそうなので出てきちゃいました」

「そうそう。留守番なんて嫌ですからね!」


 リックの言葉に、リュシーも頷いている。


「お前のところは過保護だな」


 セインの呟きに私も同意しちゃう。

 みんなは優しくてとっても過保護だ。

 でも、嬉しいので自慢したい……私達、仲良しなんです!


「ああ、そうだ。リノ村にはアーロンがいるが……構わないな?」

「えっ」


 ……アーロン様が?

 エドが少し心配そうに私を見たので、苦笑いで「大丈夫」と返した。


「構わないけれど……あまり関わりたくはないかなあ」


 まったく! 一ミリも! 引きずってはいないけれど、改めて話すこともない。

 アーロン様の方も気まずいだろうし……。


「まあ、顔を合わせる程度だろう。気になるならどこかに行かせる」

「どこかに行かせる、って……」


 こういうセリフを聞くと、やっぱりメレディス様なんだなあと思ったけれど……セインのままでも「別のところにいろ」と平気で言ってた気もする。


 少しモヤッとしたが、私達は気を取り直してリノ村へ出発した。






※お知らせ※

FLOS COMIC様にて、猫宮なお先生が描いてくださるコミカライズ『奪われ聖女と呪われ騎士団の聖域引き篭もりスローライフ』が連載開始しました。とっても美しくて素敵なのでぜひ読んで頂けると嬉しいです!

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奪われ聖女と呪われ騎士団の聖域引き篭もりスローライフ 花果唯 @ohana

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